North Star Metric(ノーススターメトリック)とは?設計手順までを網羅

目次

企業をより成長させたいならば「North Star Metric」を取り入れてはいかがでしょうか。North Star Metricはシリコンバレーで生まれたビジネスグロースのための指標です。売上目標などとは異なり、顧客の視点を取り入れて設定し、導入をすることで実際に事業を成功に導いている企業も多くあります。この記事ではNorth Star Metricの基礎知識や、設定の方法、事例、導入の際に活用したいツールについて紹介します。

North Star Metricとは?

現在、多くの有名企業でも、自社のプロダクトやサービスにおける価値の向上や企業の成長を目指してNorth Star Metricを取り入れ始めています。まずは概要について詳しく見ていきましょう。

ビジネスをグロースさせるための指標設計フレームワーク

「North Star Metric(ノーススターメトリック)」とは、企業がビジネスをグロース(成長)させるために業績を測り、事業の正しい方向を示す指標です。自社のプロダクトやサービスの本質的な価値を測定するためにも活用され、North Star Metricが高ければ、価値あるプロダクトやサービスを提供していることになります。

North Star Metricは日本語では北極星指標です。北極星は地上から見るといつも変わらない位置にあり、磁石がなかった時代の人々は北極星を見て方角を知りました。北極星に由来するのがNorth Star Metricであり、設定することによって、社内や同じチームのメンバーは同じ方向を見て業務を進めることが可能となります。

North Star MetricとKGI・KPIの違い

North Star Metricと関連した用語にはKGI、KPIがあります。いずれもビジネス上の目標達成度を測る指標となるため、区別が難しいと感じる人もいるでしょう。

KGI(Key Goal Indicator)とは重要目標達成指標と訳され、最終的な売上目標や成果目標などを指します。North Star MetricとKGIの大きな違いは顧客視点か企業視点かという点が挙げられます。North Star Metricは顧客満足を高めるための顧客視点の指標であり、最終的には企業視点での利益であるKGI達成へとつながります。

KPI(Key Performance Indicator)は重要業績評価指標と訳され、目標に対してどこまで達成できたのかを示したものです。KPIはNorth Star Metricの要素を分解したものとなります。各KPIをクリアしていくことでNorth Star Metricは達成されます。

North Star Metricは先行指標を設定する

North Star Metricは事業の結果(売上など)に対して、先行指標としなければなりません。
先行指標は顧客の行動に先駆けて設定すべきものです。先行指標が適切であれば企業のグロースにつながっていきます。

先行指標であるNorth Star Metricの結果として、遅行指標である成果が生まれます。遅行指標を改善するのは非常に困難ですが、先行指標は簡単に改善できます。

たとえば、ECサイトの運営における遅行指標は「売上」です。対する先行指標は「WAB(Weekly Active Buyer)」や「MAU(月間アクティブユーザー数)」になります。

North Star Metricにより得られる効果

North Star Metricはスタートアップ企業で多く採用されていますが、まだ日本にはなじみのないコンセプトであるため、導入にいたらない企業もあるでしょう。導入で得られる効果について考えていきましょう。

顧客体験を考慮したKPIを設定できる

North Star Metricを取り入れることで、売り上げや会員数などの表面的なKPIではなく、顧客体験の改善を具体的に意識したKPIを設定できます。

KGIの設定からKPIを割り出そうとすると、企業側の視点のみとなり、顧客がお金を払ってまで体験したいという顧客体験の視点が抜け落ちます。KGIとしての売上達成だけを考えたKPIでは、瞬間的な収益アップは見込めても、長く顧客に支持されるビジネスとはなりません。企業の利益は顧客満足の上に成り立つので、顧客視点が入ったNorth Star MetricをKGIとKPIの間に置くことが大切です。

カスタマージャーニーの各タッチポイントにおいて顧客体験を考慮したKPIを設定することで、North Star Metric、ひいてはKGIの達成につながります。

チームのコラボレーションが促進される

North Star Metricはチームのメンバー間におけるコラボレーションの促進に役立ちます。

目標が不明確だとチーム間やメンバー間の連携が取りにくくなるため注意が必要です。バラバラな方向に向かってしまい、最終目標へと到達しないケースも多くあります。そこで重要となるのが方向を示すNorth Star Metricです。North Star Metricは顧客体験の向上を念頭に置いているため、具体的なアクションをイメージしやすくなります。

1つの明確な目標を作ることでチーム内に一体感が生まれ、互いの業務への理解度も深まりやすくなります。互いの業務への理解度が深まることで、サポートも容易になります。

North Star Metricの設計手順

ここからは実際にNorth Star Metricを設計する手順を紹介します。KPIとの連動を考えずに設定しても効果的なNorth Star Metricとなりません。まずは自社のプロダクトやサービスを分析することから始めましょう。

