国際石油開発帝石株式会社(INPEX)
日本をリードするエネルギー企業として、石油・天然ガス開発をはじめとする事業を手掛ける国際石油開発帝石株式会社。エネルギーのスペシャリストたちが、膨大なデータの扱いに煩わされず、スピーディーかつ的確に考察を進めていけるようにと同社が導入したのが「TIBCO Spotfire」でした。ここではその経緯と導入後の活用ぶりについて、技術本部デジタルトランスフォーメーションユニットの玉村様にお話をうかがいました。
膨大な量のデータをスピーディーに可視化することで、迅速な意思決定とアクションを実感
[お話を伺った方]
技術本部 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル推進・基盤グループ
玉村 斉聖 様
― はじめに、御社の事業と、抱えていらした課題についてお聞かせいただけますか。
エネルギー企業としてさまざまな事業を手掛けておりますが、基本となる事業は石油・天然ガス開発です。鉱区を取得し、探鉱、つまり石油や天然ガスが出るであろう場所を探し、そこに採掘するための坑井を掘り、石油・天然ガスを生産、輸送するといった事業ですね。
探鉱のために世界中の油田情報を分析する、石油・天然ガスの生産量を予測し管理するなど、業務のさまざまな場面でデータベースやそれを基にした分析、考察が必要になるのですが、Spotfire導入以前はこれらのデータを主に表計算ソフトで処理していました。
膨大な量のデータがあるので、分析や考察に必要なパラメータを抜き出し、グラフを作成するだけでも大変な手間がかかります。それに、パラメータが多いと1つのグラフでは表しきれずに、複数のグラフを見比べて自分の頭の中で状況を把握する必要がありました。それにもし、ミーティングの席上で「こういう仮説が考えられるので、別条件でグラフを作って検証したい」という話になっても、その場ではグラフを用意できないので「次回までに作っておきます」ということになり、ディスカッションや検証が止まってしまう。
頭の中では見たいデータや見せたいデータがわかっていても、それをなかなか直感的に理解できる形で、スピーディーに具現化できないということが大きな課題でした。
― それを実現するツールとして、Spotfireを導入したきっかけは何だったのでしょうか。
国際的な大手石油系企業、いわゆるオイルメジャーの間では、すでにSpotfireがスタンダードになっていて、弊社にも独自形式のファイルがそのまま送られてこともありました。これが一つの契機となって導入しましたが、Spotfireを導入することで、オイルメジャーにキャッチアップできるという部分は大きかったです。
ただ、ここまでSpotfireが浸透したのはやはり、石油業界にとって非常に使い勝手のいいソフトだったということもあるかと思います。先ほどの「頭の中にある見たいデータ・見せたいデータを、直感的に理解できる形」ですぐ作ることができる。もちろん、ディスカッションをする中で「別条件のグラフも見たい」「1つずつ色分けして見たい」となれば、その場で作成できます。
細かいところでいいますと、石油は鉱物資源ですので、地質つまり地図との相関性が非常に高いのです。我々は基本的にいつも地図を見て考察するので、Spotfireがマップチャートに対応していることも極めて重要なポイントですね。
― 「頭の中にある見たい・見せたいデータの具現化」について、もう少し具体的にうかがえますか。
例えば、表計算ソフトで複数の坑井を対象に「縦軸:生産量、横軸:時間」の折れ線グラフを組んでも、そのグラフだけで「どのあたりの地域で生産量が変化しているか」まで直感的に理解するのは難しいですよね。頭の中で地図を思い浮かべて「あのあたりかな」ということになる。
それがSpotfireでは、マップ上にある坑井の座標に生産量を示すマーカーを置いて「どのあたりの地域の生産量か」を直感的に見せることができます。しかも、一定期間ごとの生産量をパラパラ漫画のように連続表示させれば、時間経過による生産量の変化も1つのグラフ上で見せることができるのです。
「マップ上の特定のエリアの結果だけを見たい」という時は、見たいエリアをドラッグして囲むだけで抜き出されますし、トレリス機能を使えば指定カラムによるパネル分割表示が一瞬で作成できる。さらに、坑井には場所だけでなく「深度」の要素もあります。一見隣同士の坑井でも、深度が違うと集計単位を変える必要がある。これを表計算ソフトでやるのはかなり手間がかかりますが、Spotfireならボタン1つで変えられます。複数条件のフィルタもすぐにかけられますしね。
― データ分析関連の機能をお使いになったことはありますか。
