メットライフドーム(西武ドーム)を本拠地とするプロ野球球団「埼玉西武ライオンズ」を運営する株式会社西武ライオンズ。ライオンズファンの声を可視化し、サービス向上に活かすため導入されたのが「NPX Pro」でした。ここではその経緯と導入後の活用ぶりについて、清田氏にうかがいました。
― はじめに、貴社の事業についてお聞かせいただけますか。
清田 : 弊社は、パシフィック・リーグに所属しているプロ野球球団「埼玉西武ライオンズ」の球団運営を行っております。事業はBtoBとBtoCに大きく分かれまして、BtoCの事業では、球団ファンの皆様へ向けたサービスの提供を行っております。観戦チケット販売、ファンクラブ運営、公式グッズ、飲食などのサービス提供に加え、地域振興・野球振興ということで、L-FRIENDSと銘打ち、埼玉県の小学生に野球帽を配布するなどの活動もあります。BtoBの事業では、企業スポンサーの方々に埼玉 西武ライオンズを活用していただいたり、地域の企業のみなさんに球団ファンになっていただくための活動を行っています。
― 清田さまは主にBtoCの事業をご担当とのことですが、NPSを導入されたきっかけはどのようなことだったのですか。
清田 : プロ野球球団は試合に「勝つ」こともあれば、どうしても「負けてしまう」こともあります。そこで勝ち負けに関わらず、球場観戦に「また来たい」と思ってもらえるサービスを提供するにはどう活動すればいいか、改善点を可視化したいというのがきっかけでした。
NPSは「おすすめしますか」といった設問に対するスコアと、実際の行動の相関性が非常に高いという実証結果を見て、「ファンのロイヤルティを高め、NPSを上げていけば売り上げにつながるのではないか」と考えました。また、NPSを高めるための課題改善において、課題に優先順位をつけやすい調査設計になっているところが、理に適っていて有意義だとも感じました。
― 御社の場合、スコアと行動の相関性はすでに結果に表れていて、NPSスコアが上がるとチケットなどの売り上げが伸びると出ています。中でも、グッズの売り上げが最も伸びるというのは、昨年を通じての大きな発見だったとか。
清田 : そうですね。実は社内でも当初、NPSと売り上げの相関について懐疑的な声があったのです。一般的な商品やサービスとはいわゆる“ファン”の様子も若干違ってきますし、贔屓のチームを「おすすめしますか」と聞いたところで……ということで、スポーツ業界や我々のビジネスとの相性について議論がありまして。
そんな中、売り上げにつながるデータを取得するために、設計や設問を細かくアレンジしていきました。NTTコム オンラインのコンサルタント(笠岡 秀輝)とも何度もプロジェクトのすり合わせをして、密にコミュニケーションを取らせていただきましたね。
そもそもNTTコム オンラインと一緒にやっていきたいという決め手が、NPX Proの性能や使い勝手だけではなかった。みなさんとお話をする中で、親身に取り組んでいただけるし、同じ方向を向いて、一緒にやっていけるというのが感じられたので。実際に、自分が慣れないうちは設計や操作もフォローしていただき、分析に関しても、いつも細かく数字を出して頂いており非常に助かっています。
― NPS調査の実施方法についてお聞かせいただけますか。
清田 : 主に2パターンあります。1つは「球場体験調査」として、年間72試合行われるホームゲームのほとんどで実施しています 。各試合のチケット購入者の一部を対象とし、カスタマージャーニーの流れに沿った形で球場体験全般を調査しています。球場へのアクセス、球場内でのイベント、グルメ・交通、席の観やすさ、試合内容についてなどですね。
もう1つは「リレーショナル調査」を年1回実施しています。埼玉西武ライオンズのファンクラブ会員の 方を対象とし、地域振興事業など球場以外での部分を含めた、埼玉 西武ライオンズ全体のブランドイメージを調査するような内容です。
― 試合ごとの小さな振り返りと、年間での大きな振り返りの両輪を軸としている、理想的な運用ですね。しかし、年間72試合もあって、イベント内容などもそれぞれ違いますから、ほとんどの試合での実施はかなり大変なのではないですか。
清田 : 定点的に観測して、課題を見つけるところに意義があると考えていますので。ただ、これだけスピーディに回していくとなると、従来の時間のかかる調査方法では難しい。NPX Proであればそれが可能だから、というのが全試合での実施に踏み切った大きな理由です。
― 従来は、どのように調査されていたのですか。
