CSポートフォリオ分析とは?活用事例を使ってわかりやすく解説

1.CSポートフォリオ分析とは

CSポートフォリオ分析の概要

CSポートフォリオ分析とは、顧客を対象に商品やサービスの満足度を調査する分析手法です。
CSとはConsumer Satisfactionの略で顧客満足度を意味し、調査した顧客満足度を一枚のグラフ(ポートフォリオ形式)にまとめる分析です。

CSポートフォリオ分析の結果は以下のようなグラフで表されます。

各項目の満足度と、それらの項目が総合満足度に与える重視度を調査し、グラフにまとめています。
このグラフの結果は以下のような解釈をすることができ、自社商品やサービスの現状把握に使うことができます。

グラフの右上にある項目:重視度も満足度も高く、上手くいっているため引き続き維持したい項目
グラフの左上にある項目:満足度は高いものの重視度は低いため、満足度を維持しつつも投資配分を減らしたい項目
グラフの右下にある項目:重視度は高いものの満足度は低く、一番改善が求められる項目
グラフの左下にある項目:重視度も満足度も低いため、改善が難しければ削除や撤退してもよい項目

CSポートフォリオ分析の目的

CSポートフォリオ分析の目的は、消費者が満足している項目と重視している項目を明らかにすることで、改善の必要性のある部分の優先順位付けをすることです。

たとえばインターネット回線のサービス満足度を調査することになったとしましょう。
総合満足度を決める要素には”通信品質”や”料金”、”カスタマーサポートの充実度”など複数の要素があります。
通常のアンケート調査だけでも、それぞれの項目の満足度を調査することは可能です。
しかしどの項目がどれくらい総合満足度に影響を与えるか(各項目の重視度)は分かりません。
インターネット回線に関していえば、通信品質が総合満足度に最も影響していることは分かっていますが、他の項目に比べてどれくらい影響しているのか、定量的に把握はできません。
しかしCSポートフォリオを活用すると、各項目がどれくらいの満足度を得られており、かつどれくらい総合満足度に影響を与えるのか(顧客にどれくらい重視されているのか)、定量的にグラフを使って把握することができます。

以上の理由からCSポートフォリオ分析を用いることで、各項目の改善必要性の優先順位を明確にすることができます。

CSポートフォリオ分析の活用場面

CSポートフォリオ分析は以下の場面で活用されています。

  • 商品やサービスの現時点の満足度を各要素別に把握したい時
  • 顧客の満足度目線で商品やサービスの改善ポイントを検討したい時
  • 顧客の満足度目線で商品やサービスの経時的変化を確認したい時

2.CSポートフォリオ分析のメリットと注意点

CSポートフォリオ分析のメリット

各項目の満足度と重視度をまとめて確認できる

CSポートフォリオの最大のメリットは項目ごとの満足度と重視度を一度にまとめて確認できることです。
満足度と重視度を別々に調査した場合、グラフも別々に作ってしまいがちです。
しかしそうしてしまうと、常に2枚のグラフを行き来しながら確認をしなければならず、非効率です。

CSポートフォリオ分析であれば、グラフのどの位置にあるかを見るだけで、満足度と重視度の両方を確認することができます。
各項目の改善ポイントを検討する上で、満足度と重視度はどちらも必要な数値ですのでCSポートフォリオ分析で作成するグラフは非常に有用です。

結果をグラフで分かりやすく表現できる

CSポートフォリオ分析は結果をグラフで分かりやすく表現できる点もメリットです。
CSポートフォリオは商品やサービスの現状把握や改善ポイントを会議で検討する際などに使われますが、必ずしもデータ分析に詳しい方のみが参加しているとは限りません。
CSポートフォリオ分析で作成するグラフであれば、誰にでも理解がしやすいため、結果の見方の説明が最小限で済みます。
ビジネスの場において結果の分かりやすさは非常に重要ですので、CSポートフォリオ分析で作成するグラフは便利です。

