更新日:2023/09/01(公開日:2021/11/29)

顧客ID統合

企業が注目するID統合とは?必要な理由やメリット、事例を紹介

急速にIT化が進む昨今、企業が扱う複数サービスの顧客情報を一元化して管理・運用するID統合が注目を集めています。ID統合を導入すれば、企業と顧客の両方にメリットがあり、アカウント運用の効率化やセキュリティリスクの低減などが実現可能です。

この記事では、ID統合の仕組みや必要性が高まっている背景やメリット、実施しないリスク、導入の進め方など、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。

この記事の内容
  • ID統合とは、企業が運営する複数のサイトやサービスにおける顧客データを一元管理する仕組みで、近年注目が高まっている
  • ID統合を進めれば効率的なマーケティングが実現できる一方、導入しなければ顧客満足度低下や顧客離れを引き起こす恐れがある
  • ID統合を進めるためには、顧客理解の促進による最適なカスタマージャーニーやCXの提供、セキュリティへの対応、データのサイロ化防止などの検討が必要
  • スムーズなID統合を実現するには、アプローチ方法やタイミングなどを考え、必要に応じて専用ツールの導入も検討すると良い

ID統合の定義とメリットID統合とは何か?近年のID統合の動きや必要な理由

ID統合とは、企業において複数の事業・サービスで個別に管理されていた顧客IDを一元化して管理できるようにする仕組みです。

ID統合を実施すれば、顧客は同一企業が提供しているサイトやサービスで複数のID・パスワードを管理する必要がなくなり、利便性が向上します。一方、企業側にとっても顧客情報を複数部署で管理せずに済むため、負担を減らせる点がメリットです。また、各事業における顧客の行動や購入履歴などの状況を正確に把握でき、効果的なマーケティングを実施できるようになります。

ID統合の必要性が高まっている背景

ここからは、近年、ID統合への注目が高まっている背景について解説します。

IDを適切に管理できず顧客満足度が低下している

スマホやソーシャルメディアが生活へ浸透し、今や消費者は「いつでもオンライン」状態にあります。ECやソーシャルメディアを使っている時だけでなく、例えば、店舗でもスマホアプリに届いたクーポンを利用したりするので、まさに「いつでもオンライン」といえます。このようなビジネス環境の大変革は、DX (デジタル・トランスフォーメンション)とも呼ばれます。また、実店舗・ECサイト・モバイルアプリなどオフライン・オンラインに設けたあらゆる顧客との接点を通じて最適な顧客体験を届けることで収益の拡大を目指す戦略をオムニチャネルといいます。
実店舗などのオフラインだけでなく、ECサイトやアプリなどを活用する顧客に相対するために、企業は、チャネル(Web/EC、スマホアプリ等)ごとに、またブランド(商品・サービス)ごとに、サイトを立ち上げ、顧客接点を増やしてきました。企業が抱えるブランド数は、多い時は数百以上にも上り、加えてブランドごとに複数のチャネルを作るので、顧客接点の数は相当なものになります。そして、これらのIDはバラバラに管理されていることが多いのが現状です。結果、顧客は都度IDを登録しなければならず、再ログイン時にID、PWを忘れてしまうなど混乱が発生します。また、企業側では、ECサイトで買物をした“田中さん”と、コールセンターに問合せしてきた“田中さん”が同じ人であるか分からず、適切なレコメンドができなかったり、経緯を十分に把握していない対応になったりします。DX化・オムニチャネル化の推進が、逆に顧客満足度の低下を招いているという事態が起こっているのです。

この問題を解決するために、複数サイトやアプリのIDを統合し、顧客データを一元管理することで、オムニチャネルを跨って顧客一人ひとりを正しく認証できるようにしようとする動きが高まっているのです。

DX化・オムニチャネル化における顧客ID認証基盤に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「新型コロナウイルスが加速するDX対応が求める顧客ID認証基盤とは」

