PSM分析のメリット・デメリットや活用・調査方法を解説

1.PSM分析とは

PSM分析とはPrice Sensitivity Meter(価格感度メーター)分析を略したもので、製品やサービスの理論上の適正価格を知るために行われる分析です。
分析の元となるデータは顧客へのアンケートを元に作成するため、事前にPSM分析に必要な項目の市場調査が必要になります。
PSM分析で分かるのは上限価格と妥協価格、理想価格、下限価格、許容可能価格帯の5つの価格です。
それぞれの価格の意味を以下に簡単にまとめました。

  • 上限価格:顧客が「これ以上高いと買わない」と感じる上限の価格
  • 妥協価格:顧客が「なんとか買うことができる」と妥協できる価格
  • 理想価格:顧客が「この値段なら買うことができる」と感じる理想的な価格
  • 下限価格:顧客が「これ以上安いと買わない(品質を疑ってしまう)」と感じる下限の価格
  • 許容可能価格帯(下限価格〜上限価格):その商品が市場で受け入れられる価格帯

これらのPSM分析の結果を参考に、新製品の価格設定の見積りや既存の商品価格の見直しを理論的に行うことができます。

図

2.PSM分析のメリット

通常のアンケートより信頼性が高い

過去の調査から「この製品が3000円なら買いますか?」「いくらなら買いますか?」のような質問は、実際の行動と乖離していることがすでに分かっています。
アンケートでは実際に買うわけではないので、実際よりも「買う」を選択してしまう人が多くなりやすい傾向があるそうです。
そのため「アンケート結果をみて買ってもらえるはずの価格で販売したのに、全く売れなかった」ということが起こってしまいます。
PSM分析で使うアンケート項目は4種類の質問項目によって、その問題を軽減できるように作られています。
そのため通常のアンケート結果よりも、PSM分析で得られた結果の方がより実際の値段設定とズレが少ない傾向があります。

顧客をベースとした価格感を掴むことができる

PSM分析は顧客へのアンケートデータだけを使って行われるため、顧客をベースとした商品の許容価格を知ることができます。
社内の意見のみで価格設定をすると、
「その価格で販売が実現可能か?」
「商品の原価を考えると、このくらいの価格にはしたい」
といった販売者側の都合がどうしても反映されてしまいます。
反面PSM分析で使われるのは顧客の意見のみですので、純粋に市場が求める製品の価格を知ることが出来ます。

根拠のある価格設定ができる

製品の価格設定が経験と勘で行われることもしばしばありますが、経験と勘だけでは上手くいかないケースもあります。
近年はデータドリブンな根拠ある価格設定を求められることも多くなってきました。
そのようなケースで、PSM分析の結果は価格設定の根拠にすることができます。

調査項目の内容や結果の解釈が容易

PSM分析は4種類の質問項目の用意と簡単な集計、グラフ作成が出来れば行うことができます。
そのため回帰分析やクラスター分析のような難解な数学の理論を知る必要はありません。
また結果もひと目で分かるため、難しい専門用語を覚える必要もありません。
そのためPSM分析には、データ分析を行ったことがない人でも取り組みやすいというメリットがあります。
具体的な調査票や集計の方法は後ほどご紹介します。

3.PSM分析の活用法

PSM分析は以下のようなケースで活用すること出来ます。
「ハイブランドなイメージを作るため、市場がギリギリ受け入れてくれる高い価格で商品を販売したい」
→上限価格付近で価格設定を検討
「セール特価にして販売数を増やしたいが、品質を疑われてしまうのも困る。品質が疑われない範囲でなるべく安い価格設定にしたい」
→下限価格付近で価格設定を検討
「新製品のため前例がなく価格の目安が分からない。まずは顧客の価格感を知り価格設定の参考にしたい」
→許容価格可能帯を参考に、生産コストなども考慮に含めて価格設定を検討
このようにPSM分析は4種類の価格を知ることが出来るため、目的に合わせて様々な活用が可能です。
戦略に合わせて様々な使い方もできるのは、PSM分析特有の活用方法だといえます。

