解約率(チャーンレート)分析の重要性や分析・改善の流れと方法を解説

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近年、SaaSやサブスクリプションビジネスなどのニーズが高まっていることから、「解約率(チャーンレート)」が重要視されています。解約率が高ければビジネスの成長は難しいため、解約率の分析を実施してサービスの改善につなげていく必要があります。しかし、解約率分析についてあまり知識がなく、何から初めてよいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、解約率分析の重要性や効果、種類、計算方法などについて詳しく解説します。あわせて解約率分析のステップや実施方法、企業の成功事例なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。

解約率(チャーンレート)の分析とは?

解約率(チャーンレート)とは、どれくらいの既存顧客が契約や取引を解約したかを示す値です。解約率分析(チャーン分析)を行うことで、顧客が自社製品やサービスの利用をやめた理由を追跡することができます。ただし、解約率と解約した理由を把握するだけでなく、改善策を考えるところまでが分析に含まれることを覚えておきましょう。

昨今、SaaSビジネスやサブスクリプション型ビジネスなどが台頭し、次々と目新しいサービスが登場しています。そのような環境では、売上や新規顧客獲得数だけに注目するのではなく、解約率もしっかりと把握し改善策を講じることも重要です。

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SaaS・サブスクにおける解約率分析の重要性

SaaS企業やサブスクリプションサービスの隆盛により、解約率の分析はますます重要になっています。なぜなら、顧客の維持には解約原因の把握と適切な改善策が不可欠だからです。顧客が解約する背景を正しく把握することで、根拠のない施策の繰り返しによる経営の圧迫や事態の悪化を防げるでしょう。また、解約率分析を定期的に行うことで、サービスの改善や競合企業との差別化にもつながります。

ただ解約率の数字だけを追い、その原因を把握しないままでは、その場限りの対処しかできません。根拠のない価格設定やプロセスの見直しなどによって、多くの収益を失う可能性もあります。解約率分析によってビジネスの将来性を予測し、顧客に継続的にサービスを利用してもらえるようなアイデアを出していくことが求められているのです。

解約率を分析することによる効果

ここでは、解約率を分析することによって期待できる効果を紹介します。

LTV(顧客生涯価値)の向上

「LTV(顧客生涯価値)」とは「Life Time Value(ライフ・タイム・バリュー)」を略した言葉で、1人もしくは1社の顧客が生涯にわたり、その企業にどれだけの利益をもたらすかを示す指標です。LTVで重要となるのは、顧客が継続して利益をもたらしてくれること。つまり「契約期間」や「購入頻度」「購入回数」「リピーター数」などが重要なポイントとなります。解約率を改善することにより、LTVの向上が期待できます。

SaaSビジネスにおけるLTVの計算方法は以下のとおりです。

「LTV = ARPU(ユーザー平均単価) ÷ チャーンレート(解約率)」

マーケティングにおいて新規顧客を獲得・販売するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかるといわれ、これを「1:5の法則」と呼びます。このことからも、獲得した顧客に継続して商品やサービスを利用してもらい、LTVを向上することが大切だとわかるはずです。

長期的な事業の成長につながる

前述したように、新規顧客の増加率よりも既存顧客の解約率が上回れば、事業の継続は難しくなるでしょう。安定的な利益を生み出すことや、商品やサービスのブラッシュアップすべきポイントを明確にするためにも、解約率の分析は重要です。解約率を分析して問題点を改善していけば、定着率の向上はもちろん、商品やサービス自体も洗練され他社との差別化にもつながります。

事業を長期的に成長させるためには、定量的に解約率分析を行い、顧客ロイヤリティやLTVを高める施策を実行していくことが必要です。企業が成長していけるのかを把握するためにも、解約率分析を定期的に実行することをおすすめします。

解約率を分析するには種類と計算方法の理解が必要

ここでは、解約率分析の種類や、計算方法について詳しく解説します。

カスタマーチャーンレート

「カスタマーチャーンレート」とは、顧客数をベースに算出する解約率分析のことです。一定の期間内にどれくらいの顧客が解約したのか、また有料会員から無料会員になったのかを把握できます。チャーンレートというと一般的にカスタマーチャーンレートを指すことが多く、ユーザー数やライセンス数をもとに計算することから、特にBtoC企業にとっては大切な指標のひとつとなります。カスタマーチャーンレートの計算式は以下のとおりです。

「カスタマーチャーンレート=解約した顧客数 ÷ 解約前の顧客数 × 100」

商品やサービスの価格が一律の場合は顧客数から収益の状況を判断できるため、カスタマーチャーンレートは一律料金を支払うサービスの分析時によく活用されます。

レベニューチャーンレート

「レベニューチャーンレート」とは、収益をもとに算出する方法です。顧客が解約することにより、ある特定期間の収益がどれくらい失われたかを示します。顧客によって価格が変動したり、複数プランがあったりする場合によく活用される分析方法です。

レベニューチャーンレートには主に以下の2種類があります。

  • グロスチャーンレート:解約・ダウングレードによる損失金額をもとに算出する分析方法
    (計算方法)
     =「当月に失った月次経常利益 ÷ 前月末の月次経常利益 × 100」
  • ネットチャーンレート:アップセル・クロスセルを考慮して算出する分析方法
    (計算方法)
     =「(当月に失った月次経常利益 - 当月に増えた月次経常利益 ) ÷ 前月末の月次経常利益 × 100」

ちなみに、グロスチャーンレートの値は常にプラスになりますが、ネットチャーンレートではマイナスの値になることもあります。分析の目的や価格設定などに合わせて計算方法を選択しましょう。

ネガティブチャーン

「ネガティブチャーン」とは、ネットチャーンレートがマイナスの値を占める状態です。例えば、既存客がプランをアップグレード(アップセル)した件数が大きく増えて新規の収益が高まったことで、解約やダウングレードなどで失った収益を上回った状態を意味します。「ネガティブ」とありますが、実は収益が増加し、ビジネスが良好な状態を示しています。

業界ごとの平均解約率

解約率は3%以下が理想とされていますが、企業の規模や業種などによっても目安となる数値は異なります。サブスクリプション型ビジネスの情報発信を行なっているRecurly Research(リカーリー・リサーチ)によると、全体の平均解約率は5.6%で、BtoBでは平均4.91%、BtoCでは平均6.77%の解約率があるとされています。以下は、規模別・業種別の平均解約率です。

(規模別解約率)

企業規模 顧客解約率(月間) 顧客解約率(年間)
中小企業 3~7% 31~51%
中堅企業 1~2% 11~22%
大企業 0.5~1% 6~10%

出典:Tomasz Tunguz

(業種別解約率)

業種 解約率
SaaS 4.75%
デジタルメディア&エンターテインメント 6.42%
教育 7.22%
消費財&小売 7.55%
ビジネス&プロフェッショナルサービス 6.59%
ヘルスケア 6.03%

出典:Recurly Research

解約率を分析する3ステップ

ここからは、解析率を分析する3ステップを順に紹介していきます。

ステップ1|解約の原因を分析する

有効な施策を立てるためにも、まずは解約もしくはプランのダウングレードの原因を明確にしましょう。原因を特定しないことには、改善の方向性が定まりません。原因を特定するには、退会時のアンケートやソーシャルリスニングなどで調査したり、顧客セグメントごとに解約率を分析したりなどの方法があります。

以下は、解約の理由として考えられる例です。

  • 製品やサービスに対して価格が高いと感じる
  • 製品やサービスの使用頻度が低い
  • 競合他社の製品・サービスに乗り換えたい
  • 製品やサービスが使いにくい、役に立たなかった
  • 業務形態が変化し製品・サービスそのものが不要になった

参照:The Signal by Mixpanel(What is churn analytics?)

上記のような解約やダウングレードの原因がわかれば、改善策を講じることができるでしょう。

ステップ2|仮説を立てる

調査により顧客が解約した原因を深堀りしたら、「なぜ顧客はそう思ったのか」という仮説を立てましょう。その際、商品への理解度や顧客とのコミュニケーション、競合との関連性など、複数の視点から仮説を立てることが重要です。それぞれの仮説に対し、顧客の体験を改善する案を出すことをおすすめします。

例えば、自社製品の利用方法がいまいちよくわからないという顧客には、オンボーディングプランを作成して利用方法を詳しく解説したり、サポート部署により対応を徹底したりするなどもよいでしょう。これらにより顧客を成功体験に導くことができます。

ステップ3|施策の実行・効果測定を行う

施策を実行した後には、必ず効果測定を行いましょう。効果測定を行わず、ただやみくもに施策を繰り返しても効果を可視化することはできません。効果測定・分析を繰り返すことで、徐々に成果が出てくる可能性が高くなります。解約率分析は1度だけでなく、月次や年次でチェックしながら推移を見ていくと要因を把握しやすいでしょう。

解約率が急激に上がってしまった背景には、例えば競合他社のサービスクーポンの配布、新機能リリース、自社のキャンペーン終了などの原因があるかもしれません。分析を定量的に実施できるよう、社内の体制を整えておくことが大切です。

解約率を分析・改善する方法

ここでは、解約率を分析・改善する方法について解説します。

サービスの機能・活用方法を分かりやすく伝える

解約率が高い場合、顧客へサービスの内容や機能、使い方が伝わっていない可能性があります。備わっている機能を十分に活用できず、使用価値を感じられていないというケースもあるでしょう。サービスの価値を正しく伝えられなければ、当然解約率は高くなるはずです。

解決策としては、ヘルプページの作成やチャットボットの導入などサポートコンテンツの充実、新機能リリースの発信、解説動画の作成などが挙げられます。「このような便利な機能があります」「こういう場合の解決方法は〇〇です」など、積極的に情報を発信していきましょう。

カスタマーサクセスを見直す

「カスタマーサクセス=顧客の成功」を意味します。解約率を下げるためには自社の利益だけでなく、顧客と自社双方の利益を最大化させることが必要です。まずは、顧客が目指すゴールをしっかりと理解し、win-winで成功する仕組みづくりを意識しましょう。

そのうえで、サービスの効果的な活用方法のレクチャーやサポート体制の改善など、顧客を成功に導くまでの道筋をわかりやすく伝えることが重要です。

データ分析ツールを導入する

解約率の改善には、効果的なデータの収集と多角的な分析が必要です。ただし、分析を自社で独自に行うのは難易度が高いため、専用のデータ分析ツールの導入をおすすめします。分析ツールを利用することによって「リピートのきっかけは何か」「パワーユーザーは誰か」などを視覚化でき、解約率低下への施策を打ち出す材料となります。

また、ツールのコホート分析機能も魅力です。コホート分析とは、特定期間における訪問ユーザーの行動を指標ごとに数値化して分析すること。顧客の定着率を測る際によく使用されます。

【関連記事】
コホート分析とは?顧客行動を把握して維持対策に活かす

Mixpanelで解約率を分析した成功事例

ここでは、Mixpanelで解約率を分析した成功事例を紹介します。オリジナル小説の投稿・閲覧ができるアプリを提供しているT社は、高いトライアル解約率に悩んでいました。Mixpanelで分析を行ったところ、ユーザーの行動傾向として無料トライアル期間が7日間あるにもかかわらず、課金した当日に解約を申し込むユーザーが多いことを発見。

結果、トライアル期間終了前にユーザーへ通知を送るというUIで安心感を与えることで、総合トライアル解約率を53%下げることに成功しました。分析により、初日のキャンセル率の高さに気付けたことが功を奏したといえるでしょう。

また、セッション終了手前の「ストーリー終わり」画面で離脱するユーザーが多い点にも着目し、「作者の他の作品」セクションを表示させる機能を追加。結果、本の平均閲覧回数が約3倍にも増加しました。解約率を分析することで改善策を講じられたという事例です。

Mixpanelは解約率の分析に役立つデータ分析ツール

効果的な解約率の分析には、データ分析ツールの活用がおすすめです。Mixpanelはデータが見やすく、直感的な操作が行える点が魅力。プログラムを使わず、気になるデータを自由に操作することも可能です。また、ユーザーに紐づけたマスターIDを使い、複数のデータベースを統合して一括で分析ができるため、これまで見えていなかった顧客の行動パターンを把握することにもつながります。

また、ファネルをリアルタイムに構築し、ユーザーの行動や属性からどのユーザーがコンバージョン率が高いかを把握することも可能です。さらに、離脱原因となる行動を特定することで、具体的な改善ポイントを発見することができるでしょう。

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コンバージョン率の改善に有効な「ファネル分析」の活用法

解約率の分析は長期的な事業成長に重要

顧客ニーズに応えてビジネスを成長に導くためには、解約率の分析が不可欠です。解約率を分析することで、顧客の解約・ダウングレードの原因を特定し、改善につなげることができます。解約率分析を定量的に実施し、改善に必要となる施策を立案・実行して、LTVアップひいては事業の成長を実現しましょう。

ユーザーのコンバージョンやエンゲージメント、リテンションを高める分析ツール「Mixpanel」を活用して、顧客と長期的な関係を築くための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。