2023年10月13日(金)開催 【事例登壇】
店舗とデジタルを連動させたファンのためのNPS活用
~スープストックトーキョー CRM責任者との対談講演~
セミナーレポート

概要

食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」では、「世の中の体温を上げる」という企業理念を実現するため、店舗体験の向上、従業員のモチベーション向上のための指標として、NPSを導入されています。本セミナーでは、同社のCRM責任者安藤様と、弊社シニアコンサルタント光安との対談形式で、NPSが店舗サービスの改善やファンづくりの経営にどのように活用されているかをお話いただきました。

スープストックトーキョー様がNPSを導入した背景

スープストックトーキョーの安藤様より、「世の中の体温をあげる」という企業理念を基に、お客さまはもちろん、社員や生産者の方など全てステークホルダーの「心の体温を上げる」ことの連鎖を真剣に考えられていることをお話いただきました。例えばお店のスタッフの接客に関してはすべてをマニュアルで規定しておらず、お客さまとのコミュニケーションや、イレギュラーな対応については「世の中の体温を上げる」という理念に基づいた各人の自発性と判断に任されています。また、この理念に対して共感していただける方たちをファンと呼び、商品や店舗、サービスへの満足度や、人やブランドへの共感を可視化するためにNPSを導入されています。

指標としてNPSを選んだ理由として、以下の3つがあげられました。

  1. 顧客満足度などの過去のブランドの積み重ね評価だけでなく、未来が見える指標に必要性を感じたこと
  2. 機能的価値だけでなく、情緒的な価値への共感を測ることに向いているように感じたこと
  3. 指標としてはシンプルなため、日々の様々な業務と並行してクイックに結果をみることができること

「世の中の体温を上げる」という企業理念への共感性を測る為の質問が、「満足」ではなく、「推奨」という点において相性が良いと実感されています。

スープストックトーキョー様のNPSの活用

具体的なNPSの活用方法として、来店のタイミングでNPSを含むアンケートを実施していることと、半年に一度ブランドのアンケートを実施していることを紹介いただきました。アンケートについてはアプリを活用されております。来店時のアンケートでは、各店舗の店長が考えたメッセージと共に、NPSに加えてメニューやサービスの品質などを問う内容となっています。アンケート結果は全社員がスマホのアプリで誰でも、いつでも閲覧できる状態になっており、店舗ではデイリーで確認されています。改善につながるコメントや、お褒めの言葉などを頂いた場合は、スタッフ間で直ぐに共有されています。

ブランドアンケートについては、諸条件を設定の上、半年に一度、社長のメッセージを添えてブランドに対する認識などの調査をアプリ経由で実施されています。

ファンに向き合うためのスープストックトーキョー様のアンケート結果の活用

まず、NPSのスコアについては数値の絶対値での良し悪しではなく、時系列的な推移など相対的な値に着目しています。過去と比較して、例えばNPSに下降が見られた際に、原因と改善点を割り出すために活用しています。各店舗での日々の営業や取り組みが、本当にお客さまの体温を上げることにつながったのかを、スムースにフィードバックされることを意識されています。良い結果があった場合、現場にフィードバックを行う事で、スタッフの方々がまたそれを糧に次のお客様に真摯に向き合う事ができるという好循環が生み出されています。

NPS活用におけるスープストックトーキョー様の特徴

安藤様のお話を踏まえて、光安よりスープストックトーキョー様の特徴として以下の3つをあげています。

  1. 目に見えない顧客体験を可視化する手段としてNPSを活用
  2. 絶対値ではなくて、スコアの時系列の変化を見て、アクションを実行
  3. NPSをとることを目的とせず、あくまで改善アクションにつなげる手段として活用

NPSの数値の把握だけにとどまり、アクションに繋げられていない企業様が多いなか、スープストックトーキョー様では、自分たちの取り組みがしっかりお客様に伝わっているのか、共感いただけているのかを確認するためにNPSを活用し、そしてアプリの良さを活かし、現場にすぐにフィードバックし、スピーディーに改善に繋げられている点が大きな特徴になっています。

CXとEX(従業員体験)のシナジーについて

スープストックトーキョー様ではお店に立っているメンバーを「世の中の体温をあげる」という理念実現の主役と位置づけ、本社をサポートセンターと呼称しています。働く従業員のモチベーションを第一に大切にすることが、「世の中の体温をあげる」ための接客やお客様の感動をよぶサービスの提供につながり、そのポジティブなリアクションが、また従業員のモチベーションをあげるというまさにEXとCXの好循環がしっかり生まれています。