自社プロダクトの分類

設計を進める前に、自社のプロダクトやサービスの種別について確認をします。種別の判断基準は、アテンション(時間)、トランザクション(数)、プロダクティビティ(タスク数)です。

分類の基準 企業の性質と想定される
重要課題
分類される企業例 North Star Metric例
アテンション 利用時間が重要となるプロダクトやサービス Facebook、グノシー、Netflix、Noteなど
  • 週〇時間以上滞在したユーザー数
  • コンテンツの再生数
  • ユーザー登録数
トランザクション ユーザーの購入数などが重要となるものを指す ECサイト、音楽配信サービス、SaaSなどに多い Amazon、airbnbなど
  • 商品購入数
  • サービス利用数
プロダクティビティ タスクの向上を目的としたプロダクト、サービス Adobe、Microsoftなど
  • ファイル作成数
  • ユーザー登録数
表の続き →

どの企業も上記3要素のいずれも重要視し、North Star Metricとしたいと考えるでしょう。しかし、North Star Metricを決める際は、いずれかの1つを重要課題として焦点を絞るとうまくいきます。

North Star Metricの仮決め

次にNorth Star Metricの仮決めをします。仮決めの際には、上記の3要素からプロダクトにおいて何が重要であるかを考えていきます。

また、ここで行うべきは、自社のプロダクトやサービスの顧客体験、戦略、収益それぞれの目的が重なる部分を探ることです。

3要素が分離した状態では企業のグロースは望めません。収益には良質な顧客体験が必要であり、よりよい顧客体験の提供には戦略が必要です。必ず3つの要素が当てはまる部分に、適切なNorth Star Metricが存在しているので見つけてみてください。

たとえば動画配信サービスで以下の3要素の重なる部分を探ってみましょう。以下のように設定します。

  • 顧客体験…好きな時間に好きな動画を楽しむ
  • 戦略…動画のお気に入りリストを作成できるようにする
  • 収益…有料会員による会費

好きな動画をすぐに見れるお気に入りリスト機能を作ることで利便性が向上し、有料会員への登録につながるので、それぞれが相関していることが分かります。また、「週8時間以上視聴するユーザーは有料会員になる割合が多い」などのデータを参考にすると、「週の総視聴時間8時間以上」などのNorth Star Metricを仮決めできます。

KPIの策定

North Star Metricを具体的に実行するには、North Star Metricを4つに細分化し、要素が当てはまるKPIを設定します。

細分化する4つの要素とは幅、深さ、頻度、効率です。

  • 幅…アクティブ顧客数
  • 深さ…顧客体験の深さ
  • 頻度…顧客のアクション頻度
  • 効率…顧客が価値を実感するまでの時間

たとえば、動画配信サービスにおける4つの要素でKPIを設定した場合、以下のようなものが考えられます。

  • 幅=有料会員獲得数
  • 深さ=サイトへの滞在時間
  • 頻度=週ごとの視聴頻度
  • 効率=1セッションに対する動画再生時間

KPIを達成するためにはさらに細分化されたKPIが必要となり、KPIツリーを作成することになります。たとえば「有料会員数を増やす」というKPIには「新規会員の獲得」「検索機能の強化」「UIの向上」といった下位のKPIが作成されます。

KPIを間違いなく設定するにはユーザーの行動を知ることですが、データ分析ツールなどを用いると容易に把握でき、スムーズにKPIを策定できるようになります。

North Star Metricにおける指標の事例

ここからはNorth Star Metricを導入している企業の事例を2つ紹介します。どのようなNorth Star Metricを設定しているのでしょうか。

Slack

「Slack」はPCやスマートフォン、タブレットなどマルチデバイスに対応したビジネスチャットツールです。Slackは無料で提供されているサービスですが、無料版ではメッセージに上限があるため、大規模なプロジェクトや企業全体で使用すると、有料版に切り替える必要があります。

Slackのビジネスは、小規模の無料ユーザーから始まり、グループや企業で利用範囲が広がっていき、有料プランにアップグレードすることで利益が生まれるというボトムアップのモデルになっています。

長期で使い続けるグループの目安として、2000個のメッセージを交わしたかどうかがポイントになることから、「1グループメッセージ2000個以上」をNorth Star Metricに設定しています。

freee

クラウド会計ソフトの「freee」は日々の経理や確定申告などの業務効率アップを支援し、個人事業主から規模の大きな企業まで、幅広く活用されています。

freeeのデータアプリケーションチームではNorth Star Metricを有効的に導入しています。チームとしてのミッションを定量化してKPIを決めたうえで、最上段のKPI「全口座における、明細/取引が取得できている連携口座割合」をNorth Star Metricと位置づけています。

