2025/09/09

顧客満足度とNPS®

電力・ガス業界は顧客体験(CX)の改善が重要|現状と課題についても解説

企業の成長において「顧客体験(Customer Experience:CX)」の向上は欠かせない要素です。特に電力・ガス業界は小売全面自由化により、多くの事業者が参入し競争が激化しているため、顧客満足度やエンゲージメントを高めるためのCXが求められます。しかし、「実際にどのような施策を立てれば良いのか」「顧客が何を求めているのかが分からない」という方も多くいることでしょう。

この記事では、電力・ガス業界の現状や課題を紹介するとともに、CXが求められる理由や、CX改善に取り組むために有効なNPS®について解説します。

CXと企業の成長についてはこちらでも解説しています。
企業成長を導く「顧客体験(CX)」とは?その重要性と高める方法や事例を紹介

記事の要約
  • 小売全面自由化により、電力業界・ガス業界では競争が激化している。
  • 顧客エンゲージメントを高め、新規顧客を獲得するにはCXの改善が必要。
  • 電気・ガス業界のCXには「賢い消費」「社会貢献感」「生活上の安心安全」「楽しい時間」など4つのインサイトが重要。
  • 顧客ロイヤルティはNPS®の計測結果をもとに改善するのが有効。

顧客体験(CX)はなぜ重要なのか?電力・ガス業界の現状を解説

CX(Customer Experience)は、一般的に「顧客体験」と訳され、顧客が商品やサービスに触れるすべてのプロセスを通じて得られる体験を指します。電力・ガス業界においてもCXの重要性は高まっていますが、その理由を探るためにまずは業界の現状から見ていきます。

電力業界の現状

2016年の小売全面自由化以降、電力業界における競争環境が大きく変化しました。自然エネルギー財団のレポート「Evaluating Electricity Retail Liberalization(電力小売自由化の評価)」によると、自由化により多くの新規参入があったものの、旧一般電気事業者が依然として82.5%のシェアを維持し、寡占的な市場構造が続いている状態です。

一方、新電力事業者のシェアは一時22.6%まで伸びたものの、2024年4月時点で17.5%まで縮小しており、競争環境は一層厳しさを増しています。実際、これまでに32社の新電力が倒産・廃業し、87社が撤退するなど、事業継続の難しさが浮き彫りになりました。さらに、2022年以降の燃料価格高騰などを背景に、電気料金が大幅に上昇しています。消費者は価格に対しより敏感になり、事業者はより厳しい目で評価されるようになっています。

加えて、一部では悪質な勧誘・営業トラブルも報告されており、業界全体の信頼性に影響を及ぼしています。例えば「虚偽の説明で勝手に他社へ契約を切り替えられた」「電気料金が安くなるという説明で契約したら、実際には2倍の金額になった」などの事例が国民生活センターや消費生活センターに寄せられています。

その一方で、スマートメーターの普及が進んだことで、電力使用データを活用した新サービスの可能性も広がってきました。

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ガス業界の現状

ガス業界においても、2017年の小売全面自由化以降、競争環境が激化しています。特に電力会社の参入により市場競争は激しくなり、従来の枠を超えた事業展開が求められるようになりました。その結果、事業の多角化が進み、不動産業、情報通信業、金融業など、ガス以外の分野に踏み出す企業も増えています。顧客基盤を活かした「生活総合サービス」への進化が見られるのが特徴です。

そのような状況の中、他社と差別化を図るためのサービスもさまざまに登場しています。主な差別化戦略として、以下のようなものが見られます。

  • 電力とガスのセットプラン
  • IoTを活用したスマートホームサービス
  • 料金プランの多様化(子育て家庭向けの割引など)

さらに、ガス業界でもスマートメーターの導入が進展しており、エネルギー使用量の見える化や効率的な料金プラン設計など、CX改善につながるデータ活用が可能となっています。

電力業界・ガス業界の課題とは?

現在エネルギー業界は、単なるエネルギー供給から「暮らしを支えるサービス業」へと業界の性質が変わりつつあります。その電力業界・ガス業界が抱えている課題について解説します。

新規顧客の獲得が難しくなっている

自由化以降、電力・ガス業界には通信、住宅、不動産などの異業種が相次いで参入し、競争は一層激化しています。そのため、従来の価格競争だけでは差別化が難しくなっています。また、人件費や広告費の上昇により、従来の営業手法では新規顧客獲得に見合う利益を確保しづらい状況です。

こうした状況下では、「安いから選ぶ」だけでなく、「信頼できるから選ぶ」「サービスが良いから継続する」といった顧客体験を通じた差別化が不可欠となっています。

既存顧客を失うリスクも増加している

自由化により、契約先を切り替える際の手間が大幅に低下しました。燃料費高騰を背景に料金が上昇したこともあり、価格に敏感な顧客が条件の良い他社へ乗り換えてしまうリスクが増大しています。また、料金プランや契約条件の透明性が不足しているケースも多く、理解しづらさが顧客の不満を蓄積させる要因となっています。今後は、既存顧客との信頼関係を維持・強化する仕組みが不可欠です。

優れた顧客体験が提供できていない

従来の電力・ガス業界は「顧客へ一方的にサービスを提供する」モデルが主流でした。しかし、デジタルを活用した利便性の高いサービスに価値を感じる顧客が増え、双方向なコミュニケーションが必須となっています。そのような中、業界の対応は十分とは言えず、アプリやオンライン手続きなどでの利便性に差が生じています。さらに、顧客データの活用が限定的で、パーソナライズされたサービスが十分には提供できていないことも大きな課題です。

電気・ガス業界の顧客が重視する顧客体験とは?

