2023/04/25

顧客ID統合

ID戦略のマーケティングにおける重要性と得られるメリット・具体例を解説

インターネットやスマートフォンの普及に伴い、デジタル化・IT化が急速に進んでいる中で、ビジネスモデルやマーケティング手法もこのトレンドに合わせた変革を迫られています。とりわけ、顧客一人ひとりを正しく認識し、顧客に関するデータを活用するうえでの基盤となるIDの戦略的な活用による業務効率やCXの向上は重要です。
しかし、そもそもID戦略とは何なのか、どのように進めていけばよいのか、疑問を覚えている方も少なくないようです。今回は、ID統合の重要性やメリット、ID戦略の効果的な促進に役立つ具体例やポイントなどを解説します。

1 ビジネスの効率化とユーザビリティの向上を目指す「ID戦略」

ID戦略とは、顧客IDの統合と活用によるビジネスの変革を指します。
従来、多くの企業では、顧客IDと顧客情報をそれぞれのサービスや事業部ごとに運用・収集・管理するという形で進められてきました。その結果、1人の顧客が、同一の企業が提供している複数のサービスごとにIDを所有していて、それぞれ別人として識別されているケースも珍しくありません。さらに、そのようにバラバラなIDに対して個別に顧客データが紐づいてしまうため、同一の個人に対して複数の顧客データが存在するだけでなく、それらのデータの内容に矛盾が生じてしまい、信頼できる顧客データベースを構築できないという問題を抱えている企業が少なくありません。
そのようなバラバラになってしまっている顧客IDと、顧客IDに紐付いている顧客データを統合し、自社で展開するあらゆるサービスやチャネルをまたがって同一の顧客として正しく認証し、その顧客について信頼できる正しい顧客データベースを構築することが出来れば、複数の事業部やサービス、関連会社を持つ企業において横断的な顧客データの活用が可能になります。その結果、業務およびマーケティングの効率化を実現できるでしょう。また、顧客一人ひとりを正しく認証し、正しい顧客データに基づいて事業部やサービス、チャネルを横断したシームレスなサービス体験や、適切なレコメンドなどパーソナライズされた顧客エンゲージメントを提供することで、ユーザビリティの向上、ひいては顧客からの信頼の向上に基づいた長期的な関係の構築・発展も見込めます。

2 ID戦略の重要性が増している理由

そもそもID戦略の重要性が増しているのにはどのような背景があるのでしょうか。代表的な4つの理由を解説します。

顧客IDの統合に関してはこちらもご覧ください。
「モバイルファースト」なオムニチャネルの顧客体験に求められる顧客ID統合(前編)

2-1 行動様式の変化によりDX対応が求められている

新型コロナウイルスの影響により、人々の行動様式は大きく変化しています。オンライン化・デジタル化が進みネット通販や電子決済が普及するにつれ、旧来型のビジネスモデルも淘汰されてきました。大手企業ですら経営難や破綻に追い込まれています。
一方で、米国のウォルマートをはじめ、DXに注力した企業は売上を伸ばすことに成功しています。状況やニーズが目まぐるしく変わっていく社会で勝ち抜いていくには、企業自体の変革が不可欠です。その変革のカギは、「顧客第一の視点に立ち、企業が欲するものを提供するだけではなく、顧客一人ひとりが自身の好む体験を提供することを手助けすることで、顧客との長期的な関係を構築すること」にあります。そのためには、Webサイトやモバイルアプリなどますます増大するチャネルをまたがって顧客一人ひとりを正しく認識できる顧客IDシステムと、それらのチャネルから登録される顧客データを正しくひとりの顧客に紐づけて管理し、「データのサイロ化」を防ぐとともに、「シングル・カスタマー・ビュー」(顧客360度ビュー)を提供できるデータ基盤の構築が不可欠です。このように、DX推進のカギとなるID戦略はますます重要性が増すと考えられます。