4.PSM分析の活用事例

事例①〜新製品の価格設定〜

最初に紹介するのは、新ジャンルの商品の価格設定にPSM分析を活用した例です。
ある会社が今までにないジャンルの新製品を売り出すことを検討しています。
しかし新しいジャンルで競合もいないため、どれくらいの価格なら市場に受け入れてもらえるか、見当がつきません。
限定した地域でテスト販売をするとしても、最初の価格設定の目安がほしいところです。
そこでまずはPSM分析を行うことで、どれくらいの価格設定であれば市場に受け入れてもらえそうか検討することにしました。
PSM分析の結果は以下の通りになりました。
上限価格:5000円
妥協価格:4000円
理想価格:3500円
下限価格:3000円
許容可能価格帯(下限価格〜上限価格):3000〜5000円
生産コストも考えると会社の都合としては、販売価格を4000円以上にはしたいという状況です。
そのため理想価格は上回ってしまうものの、妥協価格である4000円を最初の販売価格として定めました。
その後限定した地域で販売してみると、予想を上回る販売数を得ることができたため、そのままの価格で全国販売をする流れとなりました。

事例②〜既存の商品の価格の見直しとキャンペーン価格の設定〜

次に紹介するのは、既存の商品の価格の見直しにPSM分析を用いた例です。
ある会社の販売する商品Aは、会社の主力商品です。
商品の価値には絶対の自信があるものの、なかなか販売数が上がらない状況です。
会議で検討した結果、販売数が上がらない要因の一つとして価格が適切でないことが挙がりました。
現在の商品Aの価格設定は10000円ですが、競合他社は7000円〜8000円で同じジャンルの商品を販売しています。
その点を考えると、確かに他社に比べて高めの価格設定ではあります。
いくら自信のある商品でも、市場に受け入れられない価格設定では販売数を上げるのは難しいと思われます。
そこでPSM分析を使って、今の価格である10000円が妥当かどうか、一度検証する運びとなりました。
PSM分析の結果は以下の通りになりました。
上限価格:9000円
妥協価格:8000円
理想価格:7500円
下限価格:7000円
許容可能価格帯(下限価格〜上限価格):7000〜9000円
PSM分析の結果から、今の価格(10000円)が市場の許容価格を上回ってしまっていることが分かりました。
本当は価格を8000円以下に落としたいところですが、生産コストを考えると9000円に落とすのがやっとです。
しかし商品の価値には自信があるため、一度使ってもらえれば9000円でも十分通用するのではないかと考えています。
そこで一時的なキャンペーンで価格を値下げして、まずは商品の購入者を増やす作戦にしました。
なるべく購入者数を増やしたいため、値下げ価格は理想価格の7500円に設定しました。
キャンペーンを開始すると予想通り商品Aの販売数が上がり、評判も上々でした。
商品Aを買った人が口コミで良い情報を拡散してくれたおかげで、キャンペーン終了後は価格を9000円にしていましたが、継続して販売数を伸ばすことが出来ました。

5.PSM分析のデメリット

理論上の適正価格しか分からない

通常のアンケートよりは信頼できますが、PSM分析の価格が必ずしも実際の市場で通用するとは限りません。
工夫をしてあるとはいえ、PSM分析はあくまでもアンケートデータを元にした分析だからです。
アンケートデータは時に実際の行動と乖離してしまうことがあります。
そのためPSM分析の結果がそのまま市場で通用するとは限りません。
可能なら小規模なテスト販売を行うなど、更に価格設定の妥当性を検証してから本格的な販売に移ったほうが理想的です。

実現不可能な価格が算出されてしまうこともある

PSM分析で導かれる価格は顧客視点です。
そのため原料などのコストを考慮すると、到底実現不可能な価格が算出されてしまうことがあります。
もしこのような価格になってしまった場合、商品に何らかの付加価値をつけるなど、顧客が「この値段でも買って良い」と思ってもらえる商品にする必要があります。
ただ実際に販売される前にこのような問題が分かることは、PSM分析のメリットであるとも言えます。