これにより自分のタスクがNorth Star Metricにどう影響しているのかが、分かりやすくなったそうです。

North Star Metric活用のポイント

的確にNorth Star Metricを設定し、チーム内でスムーズに運用するためには、いくつかの注意すべきポイントがあるので、ご紹介していきます。

North Star Metricは1つにする

North Star Metricは1つだけに限定して定める必要があります。

社内の意思を統一しマーケティング戦略をシンプルかつ効率的、効果的にできるのがNorth Star Metric活用のメリットですが、複数設定すると企業全体の目標設定にぶれが生じてしまいます。メンバーによって、どのNorth Star Metricを最重要課題に考えれば良いのかが分かりにくくなるからです。

また、North Star Metricが複数あると、その下に紐づくKPIの管理が煩雑になります。まずはNorth Star Metricを1つに絞り、そこから因数分解していけば、適切なKPIが自ずと設定できるでしょう。

適切な「体験価値」を指標に設定する

North Star Metricとして「収益」を挙げる人もいますが、それは本来の意味からは外れた回答だと言えます。North Star Metricは「顧客の体験価値」の向上につながるものでなければなりません。体験価値に紐付かないNorth Star Metricを設定しても、長期的な事業成長につなげるのは難しいと考えられます。

PVや収益を倍にしたくても、顧客がついてこなければビジネスグロースは不可能です。そのため、上述の通りNorth Star Metricは顧客の視点を入れるのが重要な指標となっています。

  • 宿泊の予約数
  • 月のコンテンツ視聴時間
  • 1アカウントあたりの作成レコード数
  • 週に〇時間視聴しているユーザー数

以上のような顧客の行動に関するものがNorth Star Metricにふさわしいでしょう。

顧客が体験し価値を感じるようなことをNorth Star Metricとして設定すれば、企業とユーザーのエンゲージメントは高まり、結果としてリピーターの増加や新規ユーザー獲得につながると考えられます。

PDCAを繰り返し回す

初めから完璧なNorth Star Metricを設定するのは難しいものです。時代や世の中の状況などによっても企業は変化を求められ、North Star Metricの見直しが必要になることもあります。

そのため、時間をかけすぎずにNorth Star Metricを設定した後に、PDCAサイクルを回して改善し続けることが重要です。PDCAにおいてPlan(計画)を立て、Action(対策、改善)をするためには、ユーザーの行動データを収集・分析をしながら、深さや頻度などそれぞれの要素を修正していく必要があります。データ分析については専用のツールを活用するのがおすすめです。

また、プロジェクトを進めるには各チームの連携が不可欠なので、指標の検討をする際はチームを横断して議論を進め、認識を統一することが重要です。

緻密なデータ収集・分析には「Mixpanel」

顧客視点を取り入れるNorth Star Metricの効果を最大限引き出すには、ユーザーに関する適切なデータの収集、分析、活用が不可欠です。そして、データの収集、分析、活用のためには適切な分析ツールを採用したいところです。

分析ツールを選ぶ際のポイントは、利用するメンバーがいつでも誰でもアクセスできるユーザーフレンドリーなものであるのが望ましいと考えられます。メンバーが閲覧や更新を手軽にできなければ、メンバー間のスムーズな情報共有や進捗の把握ができません。

Mixpanel」はユーザーの行動を把握し、満足度向上に役立つ機能が備わったツールです。リピートユーザーや新規ユーザー、休眠ユーザーの行動を分析し、ユーザーがリピートする理由や、行動の推移、パワーユーザーの人物像などを可視化することで、企業のプロダクトやサービス改善に役立ちます。直感的なUIを採用しているため、誰もが容易に使用できるツールです。

North Star Metricはビジネスのグロースに有効なフレームワーク

ビジネスの成長を目指す施策としてNorth Star Metricを導入する企業が増えています。KGIに向かうための重要な指標ですが、適切なNorth Star Metricを設定するための大切な要素は「顧客視点」です。自社のサービスやプロダクトの特性を分析したうえで、相関性のある顧客体験、戦略、収益を割り出し、その接点からNorth Star Metricを設定していきます。そこで必要となるのがユーザーの行動への理解です。分析指標の考え方に困っている、現状のプロダクト分析やアクセス分析をもっと良くするためのアイディアや方法を検討したい、などをお考えの方はぜひお気軽にお問合せください。