2-2 人口の減少によりリピーターの重要性が増す

日本では出生率の低下に伴い人口が徐々に減少しており、その傾向は今後も続きそうです。内閣府の予測では、2010年に約1億2800万人だった人口は、2048年には1億人を下まわり、2060年には約8700万人にまで減少します。米国ワシントン大学の報告では、世界人口も2064年の97億人をピークに減少すると予測されています。
一方で、社会には情報やコンテンツがあふれ、サービスの多様化が進んできました。そのような状況下で消費者に選んでもらうには、他社との差別化が欠かせません。また、新規の顧客獲得だけでなく、リピーターの創出・維持の重要性も増しています。先に挙げた「顧客との長期的な関係の構築」と、その基盤となるIDの統合は、この文脈においても非常に重要です。
「eコマース成功のカギを握るパーソナライゼーションに求められる顧客ID基盤とは」

2-3 オムニチャネル化の隆盛が予想される

タッチポイントや販売経路はますます多様化・複雑化し、消費者のライフスタイルや購買行動も日々変化しています。企業もさまざまなチャネルに対応し、新たなサービスや事業を展開してきました。しかし、多くのチャネルに対応していても、一貫したサービスが受けられなければ顧客の不満を招きかねません。そこで各チャネルの連携を可能にしたのが、オムニチャネルです。
今後はオンライン・オフラインを問わず、シームレスかつスムーズな顧客体験を提供できるオムニチャネル化の隆盛が予想されます。オムニチャネルを実現するには、顧客IDを統合して各チャネルをまたがって顧客一人ひとりを正しく認証するとともに、それらのチャネルから登録される顧客データを正しくひとりの顧客に紐づけて顧客データを一元管理したうえで、ビジネスモデルに最適化させて活用していく必要があります。
「DX対応で注目される「ハイパー・パーソナライゼーション」とは」

2-4 ユーザーが持つIDが増加している

総務省・情報通信政策研究所の調査によると、平成22年の時点で10以上のサイトにユーザー登録をしている人の割合は46.8%でした。また、40.8%の人が過去1年間で登録サイト数が増加したと答えています。そして、新しいサイトやアプリのリリースに伴い、IDの発行数はその後もますます増えてきました。
しかし、アカウントが増えるほど、設定や管理はユーザーにとって負担になりかねません。IDやパスワードを忘れてしまい、ログインできないために購入をやめてしまう機会損失は無視できないものです。それだけでなく、不正ログインなどの悪意ある攻撃による顧客データの漏えいリスクはますます増大しています。パスワードの悪用による不正アクセスは増加傾向にあり、警察庁によれば、2020年の摘発件数は5年前の約1.7倍に増加しているとのことです。
さらに、利用者側がいわゆる「破られやすいパスワード」を設定してしまうこともパスワードの限界を指摘する要因の一つとして挙げられます。漏えいした日本の利用者のパスワードを分析した結果、1位は「123456」だった、とする調査結果もあるそうです。オンラインでのサービス展開への注目がますます高まる中で、個人一人ひとりを正しく認証するだけでなく、攻撃や不正アクセスから個人データを守る取り組みの重要性も高まっているのです。特に、パスワードの限界が指摘される中で、「脱パスワード」化への取り組みへの注目も高まっています。このような技術トレンドへの対応は、従来のような事業部・サービスレベルではなく、全社レベルで進めるべきものです。情報セキュリティ強化の観点からも、顧客ID統合が求められるのです。
「パスワード認証をめぐる課題と、「脱パスワード」化への動きとは」

3 ID戦略の推進により得られるメリット

ID戦略の推進にはどのような価値があるのでしょうか。大きなメリットを3つ紹介します。

3-1 CX改善によるロイヤルカスタマーの増加

IDの統合により、ユーザーは1つのIDでさまざまなサービスをシームレスかつスムーズに利用できます。複数サービス間でのポイント共有やレコメンドの反映なども可能になり、利便性が増します。
顧客体験や満足度が向上すれば、ユーザーに企業や商材への信頼や愛着を持ってもらいやすくなるでしょう。単なるリピーターではなく、ロイヤルカスタマーの増加につながり、企業の売上はより安定します。さらに、CX改善によるロイヤルカスタマーの増加は顧客の囲い込みにつながり、自社サービスにおける経済圏の構築も可能になります。
「個人の顧客基盤の拡大を目指す理由、その実現に向けての課題とは」

3-2 データ一元化による深い顧客理解

1つのチャネルで入手できる情報には限界があります。さらに、複数のチャネルでバラバラにIDシステムを運用している場合、1人の顧客が複数のIDを登録してしまい、顧客データもばらばらに保存されてしまいます。そのうえ、これらのデータの内容に矛盾があった場合、どのデータが正しく信頼できるものなのか分からなくなってしまいます。このような「データのサイロ化」は多くの企業で問題となっています。しかし、ID統合により複数のサービスや事業で集めた情報を一元管理すれば、活用できるデータ量が増加します。
購入や問い合わせなどの行動履歴をチャネルに関わらずリアルタイムに把握できれば、適切なタイミング・内容のアプローチが可能です。また、異なる事業・サービス間のデータを用いて、分析の精度をより高めたりクロスセルを促したりもできます。詳細な行動分析により顧客理解が深まれば、ユーザーニーズを捉えた商品開発やマーケティング施策にも活かせるでしょう。
「顧客データは統合・分析こそが重要。基礎知識を解説」

3-3 利益相反の解消

事業ごとに顧客管理や販売目標が分断されていると、利益相反の状態となるリスクがあります。例えば、実店舗とECがライバル関係になりオンラインの提案をしづらかったり、逆に価格差があるためオフラインでの購入を薦めにくかったりするかもしれません。
しかし、顧客管理が一元化されれば、シームレスな接客が可能です。オンラインで発行したクーポンをオフラインで使用したり、実店舗で在庫切れの商品をその場でEC注文したりできます。販路に関わらずお客様のニーズに合わせた柔軟な対応ができれば、利益相反が解消されるだけでなく、企業全体の価値が高まります。

4 ID戦略で考えられる具体的な例

ID戦略にはどのような手法が使われるのでしょうか。一般的な3つの具体例を紹介します。

4-1 実店舗でのスマホアプリによるID計測

個人を特定できるスマートフォンは、ID戦略における重要なツールです。スマホアプリを活用すれば、オフラインで購入した顧客のID特定やオンラインデータとの紐づけが容易になります。また、購入だけでなく、店舗への来店時間や回数など、各顧客のオフラインにおける行動データが計測・収集できます。その結果、よりパーソナライズされたきめ細やかなサービスの提供が可能です。
このように、アプリを使ったID計測により実店舗の存在価値はより明確になり、オンラインが主流になりつつある世の中で大きな強みになるはずです。ポイント還元率のアップやクーポン付与などのメリットを提供してアプリのインストールや紐づけを促すと、ID統合を進めやすいかもしれません。

4-2 関連サービスの利用推進

グループ会社で複数事業・サービスを展開している企業やブランドは、ID統合により関連商材の提案が可能になります。グループ内の関連サービスをすべて提供できれば、利便性が増し、ライフタイムバリューの向上も期待できます。
例えば、不動産業界では顧客との接点を増やし長期的な関係を構築する点で課題を抱えていました。しかし、リフォームやハウスクリーニング、転売といった関連サービスの提供により、事業機会の拡大が実現しています。
関連サービスの利用推進は、グループ全体の価値向上につながります。共通ポイントの付与や、複数サービスの利用で会員ランクをアップさせる仕組みなどを導入して利用を推進していくとよいでしょう。

4-3 グローバル化への柔軟な対応

グローバルに事業展開する企業にとっては、ID戦略の重要性はいっそう高まります。それぞれの国・地域の法制度に合わせたコンプライアンスの遵守が必要となりますし、使用している端末環境やUIの好みなども異なるからです。
個人データの管理に関する法規制は国によって異なります。例えば、EUで導入された一般データ保護規則(GDPR)は厳格な個人データ管理を求めているだけでなく、違反した場合には巨額の罰則金を科せられる恐れもあります。GDPRは、EU域外の事業者も対象となる可能性があるため、日本企業も対応を迫られています。中国やブラジルなど世界各国で同様の個人情報保護に関する法制度が導入されています。しかも、それらの法規制は定期的な更新が想定されるため、継続的に対応していかなければなりません。それらへの対応はもはや全社レベルで進めていく必要があるのです。
特に、個人データの収集や利用目的などに対する同意の管理は重要なポイントです。近年、これらに対する明確な同意を予め取得するとともに、利用目的の変更が必要な場合には改めて同意を得ること、また、ユーザーがいつでも同意を撤回できる権利を保障し、その場合には当該個人のデータの利用を停止することなどが法制度において認められるようになっています。このような同意管理もID戦略を進めるうえで欠かせないものです。
また、X (旧Twitter)やFacebookなどのSNSのアカウントで登録・ログインできるソーシャルログイン機能を導入している企業も増えていますが、国・地域によって普及しているSNSはさまざまです。それぞれの国・地域のユーザーの利用実態に即したソーシャルログインを導入する必要があります。
今後の対応地域の拡大も視野に入れたうえで、地域を横断した顧客IDの一元管理を可能にする共通の基盤を整え、活用していくことが重要です。
「DX時代における企業のあるべきプライバシーガバナンスとは」
「国内外でのデータ保護規制の強化の動きに弁護士が注目」

5 ID戦略を推進するうえで重視するべきこと

ID戦略を効果的に推進するためにはどのようにしたらよいのでしょうか。ID統合を進める際に重視するべきポイントを紹介します。

顧客基盤の拡大に関してはこちらもご覧ください。
個人の顧客基盤の拡大を目指す理由、その実現に向けての課題とは

5-1 ロードマップの作成

複数の事業やサービスにおけるIDの統合には年単位の期間を要する場合があるため、ロードマップの作成が欠かせません。ロードマップを作成する際は、ユーザーと事業者それぞれの視点で戦略を立案することが重要です。
まず、IDを統合する目的やゴールをはっきりさせ、関係するすべての部署で認識を一致させておきましょう。そして、データの統合・活用・評価方法を明確にします。
ID統合に伴う変更やアプローチは、ユーザーの離反要因になりかねません。そのため、ユーザーメリットの追求に加え、顧客の負担にならないプロセス設計も大切です。

5-2 目的を達成できるシステムの導入

IDの統合には、複数のサービスをまたいだ認証・同意管理、データ活用システムとの連携などさまざまな課題があります。また、複数のデータを正しく統合・管理する「シングルカスタマービュー」を構築できるシステムが必要です。さらに、事業の拡大に対応できるスケーラビリティも求められます。
それぞれの事業部やサービス主管などの各組織は、マーケティング・オートメーション(MA)やCRMなど、自組織の目的を達成するために顧客データを活用するシステムなどを導入している場合が多いでしょう。これらの導入済みのシステムと、顧客ID管理・顧客データベースを柔軟に連携できる仕組みが求められます。特に、CIAM(Customer Identity and Access Management; 顧客ID管理・認証サービス)はID統合のカギになるものとして注目が高まっています。事業や目的に合った機能を備えたシステムの選択が重要です。
「DXと個人情報保護規制対応を支援するCIAM(カスタマー・アイデンティティ・アクセス・マネジメント)とは?」

6 ID戦略をサポートする「SAP Customer Data Cloud」

SAP Customer Data Cloudは、ID戦略に有効なCIAMプラットフォームサービスです。SAP Customer Data Cloudは、ID戦略を展開するうえで欠かせない以下の機能をクラウドで提供します。

  • ユーザーがスムーズに登録・ログインを完了できる登録・ログイン画面とフロー
  • プライバシー法制度に準拠した個人データの収集・利用に関する「同意」の収集・管理
  • プライバシー法制度が認める、ユーザーが自身の個人データについて行使できる権利(閲覧権・修正を求める権利・削除を求める権利・利用停止を求める権利など)の保障
  • ユーザーからの同意のもとに得られた個人データを確実に紐づけ、マーケティング・オートメーションやCRMなどのダウンストリームシステムに確実に連携させるデータ連携機能

当社は、SAPのパートナー企業としてSAP Customer Data Cloudの導入支援に豊富な経験を有しています。ID戦略の基盤としてますます高い注目を集めるCIAMソリューションにご関心をお持ちの方は、グローバルで高い評価を受けるSAP Customer Data Cloudの国内における豊富な導入支援実績を有し、高い評価を受ける当社にどうぞご相談ください。

7 ビジネスモデルの特性を活かすID戦略を

IDの統合と戦略的な活用は、DX対応やマーケティング業務の効率化、CX向上に欠かせません。ロードマップの作成や専用システムの導入により、ビジネスモデルの特性を活かしたID戦略を促進していきましょう。
SAP Customer Data Cloudは世界のトップ企業に支持されているCIAMプラットフォームです。まずは、システムの導入によりどのようなメリットが得られるかを確かめてみるのはいかがでしょうか。
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