2021/10/13
法令遵守(電子帳簿保存法、インボイス制度など)
2022年電子帳簿保存法改正!請求書保存のポイントを網羅
2022年1月に電子帳簿保存法が改正される予定です。これまで印刷して保存可能だった電子請求書(PDF請求書)ですが、改正後は紙保存が廃止となってしまいます。そのため、改正前に対応しなければなりません。しかし、「電子帳簿保存法の改正が施行予定であること自体を知らなかった」「知っていたが、内容はよくわからない」という人も多いようです。
電子帳簿保存法が改正されることになった背景とは?
電子帳簿保存法は1998年に制定された法律で、正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。この法律が制定されるまでの請求書や会計帳簿などは、すべて紙で保存するのが一般的でした。電子データとして保存する企業もありましたが、印刷して紙の記録も残しておくことで「万が一のとき」に備えていたところが大半だったといえます。
そこで、電子化したデータを活用し、紙主軸による業務の効率化や郵送にかかるコストの削減、保管スペースをほかの作業に使用できるといったメリットがある電子帳簿保存法が施行されました。その後、2005年にe-文書法の施行、2015年~2020年にかけてスキャナ保存制度の緩和やデジカメ・スマホで撮影した画像の電子データ保存、キャッシュレス決済の電子取引明細の認定などもされています。電子データの保存方法が進歩するなか、2022年1月に電子帳簿保存法が改正されることが決定しました。
電子帳簿保存法改正の理由のひとつは電子データによる保存を導入しやすくするため
紙による請求書の保存はスペースをとったり、必要なときに探し出す手間がかかったりとデメリット面もさまざまありました。しかし、電子データによる保存が可能となってからも、紙に印刷する保存方法を継続している企業は少なくありません。これは請求書を電子データとして保存するためには税務署に申請し、承認してもらう必要があるからです。申請をしてからも承認の可否は約3カ月待たなければならないケースもあり、手間と時間がかかることが導入の障害になっていました。こういった状況を打破するために、電子帳簿保存法を根本から見直す必要があると考えられ、要件の緩和が求められています。
改正によって変更される点はどのような部分?
電子帳簿保存法の改正は、より多くの企業に電子データによる請求書の保存を導入してもらう目的があるため、さまざまな点が変更になります。こちらでは電子請求書の紙による保存が廃止される以外の3つの変更ポイントについて見てみましょう。
税務署への申請・承認が不要に
改正前は電子データによる保存を導入する3カ月前までに税務署に申請し、承認の可否が出るまで待期期間がありました。改正後は国の基準を満たし、電子帳簿保存法対応可能な機能を備えたシステムの導入、社内規定の策定・周知を行った企業であれば、申請や承認不要で電子データの保存が導入可能になります。
ただ、改正の施行は2022年1月ですが、承認制度廃止の対象になるのは「2022年1月1日以降の事業年度から」です。つまり、決算の翌月から適用になるため、たとえば、3月決算の企業であれば2022年4月1日以降のものが適用されます。電子データ保存が適用されるのは2022年1月1日以降に受け取ったものであるため、1日前の2021年12月31日分を紙の請求書で受け取った場合、そちらを電子データにしたいのであれば税務署に申請したうえで承認を受けるまで待たなければなりません。
タイムスタンプの付与期間の延長
電子データの時刻証明ができるタイムスタンプですが、改正前は請求書を受け取り、担当者がサインしてから3営業日以内に付与しなければなりませんでした。しかし、改正後は電子データの読み取り時に担当者のサインが不要になり、タイムスタンプの付与も最長で2カ月と延長されます。また、改ざんなど不正防止対策として、電子データの修正や削除の履歴を残すことができるシステムを利用していれば、タイムスタンプ自体も不要です。
社内規定整備の適正事務処理要件が廃止
