更新日:2025/06/17(公開日:2021/11/29)

顧客ID統合

企業が注目する顧客ID統合とは?必要な理由やメリット、事例を紹介

ビジネスのDX化・IT化が急速に進む昨今、正しく顧客を理解し、顧客のニーズに適した顧客体験(CX)を提供するための顧客データの重要性はますます高まっています。一方で、顧客データの収集・保管・利用にまつわるビジネス課題も浮き彫りになっており、その抜本的な解決策として「顧客ID統合」への注目が高まっています。

この記事では、顧客ID統合の考え方や、その必要性が高まっている背景とメリットを、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。

この記事の内容
  • 顧客ID統合とは、企業が運営する複数のサイトやサービスにおける顧客IDと顧客データを一元管理する仕組みで、近年注目が高まっている
  • 顧客ID統合のメリットは、新規顧客の獲得・LTVの向上・プライバシー法規制への対応・セキュリティ向上などが挙げられる
  • 顧客ID統合の実現には、単体のシステム構成に検討にとどまらず、関連するフロントシステムや収集した顧客データを連携させるバックエンドシステムとの連携などシステム全体のアーキテクチャ、認証機能、プライバシー法制度への対応、セキュリティ対策など、多岐にわたる検討が必要
  • 顧客ID統合プロジェクトは、解決したい課題や達成したいビジョンを整理したうえで全社的なプロジェクトとして推進するとともに、必要に応じてクラウド型CIAMソリューションや豊富な知見を有する外部専門家の活用も有効

顧客ID統合とは何か

顧客ID統合とは、企業において複数の事業・サービスで個別に管理されていた顧客IDと顧客データを一元化して管理・利用できるようにすることです。

顧客ID統合を実現することで、顧客は同一企業が提供しているサイトやサービスで複数のID・パスワードを管理する必要がなくなり、顧客体験が大きく向上します。一方、企業側にとっても顧客IDシステムや顧客データを複数部署でバラバラに管理する必要がなくなるため、コストの削減につながるだけでなく、セキュリティリスクを低下させることも大きなメリットとなります。また、各事業ラインにおける顧客の行動や購入履歴などの状況を全社レベルで正確に把握でき、事業ラインをまたがってより適切な顧客体験を提供できるようになります。そのことにより、顧客との間で長期的な関係を構築し、顧客生涯価値(LTV)を向上させていくことが出来るでしょう。

顧客ID統合の必要性が高まっている背景となる事業目標

ここからは、近年、顧客ID統合への注目が高まっている背景にある、ビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって達成すべき事業目標と、それらを達成するうえで克服しなければならない課題を整理し、その対策について解説します。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって達成すべき事業目標には、下記の4点があります。

  • 新規顧客(新規顧客ID登録者)の獲得
  • 顧客IDを登録した顧客の顧客生涯価値(LTV)の向上
  • プライバシー法規制への対応
  • 保管している顧客データのセキュリティ向上

事業目標ごとに課題と対策を紹介します。 

事業目標1: 新規顧客(新規顧客ID登録者)の獲得

顧客ID統合により達成できる事業目標の1つ目は「新規顧客(新規顧客ID登録者)の獲得」です。顧客IDは、顧客一人ひとりを正しく識別・理解するために必須のものであり、新しくお客様となっていただいたユーザーがスムーズに顧客IDを登録できるようになっていなければなりません。

課題

新規顧客が登録する際、画面UIがわかりづらい、または、入力・操作しづらいために途中で離脱してしまうケースが見られます。例えば、求められるパスワードのルールが複雑すぎる、大量の顧客データ入力を求められる、などです。

また、既存サービスに登録済みで顧客IDがあるにも関わらず、同一企業の別サービスを利用する際に新たにID登録を求められ、離脱するケースも見られます。結果として、本来であれば得られるはずだった既存顧客へのクロスセルの機会を逃してしまうことになります。

対策

上記の課題を改善するためには、顧客体験を重要視した適切な画面UI設計が必要です。登録時には必要最小限な情報入力を求め、モバイル端末でも快適に操作できるよう、最適化された画面を提供することが求められます。

また、そもそも複雑なパスワードを登録・入力する必要がない、例えばパスキーなどのパスワードレス認証を導入することも効果的です。他にも、Googleアカウントなど外部のアカウントを用いた登録を可能にするなど、同一の顧客IDで複数のサービスを利用できる環境を提供することで顧客の負担を軽減できます。

事業目標2: 顧客IDを登録した顧客の顧客生涯価値(LTV)の向上

顧客ID統合により達成できる事業目標の2つ目は、「顧客IDを登録した顧客の顧客生涯価値(LTV)の向上」です。登録いただいた顧客IDに紐づけて顧客データを適切に収集・管理し、それらを顧客データを利用するマーケティングシステムやCRMなどと適切に連携させて最適な顧客体験を提供することで自社の商品・サービスを利用いただく機会を増やし、長期的な関係を構築することで、LTVの向上を実現させていきます。