激化する競争環境を見据えた顧客基盤の拡大と顧客との関係の強化

企業がID統合を進めるべき理由の一つには、激化する競争環境を見据えた顧客基盤の拡大と顧客との関係強化を図るという側面もあります。ID統合を進めることで企業のサービスにより多く接点をもってもらうとともに、そこから得られる顧客データをもとに、顧客第一の視点に立ったうえで顧客一人ひとりが自身の好む体験が得られるよう、パーソナライゼーションやレコメンドなどを通じて手助けすることで、結果的に顧客の購買行動も増えることになるでしょう。そのため、従来では会員サービスを実施してこなかった業界でも、新たな会員サービスを開始して顧客にID登録を求めるケースが増えてきました。多くの企業が、顧客との直接のつながりを強化する戦略を採っています。

顧客基盤の拡大を目指す理由とその課題について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「個人の顧客基盤の拡大を目指す理由、その実現に向けての課題とは」

「ID統合を進めないこと」の潜在的コスト・リスクがますます高まっている

現代の企業にとって、「ID統合を進めない」でいるのはリスクとなっており、不便なカスタマージャーニー(顧客が購買に至るまでのプロセス)や顧客体験の低下により顧客離れにつながる恐れがあります。顧客データが事業部やサービス単位で存在していると、バラバラなデータでは正確性が担保できません。結果、データドリブン(データに基づく意思決定)による施策や顧客に応じたカスタマージャーニーを提供できず、競争力が低下してしまうケースもあるでしょう。

コロナ禍以降、顧客のオンラインでの購買やサービス利用が増加しており、ビジネスにおけるDXの重要性はこれまでになく高まっています。ID統合により、顧客一人ひとりを正しく認証し、適切な同意を得て顧客に関する正しいデータを収集・管理するとともに、展開する複数のサービス・タッチポイント(顧客接点)にまたがって利用でき、最適なカスタマージャーニー・顧客体験が提供可能です。ますます激化する今後の競争環境において、ID統合の導入は不可欠といえるでしょう。

また、顧客IDが統合されておらず、サービス毎にIDを管理している場合、その管理基盤(認証基盤)も複数の製品を導入、運用しているケースがしばしば見受けられます。
この場合、同じ機能に対して多重にコストがかかるだけでなく、今後のコンプライアンス対応、セキュリティ対応において、想定外のコストが発生したり、対応に時間がかかってしまったり、一部の基盤で対応漏れが発生するなどのリスクが高まります。
顧客ID統合を行い、認証基盤を共通化することによって、これらのリスクを低減させることが可能です。
認証基盤に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「認証基盤とは?注目される背景や機能・仕組み、更改や導入に当たってのポイントを解説」

ID統合を進めるうえで検討すべき要素

顧客と企業に多くのメリットをもたらすID統合ですが、導入の際には、検討すべき課題やポイントもあるため注意が必要です。ID統合を進めるにあたって考えなくてはならない要素を解説します。

ユーザーにとっての顧客体験の向上・カスタマージャーニーの最適化

ID統合導入の際、検討すべき大切な要素が顧客体験の向上やカスタマージャーニーの最適化です。今後、ビジネスのデジタル化が進めば、顧客とのタッチポイントはますます増加すると予想されます。ユーザーの顧客体験やカスタマージャーニーを最適化するには、複数事業やサービスにまたがる情報を1人の顧客として正しく認識できるログインシステムや認証制度の機能性向上が欠かせません。

従来のシステムやセキュリティ強化だけでなく、最新機能の導入も必要になるでしょう。特に、SSO(シングルサインオン。一度ログインすると紐づいた他のサービスでログインが必要なくなる仕組み)やパスワードレス認証(生体認証やデバイス認証などパスワードを用いない認証方法)は、導入すると総当たり攻撃など、パスワードに関するセキュリティリスクの低減にもつながります。

パスワードレス認証に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「個人情報のセキュリティにおけるパスワード認証の限界と、パスワードレス認証が注目される背景・顧客ID統合との親和性を解説」