ある価格で販売した時の結果予測はできない

PSM分析では「ある価格で販売した時に、どれくらい買ってもらえるか」ということまでは分かりません。
PSM分析はあくまでも、どの価格なら市場に受け入れてもらえそうか知るための分析です。
このようなケースではCVM分析という分析手法を使うようにしましょう。

調査票や聞き方に注意が必要

他のアンケート調査全てにも言えることですが、PSM分析の結果は調査票や聞き方に影響されます。
そのため実際にアンケートを集める時は、聞き方やなるべく厳密に設定した方が、信頼性の高い分析ができます。
複数人でアンケートを集める場合は、必ず全員で調査票や聞き方の共有を行うようにしましょう。

調査するサンプルが偏らないように注意が必要

PSM分析は聞き方だけではなく、誰に聞くかも注意が必要です。
これはPSM分析だけでなく、他のどんな調査でも注意しなければならないことですね。
極端な話だと、実際にその商品を買わないような人たち(すでに別の製品を愛用している人や販売関係者など)に調査しても無意味な調査にしかならないでしょう。
調査するサンプルと実際の販売対象に乖離がないか、注意して調査対象を決めるようにしましょう。

6.PSM分析の流れ

PSM分析に必要な質問項目と聞き方

ある商品AのPSM分析をする場合、必要な質問項目は以下の4つです。

  • ①この商品Aは、いくらぐらいから「高い」と思いますか。
  • ②この商品Aは、いくらぐらいから「安い」と思いますか。
  • ③この商品Aは、いくらぐらいから「高すぎて買えない」と思いますか。
  • ④この商品Aは、いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか。

この4項目だけです。
簡単ですね。
聞き方のニュアンスが変わると分析結果に影響が出てしまうリスクがあるので、なるべくこのままの形で聞くようにしてください。

PSM分析用調査票の例

簡単な形ですが、先ほどの4つの質問項目に回答欄をつければ調査票は完成です。
紙で配って調査をする場合、以下のような調査票になります。

図

できれば回答方法は自由記述方式が望ましいです。

調査結果の集計方法

PSM分析ではアンケートで収集した4種類の価格をエクセルで以下のように集計します。

図

次にこのデータを使って累積度数分布表を作成した後に、以下のようなグラフを作成します。

図

4種類の線が交わるところがそれぞれ上限価格、妥協価格、理想価格、下限価格となります。
許容可能価格帯は下限価格〜上限価格の間です。
4つの質問項目を使って簡単な集計をするだけで結果がわかるのが、PSM分析のメリットです。

7.まとめ

最後におさらいをしましょう。

  • PSM分析とは製品やサービスの理論上の適正価格を知るために行われる分析
  • PSM分析は顧客ベースで製品の価格感を掴むことに優れ、通常のアンケートよりも価格設定の根拠になるなどのメリットがある
  • PSM分析の調査票は簡単に作成可能で、結果の解釈も容易
  • PSM分析の結果は新製品や既存の製品の価格設定に活用することができる
  • PSM分析で導かれる価格はあくまでも理論上の価格であるため注意が必要
  • PSM分析で導かれた価格帯が生産コスト上実現不可能な場合もある
  • PSM分析は4つの質問項目と簡単な集計のみで分析可能

アンケート調査ゆえのデメリットはあるものの、販売前の段階で手軽に価格設定の目安が分かるPSM分析は、非常に活用しやすい分析です。
難しい統計の知識などを持っていなくても誰でも扱える分析です。
今まで勘と経験だけで価格を決めていたり、通常のアンケートだけを使って価格を決めていたりしていませんでしたか?
もし当てはまる場合、是非一度PSM分析を活用してみることをおすすめします。
今までよりもいろいろなことが分かってくるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました。