データを利用する各種サブシステムとの接続を疎結合化し、組織全体のデータ活用を「Spotfire」で実現
株式会社ディーカレット(DeCurret)
大手企業やメガバンクの出資を受ける暗号資産(仮想通貨)取引所であり、「デジタル通貨のメインバンク」を目指す株式会社ディーカレット。暗号資産取引への要求水準が高まる起業当初、安全かつスピーディなシステム構築とスムーズな運用、データ分析・活用を後押ししたのが、TIBCO製品によるデータ仮想化ソリューション「TIBCO Data Virtualization(以下TDV)」とビジュアルアナリティクスツール「TIBCO Spotfire(以下Spotfire)」でした。ここではその経緯と導入後の詳しい活用方法について、暗号資産事業グループ 村上氏、中田氏、奥津氏、事業企画グループ 下村氏にうかがいました。
[お話を伺った方]
暗号資産事業グループ ヘッド 村上 崇英 氏
暗号資産事業グループ シニアスペシャリスト 中田 有哉 氏
暗号資産事業グループ シニアスペシャリスト 奥津 規矢 氏
事業企画グループ シニアスペシャリスト 下村 美緒 氏
― 御社の事業についてお聞かせいただけますか。
下村氏 : 弊社は暗号資産とデジタル通貨、2つの事業を行っております。2018年1月に設立し、2019年3月に暗号資産交換業者のライセンス第16号を取得、同年4月より取引を開始いたしました。また2020年は株主企業とデジタル通貨の実証実験を行い、デジタル通貨勉強会やその後継となるデジタル通貨フォーラムの事務局を務めております。2021年は暗号資産とデジタル通貨、両方の事業へ注力し、新たなサービスやビジネスをリリースしたいと考えております。
― それまで抱えていらした課題と、データ仮想化ソリューションTDVでの解決策について教えてください。
村上氏 : 我々が会社を立ち上げた2018年は、暗号資産(仮想通貨)ブームを受けて金融庁が暗号資産取引所の登録制を開始した直後でした。当時100社ほどが登録を目指していたとも言われ、その中でいち早く安全性・信頼性の高いシステムを構築して、早期にライセンスを取得することが、ビジネス成功の鍵のひとつだったのです。
そこで、まず「自社の業務管理システムをベースに、各種パッケージソフトや外部ASPサービスを組み合わせた構成」という方針を定め、これらのデータ連携の仕組みを確実かつ迅速に構築する方法を探っていきました。
またそれと同時に、データ活用の面からも、開業後に寄せられるであろう各部門からの要求、例えば「新しいデータマートを提供してほしい」といった声に、迅速に対応できる環境が必要だと考えていました。
中田氏 : しかし、この2点を踏まえると、こうしたシステムで一般的な「ETL(Extract/Transform/Load)+DWH(Data WareHouse)」の構成は厳しいということが見えてきました。
ETL+DWHの構成では、初期構築におけるテスト工数が膨大になり、早期構築を妨ぎかねないのです。なおかつ、開業後のデータ活用においても柔軟な対応が難しいだろうということは、メンバーの経験から予測できていました。
村上氏 : そこで注目したのが、ETL+DWHとは逆のコンセプトを持った「仮想化技術」による構成です。
ETL+DWHでは、データをバッチジョブの連携でコピーしながら加工していく工程が欠かせません。ジョブチェーンの設計、テストデータの準備、システム間連携……と人手も時間も割かれます。
一方仮想化技術では、まず設定画面で仮想的にデータを統合しておき、実データはコピーしません。そしてデータが必要になった際には、実データがリアルタイムで処理され、提供されます。つまり、人手も時間もかからず、データ活用のリクエストにも柔軟に応えていける。そういった経緯から仮想化環境を、中でもグローバルでの採用実績が豊富なTIBCOのデータ仮想化ソリューションを選定するに至りました。
中田氏 : 弊社システムの構成イメージを図にしてみました。特筆すべきポイントは次の2つです。
それぞれをもう少し詳しく説明しましょう。
「データセット提供側」つまりTDVはいわゆる「仮想DWH」として使います。必要なデータセットは、ここですべて「仮想テーブル」として用意されます。
「データセット分配側」のツールは、各業務システムにデータを配信するバッチを管理しています。ただし、各バッチはデータセット構築には関わらず、基本的にそれぞれのシステムのために用意されたデータを「届ける」だけのシンプルなジョブになっています。
図のような構成をとることにより、TDVにデータ統合や加工の役目をほぼ集約することができています。つまりデータモデル管理もTDVで完結できるのです。
そこで、まず各業務や分析で必要となる共通テーブルを「仮想テーブル」として用意し、その仕様をFIXさせています。そうすると、このテーブル群を加工して作成される「各業務/分析のためのテーブル」は同時並行で設定・検証を進めることができます。
このスマートさがデータ仮想化ならではの強みですね。ETLでこれを実現させるには、ジョブチェーンの管理や中間テーブルのストレージ確保、データマートの管理方法などさまざまな追加検討項目が発生するはずですから。
また、TDVで細かいアクセス権限管理が可能なことも、業務プロセスのボトルネック解消に役立っています。
各部門に配置したデータエンジニアには、先ほどの「各業務/分析のためのテーブル」を自由に作れる権限を付与して、システム部門に依存しないセルフサービス化を推進しました。それもあって現在は、数百のデータソーステーブルを元に、数百の業務/分析用仮想テーブルを提供しています。
― データ仮想化ソリューションTDV導入後の手応えや、成果はいかがですか。
