現代社会でデジタル機器を使って人とつながる私たちの毎日は、質の高いポリシリコンなしには成り立ちません。多結晶シリコン、すなわちポリシリコンは、半導体および太陽光発電業界にとって主要な原材料です。ポリシリコンは、シリコンウェハーやその他の基板を製造するために使用されます。それらの基板は、スマートウォッチ、携帯電話、タブレット、コンピューター、IoTデバイス、太陽電池など、人々が日常的に使用するさまざまなデバイスの基盤となります。

ポリシリコンは、極限温度でシリコンに分解される化合物を蒸留する、高度な化学精製プロセスを経て製造されます。従来、電子製品向けのポリシリコンには10億分の1（ppb）未満という不純物レベルが要求されてきました。しかし今日、太陽光発電業界においては、やや純度の低いポリシリコンを用いて太陽電池を製造することができます。

ポリシリコン原料の製造には、多くの課題が伴います。ほぼ完璧に近い純度レベルを安定的に確保すること、エネルギー消費を削減するための措置を講じること、そして製品のコモディティ化による低コストを維持しなければならないことは、業界関係者に一定のリスクを強いるものです。これらが、Hemlock Semiconductor Operations（HSC）社が直面していた主な課題でした。

生産の最適化から市場シェアの維持まで

競争の激しいポリシリコン製造業界において、HSC社は最高品質で最も信頼性の高いポリシリコンを安定供給できる能力により、世界中の多くのバイヤーから「選ばれるパートナー」としての地位を確立してきました。そうした中でも、HSC社はグローバル市場での競争力を維持するため、常に革新的な方法を模索しています。

ポリシリコンはコモディティであるため、価格設定の柔軟性はほとんどありません。製造コストの削減に注力することで、HSC社は収益性を高めることができました 。HSC社のプログラムマネージャーである Kevin Britton氏は、「ポリシリコン業界のコモディティ化は、コスト構造の厳格な管理を必要とする」と述べています。

ポリシリコンの生産最適化は、他の多くの製造プロセスよりもはるかに複雑です。顧客の期待に応えるためには、99.999999999%という極めて高い純度レベルが求められます。歩留まりとプラント効率を最大化するためには、プロセスを構成する要素間の相互作用を精密に最適化する必要があります。プロセスのばらつきは、不純物レベルの上昇や歩留まりの低下につながる可能性があります。これほど誤差の許容範囲が狭い中、HSC社は可能な限り最良の結果を達成できるよう、製造プロセスの継続的な改善を推進しなければなりません。

HSC社のCIOであるKeith Carey氏は、「継続的に生成される膨大なデータを最大限に活用することは、もはや不可欠になりました。コストを管理しながら品質を向上させ、新たなビジネスモデルの可能性を活かすために、社内プロセスをより深く掘り下げる必要がありました。」
コスト、品質、そして省エネという複合的な経営課題を解決するため、HSC社は長期的な収益性と競争上の地位を強化する戦略を必要としていました。SpotfireとTIBCOが、その実現の鍵となりました。

コスト管理、生産量の最大化、そして省エネルギー

HSC社が最初に取り組んだのは、長期的な価格競争力を確保するために、全体的なコスト構造を引き下げることでした。コスト管理のためには、製造プロセスの各段階から得られるデータを分析し、反応器プロセスにおける温度、圧力、エネルギー使用量の影響をより深く理解し、定量化する必要がありました。その結果、HSC社はリアルタイムの工程監視・制御を導入することで、製造プロセスを再設計し、生産量、効率、品質を最大化することに成功しました。

次の課題は、製品品質の最大化に取り組むことでした。これは、プロセスの異常を検知できるプラットフォームを導入することを意味します。HSC社の従来インフラは大きな障壁でした。なぜなら、同社のデータの多くがサイロ化され、現代のデータ要件に対応できないレガシーシステムに留まっていたからです。しかし今では、異常が検知されると、HSC社は迅速にデータにアクセスし、問題の原因となった可能性のある変数を正確に特定できます。これらの因果関係が特定されると、プロセスの欠陥が再発するのを防ぐための対策が講じられます。

HSC社が製品品質を大幅に改善・管理できるようになった一方で、ポリシリコン市場は近年大きな成長を遂げ、用途に応じて異なる品質レベルが求められる新たな市場へと拡大していきました。例えば、半導体には依然として最高品質のポリシリコンが使用されますが、太陽光パネルはそれより純度の低いポリシリコンで製造が可能です。HSC社は、製造プロセスをデータ中心に可視化していたため、この市場の細分化をうまく活用し、適切な製品を適切な市場に適切な価格で販売することで、歩留まりをさらに最適化することができました。