デジタルの活用について

スープストックトーキョー様では効率化のためにデジタルを導入しているのではなく、人がより生き生きできるようになるために、積極的にデジタルをつかう事にこだわっていらっしゃいます。会の中では、デジタルを使って、デジタルだけで終わらない点を強みとして挙げられました。アプリを通じたアンケート等のデータは、おもてなしをする相手にはどんな一声をおかけするべきか、何がそのお客さまの体温をあげるのかという、従業員が行う判断のサポートに使うことを目指されています。デジタル化においても、数字やデータは経済合理性を重視せず、「世の中の体温をあげる」ために必要か、という基準で判断し利用されています。

まとめ

最後に光安より、本日のセミナーにおける重要なポイントとして、お客さまを重視する「企業理念」の浸透が、自発的なCX改善・良質な顧客体験の提供につながっている点があげられました。昨今パーパス経営が注目される中、スープストックトーキョー様においても「世の中の体温を上げる」という企業理念を社内だけに閉じずに発信し、お客様に共感をしてもらいファンになってもらう事を大切にされています。この企業理念にもとづき、従業員ひとりひとりが、お客様が本当に欲しい体験・心が温まる体験を考え行動することでNPSも高まり、長期的な企業への共感・愛着をもった「ファン」の獲得につながっています。

経営層から顧客接点となるフロントラインの社員まで幅広く巻き込みながら、お客様の声にむきあって「優れた顧客体験を提供する」というマインドの醸成が重要なポイントとなっています。

顧客ロイヤリティを高めるためには、デジタルでの効率化や数字の追求が先行した取り組みではなく、基本に立ち返って「企業の理念の浸透」に注力することの大切さを改めて気づかせていただけた、まさにNPSの本質的な活用についての貴重なお話であったと総括しました。

Q&A

セミナーはこの後、質疑の時間となりました。非常に多くの質問を頂きましたが、一部質問と回答を抜粋してご紹介します。

Q.アプリのアンケートは良い手法だと思う一方、アプリと親和性の低い業態の場合、他の手法が必要になりますが、良い手法があれば教えてください。

A.様々なお客さまをご支援する中で、コスト面や顧客層の違いなどを考慮しながらいくつかの手法をご提示させていただいています。QRコードからのWebでの回答や、SMSのメッセージにアンケート短縮URLをいれてお答えいただくなどの方法があります。高齢者がターゲットの場合、かつてはハガキなど郵送でのアンケート依頼が多かったのですが、現在は60-70代の方でもスマホのご利用が増えているので、SMS経由でのwebアンケートであっても想定を上回る回答が得られたという事例もございます。(光安)

Q.店舗アンケートの手法について、無機質な調査票を用いるのが一般的ですが、店長の直筆のリード文があるのは温かみを感じる良い取り組みと思いました。回収率についての改善など有効な効果などはありましたでしょうか?

A.回収率については良い影響がありました。現在のシステムを導入する前は、紙の上に印刷されたQRコードからリンクを設置していました。この時にQRコードだけを書かれているものと、店長からのメッセージをつけたもので比較した際、メッセージ付きのものの回収率が高かったという結果がでました。そもそも無機質なアンケートはスープストックトーキョーらしくないという思いから、アンケートもコミュニケーションの一環と捉え直筆のメッセージを添えることになりました。(安藤)

Q.EXについて、ネガティブなフィードバックは場合によっては伝えにくい場合がありますが、気をつけられていることはありますか。また、【仲間の体温をあげる】ことにつながる事例があれば教えてください。

A. メンバーへのフィードバックの頻度は、基本的には店舗ごとに任されていますが、一日に一度は行っている店舗が多いようです。大きなトピックスが無ければ、フィードバックしないということも起こり得ますが、アンケートの確認自体はいつでも行うことが出来ますので、可能な限りクイックに行うことをよしとしています。ネガティブなフィードバックに関しては、伝え方を含め店長の裁量に任されています。もちろん、名指しで指摘するような、本人の体温を下げてしまうような事はしません。
仲間の体温をあげる事例ですが、基本的にスープストックトーキョーは「従業員の為だけ」、「お客さまの為だけ」という括りではコミュニケーションは行わず、あらゆる方に良い影響があるようにという視点でコミュニケーションしています。その中で、店舗での特徴的なイベント事例としては「1月7日の七草粥の販売時に、スタッフが自分の言葉でお客さまの健康を願う取り組み」と、「全店がカレー一色に染まるカレーのお祭り Curry Stock Tokyo」があります。双方ともキャラクターは違うイベントですが、毎年とてもたくさんの反響を頂いており、単純な販促的なイベントとしてではなく、私たちの人やブランドとしての姿勢に共感いただけ、仲間の体温もあがるような取り組みになっています。
インナーに特化した取り組みとしては「世の中の体温をあげた発表会 Soup Stock Tokyo Grand Prix」という社内イベントを半期に一度行っています。これもとても大切にしている取り組みで、一年かけて準備をする店舗もあるようなイベントです。(安藤)