2025/02/21
日本はかつて「ものづくり大国」と呼ばれるほど製造業が盛んでしたが、現在は人材不足の深刻化や価格競争の激化などによって衰退しつつあります。今後、製造業を発展させるためには、積極的な「データ活用」に取り組むことが大切です。
本記事では、日本における製造業のデータ活用の現状や重要視されている理由を踏まえつつ、データ活用が製造業にもたらすメリット、データ活用の進め方や今後の課題について解説します。製造業におけるデータ活用のノウハウが知りたい方は、ぜひご一読ください。
データ活用とは、収集したデータの取捨選択や分析を実施し、課題解決や事業拡大などに役立てることです。製造業においては、以下のような目的で活用されています。
経済産業省が公表している「2022年版 ものづくり白書」によると、ものづくり企業のうち「デジタル技術を活用している」と回答した企業の割合は67.2%です。
なお、ものづくり人材確保の取組として、約5割の企業が「デジタル技術関連の研修・教育訓練の実施」と回答しています。また、人材育成等の取組に関しては「作業マニュアルの整備」「OFF-JTの実施」と回答した企業がそれぞれ約4割という結果です。デジタル技術やデータ活用が推進されてはいるものの、十分ではないのが現状です。
製造業のデータ活用が重要視されている背景には、デジタル技術の著しい進化があります。昨今、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の台頭によって企業間競争が激化しており、これらの技術を用いるために必要なデータの重要性も高まっている状況です。
また、人口減少や少子高齢化に伴い、日本の労働人口が減少していることも理由の一つです。限られた労働力で対応できるよう、業務効率化に向けた施策としてデータ活用が注目を集めています。
総務省の「令和2年版 情報通信白書」によれば、製造業でビッグデータを活用している企業は、活用していない企業よりイノベーションの創出が統計学的に優位な差で多くなっています。さらに、データ活用による生産性の向上が確認されている点も見逃せません。
効果的なデータ活用により、製造業は以下のメリットを享受できます。
各メリットの詳細も解説します。
定期的に設備保全を行う場合でも、保全前に何らかの故障が発生し、設備自体を使用できなくなってしまうリスクがあります。そうなると、保全スタッフの工数が増加し、業務上の負担や人件費が増えてしまうことも懸念点です。
データ活用を実践すれば、収集した障害履歴や稼働実績ログといったデータに基づき、該当設備の故障時期を予測したり、故障の予兆を検知したりすることができます。また、故障の予兆から具体的な原因を分析し、再発防止の対応がとりやすくなることもメリットです。
複雑な製造プロセスを組んでいる場合、作業が属人化しやすいうえ、業務負荷が特定のポイントで集中しやすくなります。そのため、納期の遅れや生産効率の低下といったリスクが発生しがちです。
こうした課題に対応するためには、設備の稼働データを収集・分析し、作業フローの見直しや改善を行うことが重要です。これにより製造プロセスの最適化が図られ、生産性向上やコスト削減、さらには労働力不足の解消といった収益に直結するメリットを得ることが可能です。
しかし、多くの製造現場では複数の装置メーカーが提供するツールが混在しており、それぞれ独自仕様のためデータ形式が統一されていないケースがあります。このような状況では、現場で必要な分析を迅速に行うことが難しくなる場合があります。また、内製ツールでは操作性や機能面で改善に時間がかかることもあり、現場ニーズへの即応性が課題となることがあります。
このような課題に対して、「Spotfire®」は異なる装置ベンダーから出力されるデータを統一的に扱えるだけでなく、高度な探索的データ分析を可能にすることで、製造プロセス改善を効率的に進める強力なツールとして活用されています。
たとえば、東京エレクトロン株式会社様では、半導体製造装置から得られる膨大なログデータを効率的に解析するために「Spotfire®」を導入しました。同社では以前、自社開発のシステムを使用していましたが、現場からの要望を反映した改修には時間がかかりすぎるという課題がありました。Spotfire®は直感的な操作性と高度な解析機能を備えており、大量データでも迅速に可視化・分析できる点が評価されました。その結果、現場エンジニアへの情報共有やツールの横展開がスピーディーになり、生産性向上や稼働率改善につながっています。
製造計画は製品のニーズを予測したり、在庫管理やリソース配分などを検討したりする重要なプロセスです。製造計画の精度が低ければ、過剰生産や欠品といった問題が発生しやすくなるので、結果的に赤字や機会損失が起こる可能性も高まってしまいます。
データ活用を通じて製造計画の精度が向上すれば、上記のようなリスクを抑制できるため、計画通りの生産活動を行うことが可能です。また、データの蓄積によって分析精度を高めることもできるでしょう。
不良品が発生した場合、機会損失・稼働率の低下・クレーム・企業イメージ悪化といった問題を引き起こしてしまいます。
製造工程内のデータをモニタリングすれば、不良品が出てしまう原因を特定することが可能です。その原因に対して適切な対策を講じることで、製造プロセスの品質を改善できるようになります。
不良率が低下すると、コスト削減や顧客ロイヤルティの向上を実現できるため、結果的にさらなる収益の向上が期待できるでしょう。また、製品の品質を高めることは、新規顧客の獲得にもつながります。
データ活用を実践することで、生産効率や品質などの向上に寄与できます。これは他社に対する競合優位性の確保につながるため、競争が激しい業界でも自社のポジションを確立しやすくなるでしょう。