改正前は、内部統制を行うために定期検査と適正事務処理要件に対応しなければなりませんでした。定期検査は原本と電子データの情報に相違がないかをチェックするものなので、検査終了まで原本の保存が必須です。さらに、お互いにチェックをする意味で担当者も2名以上で対応する必要があります。改正後は、これらの適正事務処理や請求書スキャナ後の原本保存が不要になりました。事務処理において相互けん制も不要になったことから、担当者1人で対応もできます。
電子帳簿保存法最大の変更点は「電子請求書の紙保存廃止」
2021年12月まではこれまで通り、電子請求書を受け取った際に紙に印刷し、保存しておくことが可能でした。電子と紙2つの保存方法によって、請求書データの紛失などを防いできた企業は多いです。しかし、改正後は請求書保存において変更があるため、早めの対処が必要になります。
請求書の保存は電子データが基本に
2022年1月に電子帳簿保存法が改正後は、電子請求書で受け取った請求書に関しては完全に電子データとして保存しなければなりません。一方、紙で受け取った請求書はこれまで税務署に申請しなければ電子データとして保存することができませんでしたが、改正後は紙のまま保存しても良し、電子データにして保存しても良しと自由度が高くなります。現状として、すべて紙、すべて電子データと1つの受取方法にまとめている企業は少なく、紙と電子データの請求書が混在しているケースが多いようです。改正後も紙と電子データどちらでも保存をしておきたい場合は、紙の請求書で受け取る必要があります。
電子帳簿保存法による「電磁的記録」とは
国税庁は電磁的記録について「電子的方式や磁気的方式その他の方式など人の知覚で認識することができない方式で作られる記録」「電子計算機による情報処理のために使用されるもの」と記載しています。そのため、電子帳簿保存法の改正後に印刷・紙保存ができなくなる電子請求書は「電子メール(PDFファイルなど)で受け取ったもの」のほかに、「ホームページ上の画像コピーやダウンロードしたもの」「クラウドサービス上で受け取ったもの」「クレジットカードなどの支払い明細」などが挙げられるでしょう。
電子請求書の保存方法は4つ
電子請求書を受け取った際、保存できる方法は「発行者側がタイムスタンプを付与した請求書を発行する」「請求書を受け取り後にタイムスタンプを付与し、保存する」「訂正削除履歴を残したうえで保存する(もしくは訂正削除不可で保存)」「訂正削除防止規定をあらかじめ備え付けておく」の4つです。すべてを実行する必要はなく、いずれかの方法で保存をすれば問題ありません。タイムスタンプは電子請求書がその時間に存在していたという証明であり、発行された請求書の内容が改ざんされていない証明にもなります。
スタンプ不要の保存方法の場合は検索要件を満たす必要がある
タイムスタンプの付与が困難な場合は、国税庁のホームページにある訂正削除防止の規定サンプルがあるので、そちらを利用して備え付けておくことも可能です。ただ、こちらの方法で保存するためには3つの検索要件を満たす必要があります。その3つとは「取引した日付や金額、主要項目などを検索条件に設定できる」「日付と金額を範囲指定したうえで検索条件を設定できる」「2つ以上組み合わせた項目を検索条件に設定できる」です。
優良電子帳簿システムの導入による優遇措置
優良電子帳簿システムとは、改正前、つまり電子帳簿保存法の要件が厳しい状態にも対応できるシステムのことです。改正後に、優良電子帳簿システムを導入している企業は、優遇措置を受けることが可能になります。優遇措置を受けるためには、事前に税務署に届け出る必要がありますが、申告漏れをした際の過少申告加算税を10%から5%に減免してもらうことが可能です。
また、主にフリーランスに当てはまる優遇措置ですが、青色申告特別控除で控除額65万円が適用されます。加算税に関してはルール違反をしていない場合には特に優遇とはいえない措置かもしれませんが、万が一のことを考慮して優良電子帳簿対応のシステムにしておくのもひとつの方法です。改正前にすでに優良電子帳簿システムを利用していた場合も、こちらの優遇措置を受けるためには改めて税務署に届け出る必要があります。
電子取引の保存システムがない場合はどうすれば良い?