課題

ログイン時の画面UIが使いにくいためログインを完了せずに離脱したり、複数のサービスを遷移する際に再ログインを求められたために離脱するケースがあります。こうした状況がサービスのリテンション(継続利用)の向上を妨げています。

また、顧客データベースが複数のシステムや部門に分散(サイロ化)していると、顧客情報の一元的把握が困難になり、どのデータが正確であるかについて判断が困難になります。AIを活用したDX施策の展開やデータ分析を進めるうえでも、正確な顧客データは必須です。

さらに、あるサービスで得られた顧客データを他サービス・ビジネスラインで活用できないと、クロスチャネルやオムニチャネルでの最適な顧客体験を提供できません。こうした状況もLTV向上において大きな課題となっています。

対策

これらの課題に対しては最小限の操作で簡単かつ安全にログインできる画面UI設計やパスワードレス認証などの機能の提供が必要です。また、複数のサービス間を遷移する際にログイン状態を保持できるシングルサインオン(SSO)を導入すれば、顧客は煩わしさを感じることなくシームレスに複数のサービスをまたがって利用できるようになります。

顧客データベースのサイロ化を解消し、単一で信頼でき、かつ最新情報を保持するシングルカスタマービュー(SCV)を構築することも重要です。統合された顧客データベースにより、各サービス、チャネル、ビジネスラインが同一の顧客情報にアクセスできるようになり、精度の高いマーケティング施策やパーソナライズされた顧客体験の提供が可能になります。 

事業目標3: プライバシー法規制への対応

顧客ID統合により達成できる3つ目の事業目標は「プライバシー法規制への対応」です。法令順守は、社会における企業への信頼、顧客との関係を築くうえで極めて重要な事項です。また、消費者のプライバシーへの意識は高まっており、それらを受けて日本をはじめ各国のプライバシー法制度は強化されています。EU各国で施行されているGDPRや、カリフォルニア州で施行されているCCPAなどはその一例です。これら法規制への準拠を怠ることは、巨額の制裁金を課されるだけでなく、大きなレピュテーションリスクを伴う結果を招きかねません。

課題

顧客データの収集・活用においては、「利用目的の説明とそれに対する事前の同意」が厳格に求められています。しかし、多くの企業では、顧客IDと紐づけた同意の管理が不十分であり、利用規約やプライバシーポリシーの更新時も再同意を促せていないのが実状です。

また、メール・電話・SMSなどコミュニケーション手段への同意とマーケティングオートメーション(MA)・CRMなどバックエンドシステムとの連携がうまく構築できておらず、同意していない顧客にコミュニケーションを取ってしまい、顧客満足度低下を引き起こすケースもあります。

昨今では、顧客側が自身のプライバシー、そして顧客データに対する権利意識を高めており、GDPRをはじめとする各国のプライバシー法規制においてもその権利を認める流れにあります。その一つとして、顧客が自身に関する顧客データの開示・修正・削除を要求する権利が認められつつありますが、顧客からそのような要求があった場合の企業側の対応は十分とは言えない状況です。

対策

まず、全社レベルで利用規約・プライバシーポリシーを整備し、それらへの同意情報と顧客IDを紐づけて管理できる環境を構築します。そして利用規約やプライバシーポリシーを更新した際には、顧客に対して再同意を促す機能を提供することも重要です。

マーケティングコミュニケーションへの同意も顧客IDと紐づけて管理し、それらをMAやCRMと連携させて、同意した顧客のみに当該チャネルでコミュニケーションを取るようにします。さらに、顧客がSCVに格納されている自身のデータをいつでも閲覧・修正・削除できる機能を提供することで、プライバシー法制度に適切に準拠していきます。また、これらの機能は顧客のプライバシーを尊重する姿勢を示すことにもつながり、顧客からの信頼を高めることも期待できます。

事業目標4: 保管している顧客データのセキュリティ向上

顧客ID統合により達成できる4つ目の事業目標は「保管している顧客データのセキュリティ向上」です。顧客の信頼を確保し、企業としての社会的責任を果たすためにも不可欠な事項となります。

課題

ログイン認証に際してセキュリティが十分に考慮されていない場合、顧客IDが不正に利用されてしまうリスクがあります。昨今、証券会社の口座が乗っ取られる被害が急増していますが、その原因の一つとして単純なID・パスワード方式による認証方式が指摘されているところです。一方で、パスワードの複雑化を強制すると顧客体験の低下を招く懸念があります。

また、全社レベルにおいて二要素認証やリスクベース認証、パスワードレス認証といった高度な認証技術の導入ノウハウや予算が不足しており、事業部レベルでも顧客データベースを守るための十分な知識と体制が整っていないというケースもあるようです。AI技術の発展・普及により攻撃手法が巧妙化する中、今後さらなるリスクへの備えが急務となっています。

対策

まずは二要素認証・リスクベース認証といった既存のパスワード認証システムの強化に全社レベルで取り組む必要があります。加えてパスキーなど最新の脱パスワード化を進めて、セキュリティを向上させるとともに顧客体験の向上につなげることも重要です。