もし製造する製品自体に競争力がない場合でも、生産活動におけるトラブルを抑制できるので、データ活用を推進していない企業より優位に事業運営ができます。また、過剰生産や欠品の防止によってコスト削減を実現できるため、価格面での競争力強化につながることもメリットです。
これまで現場の品質管理のカギは、熟練者の知見(暗黙知やノウハウ)になっているケースがよく見受けられました。しかし、現在は人口減少や熟練者の高齢化により、人材不足が深刻化している状況です。
今後、品質管理を高いレベルで維持するためには、熟練者への過度な依存を軽減しなければなりません。収集したデータを分析・活用すれば、製造プロセスの人材配置を可視化したり、不足しているスキルを特定したりすることが可能なので、結果的に人材不足の解消へとつながります。
また、作業をモニタリングすることにより、リアルタイムでフィードバックを行うことも可能です。
製造業のデータ活用は、以下のような手順で進行します。
各手順の概要もまとめました。
最初にデータ活用の目的・目標を設定すれば、これから何をすべきかはっきりさせることができます。目的・目標というゴールを明確化しなかった場合、収集や分析の方向性があいまいになってしまうだけではなく、データ活用を実践すること自体が目的になりやすいため、思うような成果が出ない事態に陥りがちです。
そして、以下のように定量的な目的・目標を決めて、適切なKPIを設定できるようにすることも大切です。
このようなゴールを定めることで、今後の取り組みもスムーズになります。
データ活用の目的・目標が決まったら、次は自社で解決すべき課題を明確化する必要があります。課題の具体例をいくつか紹介するので、以下も併せてご確認ください。
各課題のボトルネックを明確化することで、課題解決に必要なデータを見つけやすくなります。
また、解決すべき課題が複数挙げられた場合、優先順位を決めて取り組むことが大切です。初めは効果が小さくても解決しやすい課題を選んだほうが、データ活用の有効性を実感しやすくなります。
データ活用を進める場合、まずはデータを収集しなければなりません。現状の設備で収集できるデータを挙げつつ、センサー類など不足する設備を洗い出す必要があります。
そして、収集したデータを適切に一元化・分析するため、サーバーやソフトウェアなども必要です。
データの分析を担うソフトウェアには、以下のようなものが挙げられます。
これらの設備やツールを導入する際はコストがかかるので、予算計画もしっかり立てておきましょう。
設備やツールの準備が整ったら、分析・課題解決に用いるデータを収集していきます。すでに自社で蓄積しているデータに加えて、新たに必要なデータを収集しましょう。
製造業の場合、主に「作業員」「生産」「品質」に関するデータが必要です。収集すべきデータの例を紹介するので、以下も併せてご覧ください。
【作業員に関するデータ】
【生産に関するデータ】
【品質に関するデータ】
収集したデータを適切に分析することで、より精度の高い改善施策を策定できるようになります。データの性質や種類によって分析手法は変わるため、状況に応じた判断が必要です。
例えば、製造プロセスにおける全体の状況を把握するための記述統計や、将来の需要や生産量を予測するための予測分析などが挙げられます。
なお、データ分析には専門的な知識が求められるため、自社での対応が難しい場合、専門業者に委託することを検討しましょう。
データ分析が完了したら、分析結果に基づいて改善施策を実施します。改善施策が一通り終わったあとは効果検証を行い、さらに改善を重ねることが大切です。
改善施策と効果検証を繰り返すことで、より深い洞察を得られるため、さらに効果的な改善施策を立案できるようになるでしょう。
また、設定したKPIの進捗状況をチェックし、期待通りの効果を得られているか確認することも重要です。十分な効果を得られている場合、その他の工程や部署で応用することも検討しましょう。
Spotfire®は、データの読み込み・前処理・可視化・統計解析・共有といった一連の手順をワンプラットフォームで実現できるBIツールです。拡張フレームワークによるカスタマイズ、ストリーミング分析やインタラクティブAIなど多彩な機能を搭載しています。
あらゆるデータを分析し、優れたインサイトを迅速に獲得できるため、より効率的なデータ活用が可能です。
Spotfire®を導入すれば、以下のようなメリットを享受できます。
実際の導入事例も紹介するので、ぜひご覧ください。
精密機器を手掛けるセイコーエプソン株式会社様は、プリンター・プロジェクター・ロボット・腕時計といった多くの製品事業を展開しています。現場の人員による不良要因分析の基盤の構築を目指していたものの、これまで各事業が独自の方法で分析していたため、ノウハウを共有できる環境がないという課題を抱えていました。
しかし、Spotfire®を導入したことで、強力な分析基盤を活かした「データ起点型」の分析アプローチを実現。現場だけで高度な不良要因分析に取り組める体制が整い、課題解決につながったとのことです。
製造業に携わる企業がデータ活用を実践すれば、故障時期の予測・生産性の向上・収益の向上・人材不足の解消など、数多くのメリットを享受できます。労働人口の減少やデジタル技術の進化といった背景を踏まえると、今後もデータ活用の重要性は高まるでしょう。
ただし、データ活用を成功させるためには、事前に適切な運用体制を構築しておく必要があります。特に設備やツールを導入する場合、それなりのコストがかかるため、早めに計画を立てたいところです。
より効率的にデータ活用を進めたいなら、Spotfire®の導入もご検討ください。