以上のような状況を打破するためにもCXは重要です。日本アイ・ビー・エムとADKマーケティング・ソリューションズによるコンサルティングユニット「alphabox」の調査「電気・ガス業界のカスタマー・エクスペリエンス(CX)」によれば、顧客に価値ある体験をもたらす要素として、以下の4つが挙げられています。

  • 賢い消費
  • 社会貢献感
  • 生活上の安全安心
  • 楽しい時間(日常に彩りを与える特別感)

「賢い消費」については、電気・ガスの使用量を見える化するアプリを活用し、自ら電力をコントロールしながら消費できるようにする手法などが考えられます。自分の意思が反映されることで「他者よりも頑張っている自分」を実感し、達成感を得られるかもしれません。また、目標達成をゲーム感覚で楽しむことで、満足度の向上にもつながります。

「社会貢献感」については、例えば「節電プログラムに参加し家の電気を消すと、商業施設で使えるクーポンがもらえる」といった、単なる節約以上の体験が満足度を高めます。

「生活上の安全安心」については、電気・ガスのトラブルだけでなく、水回りなど生活全般のトラブル対応まで含めたサポートが安心感を生み、信頼につながります。特に「即時に現場へ駆けつける」ような迅速な対応は、満足度を大きく高める要素となるでしょう。

「楽しい時間(日常に彩りを与える特別感)」については、例として「駐車場1時間無料」「ホテルランチペア招待」のプレゼントなどが挙げられます。ささやかな驚きや贅沢を提供することで、顧客体験に深みが出せます。

さらに、単一の施策よりも複数の要素を組み合わせたCX施策(例:安全・安心+エンタメ性)の方が、他社との差別化につながり、満足度をより高める傾向があるとされています。

電力・ガス業界の顧客体験を改善する具体的な手法

電力・ガス業界において、どのような施策が顧客体験の改善につながるのか。具体的な手法を紹介します。

スマートメーターデータを活用した個別提案

スマートメーターにより30分毎に収集される使用データを分析することで、顧客の生活パターンを詳細に把握できます。例えば、家電別のエネルギー使用量の傾向を知ることで、各家庭に合わせた省エネプランの提案が可能です。ある大手電力会社と分析サービス事業者による連携では、人工知能(AI)を活用して年次エネルギーサポートを作成。使用パターンに基づく最適料金プランやサービスの提案する取り組みが行われています。

サービスの多角化

単なる電力・ガスの供給にとどまらず、関連サービスを展開することで、顧客価値の向上につなげることも可能です。例えば、ある電力会社ではエネルギー管理と金融サービスを組み合わせた「銀行サービス」アプリの運用を始めました。顧客が電気・ガス料金をそのサービスを通じて支払うと、最大5%のポイント還元が得られ、他社のポイントにも交換可能です。さらに、振込手数料が月5回まで無料になるなど、日常の金融体験とエネルギー利用が一体化した新しい価値を提供しています。

デジタル接点での顧客体験最適化

カスタマージャーニーにおけるデジタル接点を最適化することで、顧客満足度を向上させることができます。Webサイトやスマホアプリ、マイページなど、顧客とのタッチポイントが使いやすいことは満足度に直結します。例えば、デバイス上での使用量の見える化やプッシュ通知による省エネアドバイスなどが効果的です。

ある電力会社では、メール、LINE、公式サイトなどを活用し、行動履歴やログイン情報に基づいて暮らしを豊かにするメッセージを発信。さらに、会員サイトの登録時や内容更新時にメルマガのオプトイン(承諾)を促す仕組みを構築し、誘導率が9.2%改善しています。

また、別のガス会社でもメールやアプリ、LINEなどを使いデジタル接点の強化を推進しています。顧客の困りごとへの解決策を重視し、利便性を高めるというものです。例えば、どのページのどこで離脱しているかを分析し、顧客がつまずきやすいポイントでポップアップを表示したところ、30%の顧客がポップアップをクリックしたという結果が得られています。

ボイスボット・チャットボット・Web接客ツールの導入

問い合わせ対応にボイスボットやチャットボット、Web接客ツールを導入することで、問い合わせへの解決が迅速になり、顧客満足度の向上にもつながります。あるガス会社では、コールセンターの負担軽減や対応品質の向上、業務効率化に課題を抱えていました。そこで、音声を使ったボイスボットとテキストを使ったチャットボットを活用し、顧客の対応を自動化したことで、スムーズな問題解決や満足度向上を実現しています。

