楽天グループの一員として、オンライン旅行予約サービスを提供する楽天トラベル。グループ全体でも積極的にNPSを活用する中で、楽天トラベルにおけるNPSおよびNPX Proの導入の経緯と、その活用方法についてお伺いしました。
― はじめに、楽天トラベルの事業についてお聞かせいただけますか。
長松 : 楽天トラベルは、70以上のサービスを展開する楽天グループの一員として旅行予約サービスを提供しています。国内で1億人を超える楽天会員の強みを活かし、メインとなる国内外の宿泊予約や、宿と航空券、バス、レンタカーなどを組み合わせたパッケージ予約サービスを提供しています。
― 「NPS調査を導入されたきっかけを教えて下さい。
長松 : NPSの活用は、2016年1月から楽天グループ全体で取組みがはじまり、品質向上活動に一層の力を入れはじめました。NPSが大事であるというメッセージがトップから繰り返し発信され、それに基づきグループ全体で重要な活動として取り組んでいます。
山本 : その流れの中で、楽天トラベルもNPSへの取組みを活性化させています。現在の売上は過去の取組みの成果である一方、NPSには、未来の売上のためにどうしていくべきかといったヒントが詰まっていると考え、重視しています。
― NPS調査は、どのように実施していらっしゃいますか。
長松 : 当社では、ブランド価値や企業ロイヤルティを測る"リレーショナル調査"を「トップダウン」、各事業部単位で細かく行っている"トランザクショナル調査"を「ボトムアップ」と呼んで実施しています。リレーショナル調査では、オンライントラベルエージェントの中での楽天トラベルの立ち位置を定点観測するという目的で、四半期に1回程度実施しています。ただ、楽天トラベルの事業は多岐に渡りますので、リレーショナル調査のみですと、大まかな数値に留まってしまい、どの活動がNPSに影響を与えているかが分かりません。そこで、個々のサービスのパフォーマンスを知るために、9つのサービス単位で毎月を基本としてトランザクショナル調査を実施しています。お客さまに直接メールを配信することで、細かい部分で小回りを利かせた調査を実施しています。
― NPS調査を実施する上で、「NPX Pro」を利用されていますが、「NPX Pro」のメリットはどのような点だと思われますか。
山本 : ツール導入以前は、お客さまの声がCS部門に集まってくるということで、「お客さまの声には、CSが対応する」という感覚があったかもしれません。しかしツールを導入したことで、自分が担当するサービスに対して直接ご意見が届き、それを目にするようになり、サービスの担当者側から「これは何とかしないといけない」という声が上がり始めました。最初は事務局主導でしたが、今では課題分析からアクション実行まで各サービスが主体となって進めています。各サービスがツールに直接アクセスできる環境を整えられたことが、こうした変化の一因になったと考えています。
長松 : 事業規模が拡大しますと、改善のアクションを具体化していくために、個々のサービスのパフォーマンスを知ることが非常に重要となってきます。楽天トラベル全体のNPSを上げるには、個々のサービスの数値を上げる必要があるという考え方です。
各サービスがボトムアップで実施しているトランザクショナル調査が改善のメインだと思っていますので、ツールを使うことで、トランザクショナル調査の頻度を増やし、セグメントを細かくすることも実現できています。各サービスが仮説をもって分析をして実行していくということが可能になり、PDCAサイクルが多く回せるため、その結果改善が進み、NPSが上がっていくと考えています。
― 「NPX Pro」の導入後の成果について教えてください。
長松 : 各サービスに対する細かなご意見を吸い上げることができるので、迅速な改善につなげやすくなりました。例えば、コメントを分析する中で、あるサービスに対して「予約の変更やキャンセルに関する情報が分かりづらい」という声があることが分かりました。そこで、お客さまに重要な情報をきちんとお届けできるよう、すぐに予約完了メールの内容を見直し、改良を行いました。
山本 : 2018年は夏から秋にかけて災害が多く発生し、お客さまからのお問い合わせが急増しました。その時期は、NPX Proで実施している複数の調査に対して、CSの対応スピードに関するご意見が寄せられました。それにより事業全体で問題意識が高まり、以前からCS部門で準備していたチャットサポート導入の重要性が再確認され、対応スピードが加速しています。
長松 : 現在では、50-60名の社員が、NPX Proにアクセスして、担当サービスに関わるNPSの推移や生のVOCを定期的に確認しています。
山本 : 様々な部門の社員がデータを確認できるようになり、お客さまのご意見に基づいた改善の意識が醸成されていることを実感しています。
― 今後の課題について、教えて下さい。
長松 : 楽天トラベルは、BtoBtoC(Business to Business to Consumer の略、消費者向けサービスを行う企業を支援する企業活動)のビジネスモデルであるため、エンドユーザーに加えて、宿泊施設などの事業者様からも積極的にご意見をいただきたいと思っています。事業者様からは、営業コンサルタントを通じて日々様々なお声を頂戴しておりますが、それらを定量的に測っていくためにNPS調査を活用することも考えています。
― 最後に、今後取り組みたいことについてお聞かせください。
長松 : NPSをつかってもう一つやりたいことがあります。eNPS(注:Employee Net Promoter Scoreの略で、企業で働く従業員のロイヤルティを数値化した指標)、あるいはそれに準ずる指標を取り入れることで従業員の満足度を高めていきたいなと考えています。eNPSが上がれば、労働環境としても良い場所だと示すことができます。
NPSを通じた取組みの歯車が噛み合ってくると、好循環な企業風土ができてくると思います。まず、ポジティブな内容も含めたお客さまの声が寄せられて、それをもとに事業を更に改善することができ、その結果、よりたくさんのポジティブな声が集まってくる、というサイクルですね。私自身もそうですが、自分の仕事が世の中に貢献していると感じられると、「明日はもっとがんばろう」と思えます。
好循環が回ると同時に従業員の満足度自体も上がっていくのではないでしょうか。リテンションにも繋がり、長く働く人が増え、知識やリテラシーが高い社員も増えます。そして、もっと良いサービスを提供できる。それがまたNPSにも反映されて…という流れを作りたいと考えています。NPSは今も最重要指標として取り組んでいますが、それと同時に従業員の満足度も考えていきたいですね。
※ 記載内容は2018年12月現在のものとなります。