三井石油開発株式会社(MOECO)
石油・天然ガス、地熱エネルギー資源の探鉱、開発、生産などの事業を手掛ける三井石油開発株式会社。同社はNTTコム オンラインのデータ分析支援を受け、地熱開発現場のオペレーション最適化に取り組んでいます。ここでは取組みの経緯と現在の状況、今後の展望について、地熱事業部 コーディネーターの早川氏に伺いました。
[お話を伺った方]
地熱事業部 コーディネーター
早川 美土里 氏
― 今回お話しいただく事例については、以前Spotfireの導入事例取材でお伺いした際のお話がきっかけになったそうですね。
早川氏 : はい。弊社は石油・天然ガス・地熱エネルギー資源の探鉱、開発、生産を主事業としていて、前回取材を受けた井上(博文氏 地熱事業部部長補佐)と私は現在、地熱資源の開発を担当しています。地熱資源開発では坑井(こうせい)を掘削するのですが、日本の地熱地帯の地層は火山岩であることが多く、固いために掘削効率が上がらず、コスト削減が課題になっていました。前回取材を受けたタイミングはまさに「課題解決のために、掘削のデータを取り始める」という時でした。
― 掘削のコストというのはどのような形でかかってくるものなのですか。
早川氏 : 井戸を掘るためには「掘削リグ」という装置を使います。リグは我々のような事業者ではなく、掘削を専業とする掘削業者が所持しているのが一般的で、我々事業者がリグをチャーターし、掘削業者の「ドリラー」と呼ばれる専門の技術者がリグを操作し掘削しています。作業にかかった日数分だけ費用が発生するので、いかに早く、効率よく掘っていくかが掘削コストの削減に大きく関わります。掘削リグ自体に大きく手を加えるのは莫大なコストが発生するため、作業の効率化が難しい状況でした。
そこで前回の取材の際に、過去に掘削した際のデータを基に掘削効率予測モデルを構築し、分析結果をドリラーに共有することで、操作を最適化し、作業を効率化しようというアイディアが生まれたわけです。
― なるほど。ちなみに坑井を掘るとなると、装置である掘削リグも大掛かりなものとお見受けします。ドリラーも何名かでチームのように動いているのでしょうか?
早川氏 : ドリラーというのは航空機でいうパイロットのようなイメージです。様々な作業を実施するため、メンバーは複数名いますが、リグの操縦、いわば「穴を掘る」操作はドリラーが主に担当します。経験と勘がものをいう、まさに職人のような専門職です。ただ、日本国内ではドリラーの人員不足が顕著で、掘削需要に追い付いていない状況が続いています。そういう意味では、ドリラーの持つ、今まで形にできなかったノウハウをデータ分析によってある程度ナレッジ化できれば、人員不足の解決に役立つと期待しています。
― この「掘削パラメータ分析」プロジェクト開始にあたっては、他社のデータ分析支援も検討されていたと伺っています。
早川氏 : 何社かにデータ分析というアプローチで地下モデル構築や将来予測の相談をしたことがありますが、何れの会社さんも既存のモデルやプラットフォームを使った解決策が提案されることが多く、結局業務をお願いするには至りませんでした。一方、NTTコム オンラインの提案力や取り組みに対する姿勢はとても印象的でしたね。様々なアイディアを出していただき、スクラッチからのモデル構築に取り組み、分析の提案をしてもらえました。
― 「すでに導入しているSpotfireのベンダーだから」というだけでなく、データ分析支援そのものを評価していただけて、冥利に尽きます。現在、プロジェクトはどのような状況にあるのですか。
早川氏 : 今は分析モデルの精度を上げている段階で、フィールドでテストするのはこれからですね。ただ、現状のモデルが出した分析結果と実績を見比べると、大まかなトレンドは押さえられていて、取り組みの方向性は概ねマッチしていると感じます。もちろんまだ改善の余地もあると思いますが、その先で「期待した成果を得られる」イメージはつかめています。社内でも、目的としている「コスト削減」というところへの取り組みのひとつとして理解を得られています。
― こうしたデータ分析支援は、掘削パラメータ分析以外でも活かせそうでしょうか。
早川氏 : 実は「掘削中の岩石(地層)」を予測する分析モデルの構築にもトライしています。というのも、地熱開発では地下の情報をいち早く知ることが重要ですが、現状では地上に排出される掘りくずを採取して、洗ってから目視で「掘削中の岩石」を判断しています。掘っている深度が深くなるほど掘りくずが上がってくるまでの時間がかかるので、今掘っている地層の情報と、地上で見ている掘りくずの情報にはどうしてもギャップが生まれるわけです。
もし今掘っている地層の情報をリアルタイムで送られてくる掘削作業のデータから予測できれば、その瞬間のオペレーションの判断にも役立ちますし、次の作業のための準備も始められますから、作業全体の効率化につながると期待しています。
ちなみにデータ分析支援を受ける中で、掘削パラメータ分析で作成した深層学習モデルを、この「掘削中の岩石」の予測に適用してみるという提案もNTTコム オンラインからいただきました。実際に、それまでのアルゴリズムに比べて予測精度が高いモデルになりましたし、思いもよらない臨機応変な発想で、応用力の高さを改めて感じました。
― 今後、地熱開発事業をどのように展開していきたいとお考えですか。
早川氏 : 日本は世界第3位の地熱資源量を有しますが、自然保護のための規制が厳しいことやコストが高いことなどから、あまり開発が進められていないのが現状です。ただ、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにおいても、再生可能エネルギー且つベースロード電源である地熱資源への期待は高く、世界的にも注目されています。石油・天然ガスの開発を手掛けていた弊社のような事業者が参入し、長年のノウハウを地熱開発へトランスファーする流れが起こっているのです。
将来的な弊社地熱事業の拡大を見据え、様々な会社との協業も開始しています。先日プレスリリースされましたが、石油メジャーの1つであるChevron社とは新しい地熱開発方式(Advanced Closed-Loop方式、以下ACL方式)についての共同検討を開始しましたし、東京電力リニューアブルパワー社ともACL方式を適用する適地の選定に関して協業を開始しました。
この方式が実証されれば、これまでの方式では開発が難しいとされている地域もターゲットとすることが可能になると考えていますが、在来型地熱同様にコスト削減が大きな課題となります。ACL方式においても、掘削パラメータ分析のノウハウを活用していきたいですね。日本の地熱業界で、深層学習を活かしてこうした課題に取り組んでいる企業は多くないと思いますので、我々の強みにしていければと思っています。
― サステナビリティ向上の鍵のひとつである地熱開発事業、その世界的な転換点に先んじて携わる機会をいただき、大変意気に感じております。今後も開発推進のために尽力いたします。本日はありがとうございました。
※掲載内容は2022年10月時点の情報です。