また、人の対応を好む顧客のために有人対応も選択できるシステムを構築し、幅広い顧客のニーズを満たすことに成功しています。

NPS®の導入による顧客ロイヤルティの可視化

NPS®(Net Promoter Score®)は、商品やサービスに対する信頼や愛着などの、顧客ロイヤルティを測る指標です。顧客アンケート調査によって、0ー10点で推奨意向を尋ね、推奨者(9ー10)の割合から批判者(0ー6)の割合を差し引いて算出します。ここからは、NTTコム オンラインが実施した調査をもとに、電力・ガス業界のNPS®ランキングを見ていきましょう。

電力(東日本)部門のNPS®ランキング

NTTコム オンラインの「【NPS®(顧客推奨度)ベンチマーク調査】電力おすすめランキング」(2025年6月発表)によると、東日本の電力業界でNPS®が高い上位3社は以下の通りです。(カッコ内の数字はNPS®スコア)

1位:東京ガス(-33)
2位:ENEOSでんき(-41.9)
3位:東京電力エナジーパートナー(-52.3)

平均は-52.8で、トップとボトム間の差は39.5ポイントとなっています。

ロイヤルティを向上させるために優先的に改善した方が良いとされる項目として「お客さまの声に耳を傾ける姿勢」や「契約者の節電を促進する取り組み」、「利用料金の適切さ」などが挙げられました。また、ロイヤルティを醸成する要因には「サービスの信頼性/安定性」や「企業の信頼性/ブランドイメージ」などが挙げられています。

都市ガス部門のNPS®ランキング

NTTコム オンラインの「【NPS®(顧客推奨度)ベンチマーク調査】都市ガスおすすめランキング」(2025年3月発表)では、上位ランキングは以下のとおりです。(カッコ内の数字はNPS®スコア)

1位:東京ガス(-32.2)
2位:西部ガス(-37.3)
3位:大阪ガス(-37.7)

都市ガス12社の平均は-45.6ポイント、トップとボトムの差は33.8ポイントでした。

優先的な改善が求められる項目は「自分に合った契約プランがあること」や「契約プランがシンプルで分かりやすいこと」などが挙げられ、ロイヤルティ醸成の要因となった項目は、「企業の信頼性/ブランドイメージ」や「お客さまに寄り添う姿勢・大切にする姿勢」などでした。

NPS®の導入をサポートするNTTコム オンラインの「NPS®調査・コンサルティング」

CX向上に取り組む際には、NPS®(Net Promoter Score®)の導入を検討してはいかがでしょうか。NTTコム オンラインでは、NPS®認定資格者が設問設計から実査、レポート作成まで一貫してサポートする「NPS®調査・コンサルティング」を提供しています。顧客ロイヤルティの向上を目的とした多面的な調査・分析を行い、企業の成長に直結するアクションにつなげます。

NPS®調査・コンサルティングでは以下のような調査が可能です。

  • NPS®ベンチマーク調査:競合他社との比較を通じ、自社のポジショニングを把握することが可能です。競合他社のNPS®を同時に収集することで業界内での位置づけが分かります。
  • NPS®アセスメント調査:自社におけるNPS®の有用性を確認するという視点から、KPI指標との相関を明らかにします。そして、推奨者/批判者がもたらす経済的価値を評価します。
  • 改善アクションのための要因分析:高いロイヤルティの要因や優先的に改善すべき項目を特定します。

導入初期から活用フェーズ、さらには社内の部門の拡大まで、各フェーズでNPS®コンサルタントが適切なサポートを提供し、調査結果を実効性のある改善策につなげます。また、ブランドロイヤルティ調査においては、NTTコム オンライン独自の「クオリティポリシー」に基づき、以下の4つの品質保持を徹底し、調査結果の信頼性を担保します。

  • モニターの品質
  • 調査票の品質
  • アンケートシステムの品質
  • 回答結果の品質

これにより、自社のブランドポジションや課題を正確に把握し、ブランド価値向上につながる効果的なアクションを導き出すことが可能となります。

電力業界・ガス業界での差別化は顧客体験がカギとなる

電力・ガス業界では、価格や供給の安定性だけでなく、顧客が体験する価値が競争力を左右しています。市場自由化後、競争が激化し料金上昇への不満も高まる中、適切な顧客体験を提供することが差別化の鍵となっています。さらに、スマートメーターのデータ活用やデジタル接点の改善、NPS®による顧客ロイヤルティの可視化など、体験を高める具体的施策が求められているでしょう。

しかし、「NPS®の調査・集計に割けるリソースがない」「改善方法がわからない」というお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。NTTコム オンラインでは、NPS®に関する調査からNPS®を基にした改善アクションまでワンストップでサポートします。導入初期の設計支援から担当者が丁寧に対応しますので、ぜひご検討ください。

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