中田氏 : 開業当時、他の構成だと8ヶ月はかかったであろうデータ連携の検証が、このTDVを取り入れた構成では、約4ヶ月の短期間で完了しました。先ほどご説明したように、同時並行でテストを進めることができたのは大きかったですね。
その後の運用でも手応えを感じています。例えば、TDVのリネージュ(データ系列)表示機能。データソースや仮想テーブル間の依存関係が視覚的に把握できるので、システム/データソースの変更の影響範囲を常に把握できて、スムーズに運用できますね。弊社では、新しく加わった社員にもこのリネージュを見せて、現状を体系的に把握してもらうのに役立てています。
システム構成イメージ図にある「新サービス」は、名前通り新たに統合したデータソースです。これも、テストを繰り返した末に統合したわけではなく、試みにTDVで統合してみたら、想定以上に簡単に連携、統合することができました。「将来、新しいデータソースが増えた際にどうするか」はシステム運用と切り離せない課題ですが、まずは積極的にTDVへ接続していきたいと考えています。
レポート/分析の用途でも、TDVによって業務効率化が進んでいるのを感じています。以前は、「前日分データのまとめ」を毎日始業時間から作り始める……という業務があったのですが、これもTDVでデータを加工して、自動出力するようになりました。それ以来、始業時間から……ではなく、始業時間にはデータが手元に出力されています。朝の貴重な時間が確保できるのはうれしいですね。
また、運用実績の面でも、TDVを金融系社内基幹業務でデータ基盤として利用しているため、可用性の目標値を99.95%以上で想定しているのですが、2年間の実績としてはそれ以上を達成するぐらいに安定しています。
― Spotfireの活用法についてお聞かせいただけますか。
下村氏 : 弊社では財務・リスク管理、コンプライアンス、暗号資産事業、事業企画グループなど、Spotfireを多岐に渡るグループで活用しています。私は現在事業企画グループにおりますが、昨年までは社内トレーダーをつとめており、お客様の取引や口座開設の状況、入出金などの動向を可視化するのにSpotfireを活用していました。暗号資産レートのデータは、1秒間に10レコード以上とデータ量が非常に多いのですが、Spotfireのインフォメーションリンクという機能で必要なデータ項目・期間・量のデータをすばやく抽出できるので、リアルタイムに近いレポートが作成できます。Spotfireのパワフルさが助けになっていましたね。
奥津氏 : 私は現在のところマーケティングデータを見たり、デイリーレポートを社内に共有したりするのに活用していますが、やはり処理の速さを感じます。ちなみに、弊社独自のセキュリティ対策のため、SpotfireにアクセスできるのはVDI(Virtual Desktop Infrastructure)専用端末のみになっているので、ダッシュボードの共有ではなく、取り出したレポートを共有する形にしています。
― Spotfire導入後の手応えはいかがですか。
下村氏 : 日々運用する中で、自分たちで触りながら覚えていったのですが、非常にスムーズで、特に困ったという記憶もないほどでした。
トレリス機能(指定カラムによるパネル分割表示を瞬時に作成)は、トレーディングのデータを見るのにとても便利ですね。初めてトレリス機能を使ったときは、その場の皆が感動するほどでした。リアルタイムでグラフの単位を変えながらデータを見られるので、「通貨別」、「曜日別」といった見たい軸にあわせてグラフをその場で変えて見ていける。こういった機能は以前使っていたBIにはなかったので、Spotfireならではだと感じます。
奥津氏 : TDVとの連携も使いやすいです。前処理をしていない顧客データも、TDVで処理して、Spotfireのカスタム演算式やフィルターを使用し、セグメントを臨機応変に変更できるので、とても可視化しやすい。TIBCO製品同士の優れたシステム連携ならではですね。
― 今後はTIBCO製品をどのように活用していきたいとお考えですか。
下村氏 : 私は事業企画グループに移ったのですが、こちらでは今後「顧客分析に力を入れる」という方針が示されています。そこで、これまで活用してきた「報告用の見せ方」に加えて、Spotfireの特長でもある「探索的なデータ分析」も学びながら、顧客分析に活かしていきたいと考えています。
奥津氏 : 現在はまだマーケティング分析に使用し始めたばかりということもあり、基本統計量を可視化する使い方に留まっています。ただ今後、取引や預かりが増え、データ量が貯まったら、「取引量と顧客属性を掛け合わせたWeb行動の相関性」を分析するなど、より高度な分析にSpotfireを活かしたいですね。
中田氏 : 現在の方向性を推し進めたいですね。というのも、業務効率化を目指してオートメーション化が進むであろう今後、TDVの「一元的にデータを吸い上げて、そこからさまざまなシステムへ連携する」やり方は、さまざまな場面で必要になってくると感じています。その中で、弊社が現在すでにTDVを導入できていて、なおかつ先々取り入れるシステムとの連携にも不安がないことは大きいです。
村上氏 : 弊社に限らず、クラウド活用を考えている企業なら、その都度バッチを組んで動かしていくETLよりも、仮想的にアクセスしていくデータ仮想化が使いやすい、望ましい形なのではないでしょうか。
― 今後、スマートコントラクトの発展などに伴って、貴社の事業にもさまざまな変化があるかと推察いたします。今日お話をうかがう中で、TDVとSpotfireの機能があれば、そういった変化にも柔軟に対応できると感じられました。今後もしっかりとサポートさせていただきます。本日はありがとうございました。
※掲載内容は2021年2月時点の情報です。