疑似相関の影響を減らして重視度を比較できる

CSポートフォリオ分析において、横軸の重視度は総合評価と各項目の相関係数を用います。
この際に偏相関係数と呼ばれる指標を用いることで、疑似相関のリスクを減らして重視度を算出することができます。
疑似相関とは、直接相関しているわけではないのに相関しているように見えてしまうものです。
疑似相関とはどのようなものか、例を使って説明していきましょう。

ある小学校の調査で、学力と足の速さに相関がみられたとします。
しかし学力が足の速さに直接影響しているとは考えづらく、詳細に検証してみると以下の関係性が発覚しました。

この場合、年齢の影響により学力と足の速さは疑似相関していると解釈できます。
つまり学力と足の速さに因果関係はありません。
CSポートフォリオ分析の重視度の話でいえば、総合満足度に直接影響していないのに疑似相関してしまっている項目が含まれる可能性があるということです。

学力を上げても足は速くならないように、疑似相関した項目を改善しても総合満足度は上がりません。
相関係数だけを見ても、疑似相関かどうかは分かりません。
しかし偏相関係数を用いれば疑似相関のリスクを減らすことができます。
そのためCSポートフォリオ分析の重視度は偏相関係数を用いることもしばしばあります。

以上の理由からCSポートフォリオ分析では、偏相関係数を用いることで疑似相関の影響を減らして重視度を比較できます。

CSポートフォリオ分析の注意点

相関係数の算出が必要

CSポートフォリオ分析を行うためには、アンケート結果のデータから相関係数または偏相関係数を算出する作業が必要になります。
これらの値は専用のソフトがあればすぐに計算することができますが、エクセルだと少し手間がかかります(エクセルに慣れた方であれば問題のない範囲です)。
もし専用ソフトを使える環境になく自力で分析する必要がある場合は、エクセルの使い方や相関係数の算出方法に慣れておく必要があります。

大まかな結果までしか分からない

CSポートフォリオ分析は結果が分かりやすいことがメリットである反面、大まかな結果までしか分からないというデメリットがあります。

例えば以下のような内容はCSポートフォリオ分析からは分かりません。

「この項目の満足度をあげれば総合満足度がどれくらい上がるのか?」
「この項目の重視度がなぜ低い(もしくは高い)のか?」

このような詳細な検証が必要な場合は重回帰分析など、別の分析手法を併用する必要があります。

アンケート対象に偏りが出ないようにする

CSポートフォリオ分析に限らず全てのアンケート調査に言えることですが、アンケートを実施する対象は必ず偏りが出ないように注意しましょう。
大げさな例ですが、20代〜50代までが対象のサービスなのにアンケートをとったのは20代だけだったということがないようにしましょう。
適切なアンケート調査が行われていないと分析結果も偏ったものになってしまい、分析結果と実際の結果が噛み合わない恐れがあります。

CSポートフォリオ分析を行う際は、事前に誰を対象にどのように調査したデータなのか、確認するようにしましょう。

3.CSポートフォリオ分析の方法と手順

①アンケート調査を実施

最初に対象の商品やサービスに関するアンケート調査を実施します。
この際に、総合満足度と各項目の満足度を5〜10段階程度で回答して頂くようにします。
上記の結果だけでも分析を実行することはできますが、より正確な分析を実施するために年齢や性別など、総合満足度に影響を与える可能性のある項目に関しても補足情報を集めておきましょう。
適切な補足情報があれば重視度(偏相関係数)の精度が上がりますので、どの情報を集めるかは事前によく検討しておくようにしましょう。

②各項目の満足度を集計する

アンケートで分析用のデータが集まったら、各項目の満足度を集計します。
集計方法は、データの分布が正規分布していれば平均値を、していなければ中央値を用いるのが一般的です。

③総合満足度と各項目の相関係数を算出する

次に各項目の重視度を出すために、総合満足度と各項目の相関係数を算出します。
この際に疑似相関のリスクを下げたい場合は、補足情報も使って偏相関係数を算出します。
ここで算出した相関係数を重視度として扱います。
これで各項目ごとに満足度と重視度(相関係数)が算出されました。