コンプライアンス・個人情報保護法・GDPRなどプライバシー法制度への対応

最近特に厳しくなっている、個人情報の収集・利用などプライバシーに関する規制への対応も検討すべき要素の1つです。海外ではEUのGDPR(一般データ保護規則)をはじめとしてプライバシー保護に関する法制度を強化する動きが加速しており、、日本でも2022年4月から改正個人情報保護法が施行されました。

サイト・サービス運営の際は、個人データの収集・利用に関する利用規約やプライバシーポリシーなどに対する適切な同意の管理(アップデートに伴う再同意含む)など、個人データに関する顧客側の権利を尊重する仕組みを設けましょう。さらに、これらの同意管理の仕組みと個人データを利用するCRMやマーケティング・オートメーション(MA)などのシステムを連携させ、ユーザーが同意を撤回した際にこれらのシステムが自動的にアクションを停止できるようにすることが求められます。このようなプライバシー重視の姿勢は、企業にとってコストと捉えられる場合もありますが、むしろ消費者からの信頼を勝ち得るうえでの有効な戦略として積極的に取り組む企業が増えています。

プライバシー法規制と企業の対応について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「プライバシー保護意識の高まりをビジネスの成長につなげるためには」

「データのサイロ化」の防止や「シングル・カスタマー・ビュー」の提供基盤の構築

ID統合により、複数のタッチポイントから登録される顧客データを適切に紐づけ・管理して「データのサイロ化」を防ぐとともに、「シングル・カスタマー・ビュー」(複数チャネルから収集したデータを顧客ごとに管理・可視化した状態)の実現で顧客理解をより深められるでしょう。

さらに、CRMやMAなどのツールともデータ連携を確立すれば、カスタマージャーニー全体を通じてユーザー一人ひとりに最適化された高度なパーソナライゼーションサービスが提供できます。システム導入時には、こうした多様な機能を顧客基盤の成長に合わせて適切に拡大できるよう、システムのスケーラビリティに対する検討も重要です。

ID統合とそれに伴う顧客データ移行の種類・アプローチ

ID統合を行うには、既存のサイトやサービスから新しいシステムへと顧客データの移行が不可欠です。ここからは、実際のID統合で顧客データを移行する方法にはどのような種類やアプローチがあるかを解説していきます。

顧客データ移行の種類

顧客ID統合には、企業が顧客IDを統合する方法と、顧客にしてもらう方法の2つの種類があります。どちらの方法にするのかは、顧客IDの管理方法を調べることから始めると良いでしょう。

企業が一括で顧客IDを名寄せする場合、複数のサービスに登録している顧客データの登録情報や管理方法が違うと統合するのに多大な労力やコストがかかる点が課題です。会員登録時の内容が異なっているケースや、会員を特定するための情報を調査する手間があるため時間がかかります。

また、今後ログインが見込めない非アクティブな顧客データであっても移行しなければならない点も非効率といえるでしょう。メリットとしては、名寄せできる範囲でID統合するため統合データをすぐに得られるところや、ユーザーに負担をかけないでID統合を実施できる点などがあげられます。企業によるデータ移行では、ユーザーにID管理の変化を気づかせないのが理想的といえるでしょう。

一方で、顧客にID統合をしてもらう場合は、既存の顧客IDを維持しながら統合に使う新たなIDを作り、新規ユーザーに登録してもらう方法がとられます。既存顧客には新IDとの紐づけを勧めて、スムーズな移行を促しましょう。企業は名寄せ作業が不要になるうえ、非アクティブなユーザーを新IDに移行しなくてもよくなります。

ただし、移行期間は新IDに加えて既存顧客IDの維持も必要です。ほかにも、新IDへの移行割合が低くなる可能性がある、統合後のデータ取得に一定期間が必要になる、などのデメリットが存在します。

顧客データ移行のアプローチ

複数サービスのデータ移行で行われるアプローチは、一度で移行を完了させる「ビッグバン・アプローチ」と段階的に移行を進める「フェーズ化アプローチ」の2種類です。いずれの方法でも、アプローチの内容は以下の4つのステージに分けられます。

