
2024/07/18
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SLAとは?コールセンターにおける項目や設定のポイントを解説
SLA(Service Level Agreement)とは、自社のサービス品質について客観的な数値目標を定めた合意書のことです。顧客にSLAを提示することでサービス品質をわかりやすく伝えられるため、コールセンターでも活用が進んでいます。
この記事では、コールセンターにおけるSLAの項目や設定のポイントを解説します。コールセンターへSLAの導入を検討している担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
- SLAとはサービスの品質レベルを細かく定めた合意書のことで、顧客に対して自社サービスの品質レベルを客観的に示すために用いる
- SLAには、「責任範囲や保証範囲が明確になる」「サービスの品質を客観的に把握できる」「顧客との信頼関係を構築できる」といったメリットがある
- SLAの作成時には、「数値化できる目標を設定する」「実現可能な目標を設定する」「例外事由を設定する」といった点に注意が必要
SLAとは?
SLAとは、提供されるサービスの品質レベルを細かく定めた合意書です。SLAの内容は、サービス提供者と顧客の間で契約時に合意され、具体的にはサービスの内容・運営に関するルール・品質基準などが含まれます。
SLAはもともとIT業界で主に用いられており、通信障害が発生したときのサービス停止時間や通信速度、サーバーの稼働率などが主な項目でした。現在ではIT業界以外でもSLAを締結するケースが多く、コールセンターでも用いられています。
コールセンターにおけるSLAでは、応答率や一次解決率といった項目が重要となります。これらの項目を事前に明確に設定し、サービス提供者と顧客の間で合意しておくことで、契約後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
SLAと似た用語の違い
SLAと同じように、サービスの品質基準や目標とする数値を管理する指標は複数あります。それぞれ共通する部分や似ている部分はありますが、SLAとは異なるもののため、それぞれの違いを把握しておきましょう。ここでは、SLAと似ている4つの用語について解説します。
SLOとの違い
SLO(Service Level Objective)とは、SLAを達成するために必要となる具体的な目標値を定めたものです。サービスの品質レベルを設定するという点では同じですが、達成できなかったときの対応が異なります。
SLAが達成されなかった場合は、顧客に対して返金や減額などの対応が必要です。一方、SLOが達成できなかったとしても、SLAが達成されていれば返金などのペナルティは発生しません。SLAはサービス提供者が顧客との約束を守るための基準であり、SLOはその基準を達成するための目標値だと考えてください。
SLIとの違い
SLIは「Service Level Indicator」の略で、サービスレベルを確認するために実際に測定可能な指標のことです。稼働率や応答時間などの数値として測定可能な項目をSLIとして設定・測定することで、SLOが達成されているかどうかを検証します。
SLIは、SLAおよびSLOに定めた基準が守られているかを確認するための測定指標で、これら3つを適切に管理することでサービスの品質を維持します。
OLAとの違い
OLAは(Operational Level Agreement)は「運用レベル合意書」という意味で、サービス提供側の内部で交わされる合意書です。サービスを提供するために外部業者の協力を得ている場合、サービス提供者と外部業者との間で契約を結びます。具体的には、品質やメンテナンスなどの技術的な項目や責任範囲について取り決めます。
SLAがサービス提供者と顧客の間での合意に用いられるのに対し、OLAはサービス提供側の内部での取り決めであるのが違いです。OLAは、SLAの達成に必要となる内部の運用プロセスや外部業者との協力体制を明確にするために使用されます。
KPIとの違い
KPI(Key Performance Indicator)は、組織やプロジェクトの最終目標を達成するためにクリアすべき数値目標です。例えば、コールセンターで「顧客満足度を向上させる」という最終目標を設定した場合、KPIには「応答率90%」「平均応答速度10秒」などを設定します。
一方、SLAはサービス提供者と顧客の間で合意される契約で、提供されるサービスの品質基準を定めます。KPIとSLAは目標値を設定する点では共通していますが、KPIは組織内部の目標達成度を評価するために用いるのに対し、SLAはサービス品質について達成しなければならない水準を定めたものです。
関連記事:コールセンターのKPIとは?KPIの重要性と種類をご紹介
SLAが広まった経緯とは?