全社レベルで構築したSCVを守るための対策に予算などのリソースを充てることも必要になります。 

事業目標の達成には顧客ID統合が決め手となる

前項で挙げた対策は、サービスを主管する事業部レベルでの実行は難しい場合が多いのが実情です。顧客ID統合を進めるためには、単体のシステム構成に検討にとどまらず、関連するフロントシステムや収集した顧客データを連携させるバックエンドシステムとの連携など将来の拡張性をも見据えたシステム全体のアーキテクチャ、認証機能、プライバシー法制度への対応、セキュリティ対策など、多岐にわたる検討が求められます。

そのため、顧客ID統合プロジェクトは会社内の複数の組織をまたがる全社的なプロジェクトとして推進していく必要があります。

顧客ID統合の推進に向けてCIAMソリューションが提供する機能

顧客ID統合を推進するうえで、カスタマーアイデンティティ・アクセス・マネジメント(CIAM)ソリューションに対する注目が高まっています。CIAMとは、顧客ID・顧客データの管理に関する以下のような機能をクラウドで提供するソリューションです。

  • フロントシステム(Webサイトやアプリなど)と連携した顧客IDの新規登録・ログイン・利用規約・プライバシーポリシー・コミュニケーションに関する同意の管理
  • シングルサインオン(SSO)
  • 二要素認証・パスワードレス認証(パスキーなど)
  • ユーザーによる、自身の顧客データや同意の管理
  • 顧客データの管理と、バックエンドシステムとのデータ連携

代表的なCIAMソリューションとしては、SAPが提供する「SAP CIAM」や、Oktaが提供する「Auth0」が挙げられます。

続いては、当社がこれまでに「SAP CIAM」の導入をご支援した企業様の事例をご紹介します。

顧客ID統合支援プロジェクトの実績 ①|花王株式会社 様

花王株式会社では、2022年12月に公開した「My KAO」の運用に「SAP CIAM」を利用しています。

「My KAO」では、従来ブランドごとに独立して運営してきたECサイトをモール型に統合。さらに、「体験共創型プラットフォーム」として、顧客の興味を引くコンテンツやモニタリングを提供するだけでなく、分析データに基づいた商品・サービスの提供も目標にしています。

「My KAO」の立ち上げでは、顧客ID統合に際して、単一の顧客IDに紐づけられる多様な情報や機能をシンプルにコントロールするための仕組み作りと将来の様々な施策への拡張性の観点から「SAP CIAM」を導入しています。

顧客ID統合支援プロジェクトの実績 ②|ジャパンラグビーマーケティング株式会社 様

ジャパンラグビーマーケティング株式会社様では、2022年の会社設立とほぼ同時期に顧客ID統合の基盤システムとして「SAP CIAM」を導入。

当初はファンマーケティングを行うための基盤がなく、日本代表チームのサイト、プロチームのサイト、グッズ販売サイト、チケットサイトなどがそれぞれに動いていました。そのため集まってくるデータがバラバラで、IDの紐づけがなされていないためユーザー情報が不明瞭な状態でした。

現在では、7つのサービスを「SAP CIAM」で統合管理。運用負荷が少ない点や伴走サポートが優れている点を評価しています。

顧客ID統合支援プロジェクトの実績 ③|株式会社西武ホールディングス様

多種多様な事業会社を擁する株式会社西武ホールディングス様。グループ各社がバラバラに会員を抱えて独自サービスを運営しており、システムやUIも顧客と社員双方にとって使いにくいものでした。そこで、西武グループの豊富なデータ資産を生かすためにもグループ全体で本格的なDX推進に着手。グループ各社が提供するサービスを連携するため、2024年1月に顧客ID統合の基盤システムとして「SAP CIAM」を導入しました

2024年1月16日には西武グループの共通アカウントサービス「SEIBU Smile ID」の運用を開始。 今後もこのIDで利用できるサービスを続々と増やしていく予定です。

顧客ID統合を進めて企業の業績向上につなげよう

顧客ID統合によって、これまで個々のサイト・アプリや事業ラインごとに管理していた顧客ID・顧客データを一元化することが可能になり、顧客データの管理にまつわる稼働やコストも低減されます。一元化された顧客データを活用して顧客に提供するサービスの価値を高めることにより、企業の業績アップにもつなげていくことが顧客ID統合のゴールとも言えます。業界を問わず進められている顧客ID統合の動きは、将来を見据えて必要と判断された結果といえるでしょう。

当社の公式サイトでは、顧客ID統合だけでなく、ビジネスのDX化の推進にに役立つさまざまな資料がダウンロード可能です。顧客ID統合やデジタルトランスフォーメーションをお考えの方は、ぜひご活用ください。

また、当社は、国内の数多くのお客様の顧客ID統合プロジェクトやCIAMソリューションの導入・運用のご支援を通じて蓄積した豊富なノウハウや、お客様のビジネス課題解決に役立つ知識・知見を活かし、顧客ID統合プロジェクトの企画立案を支援する「顧客ID統合 アドバイザリーサービス」も提供しています。

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