④結果を散布図にする

先ほど算出した満足度と重視度を使って散布図を作成します。
以上がCSポートフォリオ分析の大まかな流れです。
それでは具体的な事例を使ってCSポートフォリオ分析の活用方法をみていきましょう。

4.CSポートフォリオ分析を活用した事例

CSポートフォリオ分析を活用して自社商品の改善点の優先順位を決定した事例

ある化粧品会社が次年度に向けた自社商品のブラッシュアップに向けた検討を行うことになりました。
商品の満足度は”使い心地”や”デザイン”、”香りの良さ”など複数の要素から決まっていることが分かっています。
しかし現在、どの要素がどれくらい満足されていて、どのくらい重視されているのかは分かっていません。
優先度の高い要素から効率的に改善していきたいため、これらを把握することが必須です。
そこでCSポートフォリオ分析を使って検討することになりました。

自社商品を使ったことのある顧客を対象にアンケート調査を実施し、各項目の満足度と総合満足度を調査しました。
そのデータを使って分析データとし、グラフを作成しました。
各項目同士でも相関し合っており疑似相関するリスクがあったため、今回のケースでは重視度に偏相関係数を使用しました。
また各項目の満足度と重視度を分かりやすいように偏差値に変換しました。

以下のグラフが分析結果です。

まずはグラフの右側にある重視度の高い項目からみていきましょう。
“使い心地”や”品質の良さ”は満足度が高いようです。
この項目は他社製品と差別化する要素であり、現状顧客を維持するための要となっている要素です。
この2つの項目は自社製品の強みとして、広告などでも訴求していくようにすべきところです。

次に”経済性”と”販売スタッフの対応”は、重視度が高いにも関わらず満足度が低く、最優先で改善すべき要素です。
来年に向けた取り組みとしては、価格の見直しやスタッフ対応の見直しなどの優先度が高いようです。
また”ブランドイメージ”に関しては重視度が高いものの、満足度は平均的です。
最重要ではありませんが、“ブランドイメージ”も改善していきたい要素です。

最後にグラフの左側にある項目ですが、現時点では改善の優先度が低い項目だと解釈できます。
しかし今後トレンドの変化に合わせて重視度も変わってくる可能性があるため、”香りの良さ”など満足度の低い項目は、余裕があれば改善の検討をしたほうがよさそうです。

以上の結果をもとに新しい取り組みを実行した結果、顧客満足度を向上することに成功し、売上も向上しました。
さらに、顧客の求める内容は常に変化していくため、今後も定期的に満足度調査を実施していくことになりました。
その後の定期的な調査では、施策の効果判定や問題の早期発見に繋がりました。

以上が顧客の満足度調査にCSポートフォリオ分析を活用した事例です。
この例のように、CSポートフォリオ分析を用いることで満足度調査の質を高めることができます。

5.まとめ

最後におさらいをしましょう。

  • CSポートフォリオ分析は顧客を対象に商品やサービスの満足度を調査する分析手法
  • 項目ごとの満足度と重視度を視覚的に把握することができる
  • 商品やサービスの各要素に関して、改善必要性の優先順位を明確化したい場面で活用される
  • メリットは項目ごとの満足度と重視度を一度に確認できる点と結果が分かりやすい点
  • 注意点は相関係数の算出に手間がかかる点や詳細な分析には向いていない点
  • 分析の大まかな流れは”アンケート調査→満足度と重視度を算出→グラフ化”

顧客の満足度を把握する際に、CSポートフォリオ分析は便利な手法です。
分析までの準備が比較的少なく、結果の解釈も容易なため、データ分析に馴染みがない方でも活用しやすい手法です。

CSポートフォリオ分析を活用したことで、今までの満足度調査からは分からなかった点が明らかになることもしばしばあります。
もし機会があれば、ぜひ活用してみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。