清田 : 単発で「〇月〇日~×日まで実施」と期間を決め、調査設計にも、設問への落とし込みにも、リストに関してもかなり時間をかけて精査し、やっと配信するという流れでしたので、1回の調査に相当の時間がかかっていました。一方、NPX Proではあらかじめ設問やリストを精査してあり、ファンの方々からお答えいただいた数値や意見もすぐ確認できて、分析がスピーディです。ツールとしても、分析のパターンがいくつも備えられているので、関数などを使わなくても相関をすぐにプロットしてくれたり、ファンクラブ会員とそれ以外をフィルタリングして比較したりといったことがサッと実行できます。
― スピードアップしたことによる効果は実感されていますか。
清田 : 例えばこれまで、イベントに対するお客様の反応は、正直なところ場内の歓声でしか分からなかったのです。それがすぐに数値化されて、コメントもいただける。次以降のイベントに関して反映できるように、イベント担当者へのフィードバックやすり合わせをすることもでき、もちろん担当者のモチベーションにもつながりますよね。試合の勝敗に関わらず「また来たい」空間にするには、イベントや演出がとても大事ですし、もっと言えばそれもNPSで実証されていますから。
― 野球初心者やライトユーザーほど、勝敗以外の球場経験が「また来たい」につながりそうですね。そして、また来ると好きな選手ができ、もっと応援したくなって、よりコアなファンになっていく。
清田 : そうですね。もちろん、チームが強くなって試合に勝つことが最終的には一番良いのですが、ファンが盛り上がって、ホーム球場の良さを出せれば、試合内容にもそれは反映されると思っているので。それには、ファンがより良い球場体験をして、楽しんでくださることが欠かせない。
NPSは、これまであいまいだった部分の判断基準となって、そこを支えてくれると思っています。「ライオンズに声を届けたい」というファンの方が非常に多いので、NPS調査にも真剣に答えてくださる方が多い。それは他の産業と大きく傾向が違うところではないでしょうか。
― 他にもお客様の声をなるべく多く拾うためのコツはありますでしょうか。
清田 : それについては、試合直後にメールで調査依頼をしていることも大きいと思います。記憶が鮮明で、より詳細なコメントが得られやすいというのもありますし、かといって試合当日、球場でのインタビュー調査は、試合中や試合後だとなかなか応じていただけませんから。
― イベントでのフィードバック事例などはどのようなものがありますか。
清田 : 昨年こどもの日に実施した「秋山選手のサイン入りグローブを来場者のうち、小学生以下の方全員 にプレゼントします」という企画が非常に好評でして。お子様が対象ですが、大人からも非常に良いフィードバックがたくさんあったので、今年も同様に、小学生以下の方全員へのプレゼント企画を継続し、今年は山川選手のサイン入りヘルメットを小学生以下の方全員にプレゼントし、非常に好評でした。
こういった来場者プレゼントはそもそも満足度の高い企画なのですが、それでも「これはイマイチ」ということがありまして。そこでコメントを見ると様々な声が見えてきました。例えば、「持ち帰りにくい」といった意見はイベント企画担当に、「応援に使いたいのに場内の演出と連動していない」といった意見は演出担当にフィードバックし、次回への企画や演出に反映するようにしています。
― 定量的な分析だけでなく、定性的なデータ、特にコメントをしっかりご覧になっているので、運営サイドが気づかないような潜在的な視点でのフィードバックを取りこぼさないのですね。最後に、今後の展望について、お聞かせください。
清田 :西武ライオンズが所沢市を本拠地にして2018年に40周年を迎え、40周年記念事業の大きな柱として、メットライフドームの改修工事を実施しております。 我々はこの新しい設備というハード面を最大限に活かしながら、最適なサービスというソフト面で、さらに満足していただく球場を作っていかなくてはならないと思っています。ハードとソフト両面で改善を実現していって、メットライフドームをみなさんに「また来たい」「みんなで来たい」と言われる最高のボールパークへ近づけていきたいですね。その実現の為に、継続的に効果的なNPS調査の実行、取っていくべき行動の特定、迅速な行動を取るといったPDCAを回していき、結果的に球団として売上の増加にも繋げていきたいと考えております。
― 本日はありがとうございました。
※ 記載内容は2019年5月現在のものとなります。