SLAは、もともと通信サービスなどのIT業界で品質保証書として活用されていたものです。インターネットが普及し始めた当初は通信品質が不十分で、サービス提供者と顧客の間でトラブルが頻発していました。そこで、顧客とのトラブルを防ぐために、事前にサービスの品質について合意するSLAが使われるようになりました。
SLAを定めて事前に合意することで、契約後のトラブルを防ぎながらサービスの信頼性向上にもつながります。この「サービス品質を保証する」という考え方が広まり、現在ではIT業界だけでなく、コールセンターや物流業界などでも広く活用されています。
SLAのメリットとは?
SLAを活用すると、サービス提供者にとって以下のようなメリットがあります。
- 責任範囲や保証範囲が明確になる
- サービスの品質を客観的に把握できる
- 信頼関係の構築に役立つ
- 他者との差別化につながる
上記4つのメリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
責任範囲や保証範囲が明確になる
SLAを結ぶと、サービスの責任範囲や保証範囲が明確になるというメリットがあります。SLAがあることでトラブルが発生したときの責任の所在が曖昧にならず、サービス提供者と顧客の双方にとって安心です。
SLAがない場合、顧客の思い込みやサービス提供者が想定していない理想を持たれる可能性があり、これがトラブルのもとになることがあります。一方、SLAによってサービスの品質が明確に定められていれば、サービス提供者が守るべき基準と顧客が求める品質を一致させることが可能です。これにより、認識の齟齬によるトラブルは発生しづらくなります。
サービスの品質を客観的に把握できる
SLAを作成すると、サービスの品質を客観的に把握できるのも大きなメリットです。SLAには具体的なサービス品質の基準や数値目標を明記する必要があるため、自社のサービスのパフォーマンスを定量的に評価できます。SLAを作成することで、自社サービスの強みや改善点などをより把握しやすくなるでしょう。
サービス品質が数値として明確に示されるため、SLAは顧客がサービスを選ぶ際の判断基準にもなります。SLAによって高いサービス品質を示すことができれば、自社サービスが他社よりも優れていることを客観的に証明できるのもメリットです。
信頼関係の構築に役立つ
SLAを導入することで、顧客との信頼関係を構築できるのも大きなメリットのひとつです。SLAにより提供されるサービスの品質が明確に定義されるため、顧客は「ここまでの対応をしてもらえる」と理解しやすくなります。また、SLAには達成できなかった場合の保証も含まれているため、顧客は安心してサービスを利用できます。
これに対し、SLAがないとサービス品質が不明確となり、顧客が期待するサービス品質に達していなかったとしても保証はありません。SLAには、このような顧客側のリスクを軽減して信頼関係を構築しやすくする効果もあります。
他社との差別化につながる
SLAがあると、他社との差別化にもつながります。SLAを提供していないサービスもあるため、SLAがあるだけで顧客に安心して契約してもらえるでしょう。また、競合サービスがSLAを用意していたとしても、自社のSLAが優れた内容であれば大きなアドバンテージとなります。
サービス選定時にSLAの有無や内容をチェックする顧客もいるため、他社との差別化を図りたいときにもSLAの活用がおすすめです。
コールセンターにおけるSLAの項目とは?

自社サービスについてSLAを作成しようと思っても、具体的にどのような項目を設定すべきか迷っている人も多いでしょう。コールセンターのSLAに用意すべき項目には、以下のようなものがあります。
- サービスの品質に関する項目
- 応対の品質に関する項目
- 生産性に関する項目
- コストに関する項目
- 保証金額に関する項目
それぞれどのような項目を設定するのか、以下で解説します。
サービスの品質に関する項目
コールセンターの顧客満足度は、電話のつながりやすさが重要な要素になります。そのため、コールセンターのSLAには、以下の項目を入れるとよいでしょう。
応答率 |
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SL(Service Level) |
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関連記事:コールセンターの応答率とは?計算方法と改善策を紹介
応対の品質に関する項目
どれほど電話がつながりやすかったとしても、顧客が求める回答を提供できなければ意味がありません。そのため、コールセンターのSLAには応対品質に関する項目も必要です。応対品質に関する項目には、以下のようなものがあります。
モニタリングスコア |
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一次解決率 |
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ミス率 |
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生産性に関する項目
コールセンターでは、一定時間に対応できる問い合わせ件数が多いほど生産性が高くなります。コールセンターの生産性を図る指標には、以下のような項目が用いられます。