  • テストインポート:既存データの10%程度を試験的に移行し、データに問題がないか、ログインシステムは正常に機能するかなどを確認。
  • ステージングインポート:既存システムから全データをインポート。移行段階でデータに問題が起きていないかをチェックし、ボリュームテスト(大容量データを適切に処理できるかのテスト)を実施。
  • プロダクションインポート:数営業日を使い、ID統合された新しいシステムで全アカウントが適切に運用・ログインできるかを確認。
  • プロダクション・デルタ・インポート:プロダクションインポート後に新規登録またはアップデートされたアカウントを対象とした確認。

ID統合を進めるタイミング

自社サービスやシステムでID統合を進めていく際は、既存の認証基盤や顧客データ管理システムのEOL(End Of Life:製品、サービスの使用期限)・更改のタイミングなどを見据えたうえで、中期的なID統合戦略を検討・推進していくのが効果的です。

EOLやシステム更改の時期が来れば、データ移行や再設定が必要になるため、同じタイミングでID統合を実施すれば作業を効率化できます。新しいシステムに更改してからID統合を進めていけば、変更に伴う技術的な障壁やリスクといった課題の影響を抑えられるでしょう。

顧客ID統合の推進に向けて「SAP Customer Data Cloud」が提供する機能

「SAP Customer Data Cloud」は複数サイトやアプリ・サービスで別々に運用されている顧客IDを統合し、一元的に管理できるプラットフォームサービスです。

「SAP Customer Data Cloud」には、スムーズなID統合を実現し、シングル・カスタマー・ビューを可能にする次のような機能をクラウドで提供します。

  • 新規ユーザー登録・ログイン機能:サイトやアプリにおいてユーザーが新規登録やログインを行うための画面機能を提供。SSOやパスワードレス認証機能も利用可能。
  • Lite Registration機能:ユーザーにメールアドレスのみの登録を求める画面を表示。登録したアドレスにパスワードを設定すれば本登録も可能。
  • Progressive Profiling機能:登録後のユーザーに徐々に個人データの提供を求めていく画面を表示。
  • 同意管理・再同意取得機能:利用規約やプライバシーポリシー、マーケティングメールの配信などの同意を求める画面を提供し、取得した同意を顧客IDに紐づけて管理するとともに、利用規約やプライバシーポリシーを更新した場合に再同意を求める。
  • ユーザーによる自身の個人データや同意の管理機能:ユーザーが自身で個人データや同意を確認・修正・削除・撤回などの操作を実施できる管理画面を提供する。
  • Identity Sync機能:収集した個人データや同意の状態をデジタルマーケティングシステムに連携させて効果的なマーケティングを実施。

続いては、実際に「SAP Customer Data Cloud」を導入し、ID統合に活用している企業様の事例をご紹介します。

導入事例|花王株式会社 様

花王株式会社では、2022年12月に公開した「My KAO」の運用に「SAP Customer Data Cloud」を利用しています。

「My KAO」では、従来ブランドごとに独立して運営してきたECサイトをモール型に統合。さらに、「体験共創型プラットフォーム」として、顧客の興味を引くコンテンツやモニタリングを提供するだけでなく、分析データに基づいた商品・サービスの提供も目標にしています。

「My KAO」の立ち上げでは、顧客IDの集約の際、「SAP Customer Data Cloud」を導入。Webサイトのデザインや動線、どのサイトからどのようなデータを抽出しつつページを遷移するかといった設計に役立てています。

ID統合を進めて企業の業績向上につなげよう

ID統合によって、企業のサービスごとに管理していた顧客データを一元化することが可能になり、情報管理の手間やコストも低減されます。このデータを活用して顧客サービスの価値を高めることにより、企業の業績アップにもつなげていくことが顧客ID統合のゴールとも言えます。業界を問わず進められているID統合の動きは、将来を見据えて必要と分析した結果でしょう。

「SAP Customer Data Cloud」の公式サイトでは、顧客IDの統合をはじめ、マーケティングに役立つさまざまな資料がダウンロード可能です。ID統合や自社マーケティングの効率化をお考えの方は、ぜひご活用ください。

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