次に取り組んだのが、エネルギー消費の最適化です。HSC社の2020年サステナビリティレポートには、Spotfireが同社の持続可能性目標と収益性達成をいかに支援したかが明記されています。「Spotfireは、HSCに最適化された展開と制御を提供し、現場のプロセスとエネルギー使用量の高度な理解を実現。HSCはピーク電力管理プログラムを開始し、Spotfireのデータサイエンス機能を活用して当社のパフォーマンスを可視化・最適化しました。ピーク電力管理は、電力消費が最も高くなる時間帯を避け、オフピーク時に多くの設備を稼働させることで、電力網への負荷を低減します。このプログラムは、電力会社が総需要をより適切に管理できるようになっただけでなく、HSCにとっても月額約30万ドルの節約につながりました」。

Carey氏は、「当社はミシガン州で最大の単一エネルギー使用者であり、エネルギー効率化プログラムを推進しています。その中でSpotfireは、エネルギー効率を高めるための重要なツールの一つであることを見出しました。成果とそれを実現したデータサイエンス製品に感銘を受けています」と述べています。

製造プロセスのプロアクティブな管理

より迅速な意思決定、製品の不純物の検知と防止、そしてポリシリコンの品質に応じて生産量を柔軟にシフトさせる俊敏性を持つこと、これもまたHSC社の重要な重点分野でした。HSC社はすでに業界のリーダーとしての地位を確立していますが、コモディティ化した世界的なポリシリコン市場において、総合的なコスト競争力を維持することは、事業の継続的な収益性に直結する極めて重要な要件です。そのため、意思決定の遅れや生産のボトルネックによって、コスト最適化のいかなる側面も阻害されることは許容できませんでした。

今日、カスタマイズされたデータ可視化により、HSC社は製造プロセスの非常に細かい側面まで把握することができます。その能力を補完するものとしてリアルタイムのアラート機能が追加されたことで、HSC社の従業員は生産ラインの危機的な状況に対して、以前よりもはるかに迅速に対応できるようになりました 。このソリューションは、即時アラートによるコスト削減と廃棄物の過剰生産防止に貢献しただけでなく、製造プロセスを改善するプロジェクトへの扉を開きました。

Kevin Britton氏は次のように述べています。「Spotfireを使うことで、これまで不可能だった方法でデータを結びつけることができ、メンテナンス管理や改善計画の策定に役立っています。もっとも効率的な作業箇所を確認し、パフォーマンスを追跡できるため、改善の鍵となる基盤が整いました。このデータ駆動型のアプローチは、継続的改善プロセスそのものにも及びます。」
Britton氏はさらにこう続けます。「今では、誰が何に取り組んでいるかだけでなく、プロジェクトの進捗が我々の期待通りに進んでいるかをリアルタイムでより把握できます 。また、生産能力をより明確に可視化し、今後のプロジェクトのタイミングを予測するモデリングも可能になりました。これは複数のソースから得られる複雑なデータを組み合わせて可視化できるほど、ツールが進化したからこそ実現したのです。」

HSC社が製造プロセスの管理を「事後対応型」から、より主体的・積極的な「プロアクティブ型」へと移行することを可能にしたSpotfireは、同社に新たなビジネスチャンスをもたらしました。

Carey氏は、「私たちは、時代遅れの静的なデータから、より直感的でリアルタイムなデータへと移行しています。コストをより詳細に把握するために内部情報を分析し、さらに外部の情報を取り入れることで、余剰材料をスポット市場で提供するといった、新たなビジネスチャンスを掴む必要がありました」と述べています。

業界のリーダーシップを強化する技術基盤

HSC社のコスト削減への取り組みは、Spotfireアナリティクスの小規模な導入から始まりました。このソリューションは、製造プロセスにおけるギャップをリアルタイムで可視化し、異常発生時にはトラブルシューティングが必要な設備を即座に特定して関係者に通知します。さらに、what-if（仮説）シナリオ分析を実行して、プロセス変更がもたらす影響をほぼリアルタイムでモデル化するためにも使用できます。

インテリジェントなデータ分析によってHSC社の複雑な製造・運用プロセスは高度に制御可能となりましたが、同社のシステム、プロセス、機械などの「普遍的な接続性」なくしては、実現不可能だったことでしょう。そこでTIBCOインテグレーションが重要な役割を果たしました。HSCは当初、いくつかの重要な分析要件を掲げていましたが、その過程でデータの普遍的持続性が、ビジネスをより明確かつ包括的に把握する上で、不可欠であることが明らかになりました。

Carey氏は次のように語ります。「私たちは、統合に関して6つか7つのユースケースを特定し、時間をかけて展開していきたいと考えていました 。最初のユースケースは製造の統合でした。つまり、現場とERPシステム、業務システムとどう接続するかということです。これにより、膨大なデータが生成されました。従来は可視性が限られていたシステムを分析するだけでなく、在庫レベルなどへの理解も深まりました。これは、ビジネスニーズの進化に合わせて拡張できるプラットフォームです。そしてそれが私たちが投資を決めたもう一つの理由です。」