社内で石油生産量の将来予測シミュレーションを実施したことがあります。ただ、油田全体の坑井やパイプラインといった要素が複雑すぎて、各要素のシミュレーション結果だけを見たのでは、全体像を把握しきれませんでした。例えば、坑井は時間と共に生産能力が落ちてきます。ただ、それぞれのパイプラインには流していい油量の上限値があるので、坑井自体の生産能力にはまだ余裕があるけれど、流し込む量を抑えていることもある。つまり、パイプラインに流れている量が減ったという結果だけでは、坑井の生産能力が落ちてきているのか、まだ余裕があるのかわからないんです。
逆に坑井だけを見ても、パイプラインの状況はわからない。他にも、新しい坑井が掘られると、既存の坑井の流れ込む先が違うパイプラインへ切り替えられたりするといった、いくつもの条件が複雑に絡み合っていて……。そこで、先ほどの例えのように一定期間ごとのパラパラ漫画を作ることで、シミュレーションの過程を見える化して、どこで何が起こっているのかわかるようにしました。すると、人間もシミュレーターがいつどんな判断をしたかがわかってきます。
― AIの出した結果だけでなく、その経緯も重視する必要があるのですね。
そもそも、いきなりAIにすべて分析を任せるというやり方には疑問を持っています。データを適切な形で見える化して、人間が考えれば解決する問題も多いのではないでしょうか。もちろん、考えた結果としてAI導入が望ましいということもあるかとは思いますが、まずは「人間がデータをしっかり見よう」と呼びかけていますね。だいたい、データを見ていないと、何に手を付けていいか判断できないですから。
弊社は特に、専門知識や経験に長けた社員が多いですし、Spotfireを使って今までと違う形でデータを提示したり、インタラクティブにデータや分析結果を見せたりしたところ「見ただけで状況を理解して、問題を解決できた」というケースがいくつもあります。
ただ、例えばPower BIやTableauは、データをまとめて見やすい形にすることには長けていますが、ここでお話ししたようなダイナミックなデータの動かし方や、インタラクティブな分析にまでは対応していません。だから、エンジニアとしてはSpotfireの自由度が高く、深い探索に適した性能を知ってしまうと、他のツールでは物足りないのです。
― 表計算ソフトからの移行となると、導入当初は苦労されたのではないですか。
そうですね。Spotfireに合わせたデータの作り方が少し大変でした。人間の感覚でデータを作ると、絶対にうまくいかないんです。でも、毎日触るうちに2~3ヶ月で慣れましたね。データファンクション(R, Pythonスクリプトを使用した分析拡張機能)も最初は書き方を教わりましたが、途中からは独学で、半年ほどで覚えました。もともと比較的自分でプログラムを書くのが好きなタイプではありましたから、「自分で書いた方が早い」と。
― ここまで使いこなしていただいて、提供している私どもとしても冥利に尽きます。
頭の中にあるデータや仮説を、わかりやすい形にして見せたいし、検証したいけれども、うまくできなくてモヤモヤする……という思いを抱えている人がSpotfireの優秀さに触れれば、自然と触ってみたくなるのではないでしょうか。しかも、一度作って終わりではなく、別の可能性を思いついて試したり、他の人に意見をもらって要素をいじってみたりということも、まさに手元でダイナミックに動かせる。ただデータを見せるだけではなく、その先まで踏み込めますから。我々の業界に限らず、特に製造業の方や地図データ×時系列データをよく使われる業界の方は使ってみたら面白さが実感できるのではないかなと。
― 今後、Spotfireをどのように活用していこうとお考えですか。
ここまで自分が中心になってSpotfireの使い方を研究してきたのですが、もっと多くの社員に活用してほしいので、このノウハウを社内に伝えていきたいですね。皆Spotfireで見える化を経験すると「すごい!」と驚くのですが、一方で「使い方がわからない……」となりがちなので。まずはこちらでテンプレートを用意し、ユーザーにはそれをベースにカスタマイズして使ってもらう、という形でSpotfireに慣れ親しんでもらおうと考えてます。我々の本来の仕事は、表計算ソフトで時間をかけてグラフや資料を作ることではなく、“データを読み解いて考えること”ですから。グラフ作りや検証作業はSpotfireに任せようよ、と。
― Spotfireを活用されるユーザーが増え、これまで以上にスピーディーにデータが可視化されれば、より多くの新しい気づきが生まれそうですね。本日はありがとうございました。
※掲載内容は2020年6月時点の情報です。