CPH(Call Per Hour) | 1人のオペレーターが1時間に応対したコール数 |
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ATT(Average Talk Time) | 1コールにおける平均通話時間 |
ACW(After Call Work) | 1コールにおける後処理(問い合わせ内容のデータ入力など)の平均時間 |
AHT(Average Handling Time) | 1コールにおける処理時間(応対+後処理)の平均時間 |
稼働率 | サービス提供時間に対して、実際に顧客対応をしていた時間の割合 |
コストに関する項目
サービス選定時には費用対効果も重要な比較検討ポイントとなるため、SLAにはコストに関する項目も設けましょう。コールセンターのコストを測る指標には、以下の項目が用いられます。
CPC(Cost Per Call) |
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保証金額に関する項目
保証金は、SLAに明記されたサービス品質レベルを達成できなかったときに発生するものです。SLAには、サービス提供者が保証する具体的な金額も記載しておきましょう。保証金額を明記することで、顧客はより安心してサービスを利用できます。
SLAにおける保証金額は、サービスの利用料を上限とするケースが一般的です。
SLAを設定する際のポイント

SLAを設定する際には、次のポイントを押さえておきましょう。
- 数値化できる項目を設定する
- 実現可能な目標を設定する
- 適正範囲を定める
- 不測の事態を想定し、例外事由を設定する
それぞれの項目で注意すべき点について、以下で解説します。
数値化できる項目を設定する
SLAを設定する際には、数値化できる項目を設定することが大切です。数値化できる項目を用いることで、サービス品質を客観的に評価することができます。
数値化できる項目は、競合サービスとの比較がしやすいのもメリットです。例えば「応答率90%以上」などの指標を設定することで、自社のサービス品質が高いことをアピールできるでしょう。
一方、数値化できない指標はサービス品質が曖昧になり、トラブルの原因となるため注意してください。
実現可能な目標を設定する
SLAには、必ず実現可能な目標を設定しましょう。いくら高い数値を設定しても、達成できなければ意味がありません。SLAに明記した数値を達成できなければ、保証金が発生するだけでなく、顧客からの信頼を失ってしまうおそれもあります。
さらに、無理な目標設定はオペレーターに過度な負担を強いることになり、結果としてサービス品質が低下するリスクもあるため注意してください。現実的で達成可能な目標を設定し、オペレーターの負担を軽減しながら顧客が求めるサービス品質を保てるよう努めましょう。
適正範囲を定める
SLAを作成する場合、明記する数値が適正範囲かどうかを意識することも大切です。適正範囲から逸脱した数値目標は、達成できる可能性が低くなります。たとえ「自社なら実現可能」と判断したとしても、オペレーターの過度な負担を前提としているなど、無理な数値でないか確認が必要です。
現実的な目標を設定するためにも、SLAの作成時には適性範囲を定めたうえで具体的な数値を決めるようにしましょう。
不測の事態を想定し、例外事由を設定する
SLAに記載する内容は達成を前提としつつも、不測の事態を想定して例外事由を設定することが重要です。例えば火災や自然災害など、コールセンターの運営そのものが難しくなる事態に陥る可能性もゼロではありません。このような事態に見舞われた場合には、SLAの達成は難しいでしょう。
そのため、こうした不測の事態が発生した際には、SLAの達成ができなくても保証の対象外とすることを明記しておく必要があります。このような例外事由を設定しておくことで、予期せぬトラブルを回避できます。
SLA導入の流れ
実際にコールセンターでSLAを導入する際には、次のような流れで進めるとスムーズです。
- 自社サービスの顧客のニーズを明らかにする
- SLAを構成する要素を決める
- 各項目について具体的な数値目標を決める
- SLAの内容について関係者に共有する
- SLAの達成度を確認し、必要に応じて改善を行う
顧客のニーズはSLAに記載する項目や数値目標を設定する際の基準になるため、最初にニーズを明確にしておきましょう。
一般的なSLAは、「前提条件」「保証対象」「数値目標」「ペナルティ」の4つの要素から構成されます。それぞれの要素について内容や必要な項目を定め、それぞれの項目の数値目標を決めるとSLAの完成です。
SLAの内容はオペレーターなど関係者に共有し、コールセンター全体でSLAの達成に取り組むことが大切です。SLAの運用を開始したら、未達成の項目がないかなど確認と改善を繰り返し、サービス品質の向上をめざしましょう。
SLAを活用して顧客との信頼関係を構築
SLAを活用すると、コールセンターのサービス品質を明確化できます。コールセンターには応答率や稼働率など数値で評価できる指標が多くあるため、SLAの活用に適した業種です。
顧客に対してサービス品質を明確に提示できれば、安心してサービスを利用してもらえるでしょう。顧客との信頼関係を構築するために、ぜひSLAを活用してみてください。