HSC社は、システム間の強力な統合により、分析の影響力、有用性、適用範囲を拡大できる豊富な情報を得られることに気づきました。市場動向、ビジネスモデル、顧客の要求が変化する中、HSC社はより説得力のある分析的洞察を提供する能力を強化しました。これにより、事業の成長に合わせて柔軟に規模を拡大でき、かつ持続可能な方法で、自信を持って新たな用途への展開が可能になりました。

初期の取り組みの成功は、SpotfireとTIBCOソリューションの活用拡大にもつながりました。HSC社のCenter of Excellence（CoE）は、統合プログラムとSAP S4/HANAシステムの基盤を築いています。CoEは、HSCの基盤アーキテクチャを強化するために連携する多様な統合ツール、分析ツール、データ管理ツールを統合し、データサイエンス、データ仮想化、ストリーミング分析、その他のセルフサービスツールを含む、高度な分析機能を提供します。

SAP S4/HANAとの統合により、情報はリアルタイムで複製され、一連の計算ビューを通じて、より広範なHSC社のユーザーコミュニティに公開されます。TIBCOは、タイムリーな情報の配信と転送を簡素化し、HSC社に大きな利益をもたらします。TIBCOは、HSC社のインフラを支える基盤ツールであるだけでなく、その専門知識と継続的なサポートを提供し、プラットフォームの持続的な成功を保証します。HSC社は現在、製造統合、B2B、APIのホスティングなど、さまざまなユースケースに対応可能となり、顧客が安全かつセキュアな環境で同社のデータを利用できるようにしています。

すべての役割において、すべてのデータの価値を最大化する

長いサプライチェーンの一翼を担う部品メーカーとして、複数のパートナー企業とのデータ共有が非常に価値のある能力となります。
Carey氏は、「SpotfireとTIBCOの導入により、エンドユーザーを待たせることなく、詳細なビジネスデータや業務データを提供できる仕組みが進化しました。セルフサービス機能は、当社のIT戦略の重要な構成要素です」と述べています。

Spotfireにより、HSC社は複数年にわたるデータを処理・分析できるようになりました。これは、わずか90日分のデータに制限されていた従来のスプレッドシートベースのデータ整形手法とは対照的です。Britton氏は、「以前は、把握が極めて困難だったプロセスを可視化でき、各プロセスを最適に調整するために必要な、非常に複雑な問いへの答えを追求できるようになりました」と語ります。

HSC社のソリューションはライブで動的であるため、チームが協力して問題を解決し、根本原因を調査することができます。これら全てがリアルタイムデータによって実現されています。最も重要なのは、このソリューションが、数秒でアクセスできる分析機能を備えたデータ駆動型の文化をHSC社に育む手助けをしたことです。この文化変革は、同社のアイデア提案、問題解決、ソリューション創出の方法を変えました。SpotfireとTIBCOのソリューションは、単にデータによって裏付けられるだけでなく、データと共に解決策が生み出されるデータ駆動型の環境へ転換するための触媒となりました 。これらのソリューションは今や同社の不可欠な存在となり、会議、ディスカッション、プレゼンテーションなどで日常的に活用されています。

Carey 氏は、「今や私たちは一つのチームとして協力し、リアルタイムでデータを掘り下げて問題を解決しています 。データとSpotfireのおかげで、素早く失敗から学ぶ（フェイルファスト）のスピードは、過去とは著しく異なっています」と語ります。

次のステージへ

ポリシリコン市場が混乱期に突入したとき、HSC社はリーダーシップを維持するために変革が必要だと認識しました。新たなプラットフォームは、インフラの近代化を推進し、迅速かつ賢明な意思決定に必要な俊敏性を提供し、この混乱を乗り越える基盤となりました。SpotfireおよびTIBCOとのパートナーシップにより、HSCは当初から、事業を多角的に最適化する方法を把握することができました。

HSC社は将来に向けて、より堅牢なマスターデータ管理システム、製造デジタルツイン、データサイエンスアプリケーションの拡大、データストリーミングによるリアルタイムアラートへの対応力強化など、複数の機能強化を計画しています。今後数年間で、HSC社はデータをAI対応にし、B2Bのエンドユーザーが活用できるようにすることを目指しています。生産コストの可視化と最適化から、製品の品質と生産量の最大化、そしてより信頼性の高い作業環境の構築支援に至るまで、HSC社はSpotfireとのパートナーシップに自信を持っており、その未来はこれらのソリューションと共にあると信じています。

Carey氏は最後にこう締めくくります。「私たちの開発スピードとソリューションの堅牢性が、HSCの将来を左右します。SpotfireとTIBCOのプラットフォームはまさにその鍵となるでしょう。SpotfireとTIBCOと提携するという私たちの決定は、何度もその正しさが証明されてきました。私たちは自社の文化に合った適切なツールと適切な企業を選んだのです。将来、特に『オールイン計画』の次段階における統合を期待しています。」