検索機能の確保の要件をクリアしなければならないため、エクセルなどの表計算ソフトを利用することでシステムの代用にできます。表計算ソフトに取引データ情報を入力し、一覧表を作りましょう。取引データは、取引の日付、取引金額、取引先の情報などです。利用しているエクセルの機能で範囲指定や2つ以上組み合わせた項目を条件設定をすることが可能な状態であれば、検索機能の確保についての要件を満たしているという扱いになります。ただ、将来的なことを考えると電子取引保存システムを導入するのも便利でしょう。
電子帳簿保存法の改正後に違反した場合の罰則は厳しいので注意を
電子帳簿保存法が改正され、電子データによる保存が導入しやすくなった反面、ルール違反をした場合の罰則は厳しく設定されています。不正行為が発覚した場合、「通常加算される重加算税+不正した税額の10%」を支払わなければなりません。
青色申告の取消によって白色申告に
青色申告の承認取り消しとともに税金関係の優遇も取消、欠損金の繰越が不可になるといった罰則が加わります。青色申告の取消を受けた場合、白色申告になるため、企業としての信頼性が失われるほか、税務署による推計課税の支払いも必要です。推計課税では税務署が推計する所得税や法人税になってしまうため、大きな支出になる可能性も有り得ます。場合によってはほかの違反行為も疑われ、厳しく追及されてしまうので違反しないように注意しましょう。
どのような行為が違反になるのか
電子帳簿保存法が改正されるにあたり、増加するのではないかと懸念されているのが領収書の使いまわしです。スマホで領収書を撮影して電子化することができるため、不正経費につながる可能性があります。使いまわし以外にも画像の改ざんをする行為も違反です。また、わざとではなくても、領収書を撮影した後、同じものを2枚添付してしまった場合、経費の二重申請になる可能性があります。このような違反行為を防ぐためには、領収書の原本に自筆でサインをしたうえで撮影し、タイムスタンプを決められた日数以内に付与するなどルールを決めておくのも有効です。
改正前にしておくほうが良い4つの準備
2022年1月の改正に向けて、スムーズに対応ができるように準備をしておきましょう。
取引先別の請求書受取方法の確認
さまざまな取引先からの請求書をどのような方法で受け取っているのか、保存方法は電子データなのか紙なのかなど、分析をしておくと改正後に対応しやすくなります。たとえば、これまでは紙で受け取っていたとしても、今後電子データで受け取る可能性があるのかといった予測もたてておくほうが安心です。
自社に合った電子化の検討をする
業務の効率化やコスト削減などメリットが多い請求書の電子データ化ですが、専用システムを導入する場合、初期費用に加えて社員教育や業務の見直しなどやらなければならないことも少なくありません。要件を満たしたうえで電子化する方法もさまざまあるので、自社に合った方法を見つけることが重要です。
電子化に伴う不正防止対策を練る
電子化保存の導入要件の緩和とともに危惧されているのが不正の増加です。改正後は罰則が厳しくなるため、「自社の社員に対して研修などで教育をする」「不正防止対策としての点検方法や強化」などを行う必要があります。具体的には内部・外部監査、人事異動を定期的に行う、システムログを確認するといった対策があるでしょう。
システムに関して相談可能な信頼できる専門家を探す
電子帳簿保存法の改正に伴う変更や新たにシステムを導入する場合などは、電子データや法律などに詳しい専門家に相談できるほうがより安心して対応することができます。電子帳簿保存についてわからない部分があったときにも自社に合ったやり方をアドバイスをもらうことが可能です。
電子帳簿保存法の改正によって電子請求書は電子化保存のみに
2022年1月1日から施行される電子帳簿保存法の改正で、特に大きな変化といえば、改正後は電子請求書に関しては完全電子化保存が基本になる点でしょう。その場合も社員に対して事前に研修会などを行って教育したり、不正防止対策を練ったりしなければなりません。そのようなときには専門家の力が必要になる場合もあるため、あらかじめ相談先を見つけておくのがおすすめです。
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