2016/03/01
カスタマーロイヤルティxビジネス
第10回 『お客様からの苦情がないこと』について考える
NTTコム オンラインの屋代です。今回は、『お客様からの苦情がないこと』がビジネスにとって本当に望ましい状態なのだろうか、ということについて考えます。
お客様からの苦情があまりにも多いという状態が続くことがビジネスにとって望ましくない状態であることは改めて申し上げるまでもありません。では、逆に、お客様からの苦情がないことは、すなわちビジネスにとって望ましい状態である、といってよいのでしょうか?
『John Goodmanの法則』で知られるJohn Goodman氏がMediumに寄稿した記事 "No News Is NOT Good News: Beware of Customers Who Don’t Complain" では、まさにこの点を論じていますので、ご紹介したいと思います。
マネージャーや本部にエスカレーションされた苦情の背後には多くの『苦情を言いたかったが言わなかった』お客様がいる、ということはビジネスの経験則として共有されています。
同氏は、苦情を言わない理由として『苦情を言ったからといって望ましいサービスを 受けられない』とお客様が考えてしまっている、とし、これを『訓練された失望(trained hopelessness)』と呼んでいます。そして、『訓練された失望』の結果として、どれだけ多くの収入が失われているかを企業側が理解していないことが問題である、と述べています。
まさに、『お客様から何もないことは良いニュースではない』のです。
同氏によれば、店舗やコールセンターのスタッフに苦情を申し立てるお客様の割合は25%に満たないのだそうです。さらに、苦情を言った場合に、すぐに解決策を得られなかったり、『それは当社のポリシーです』といった回答だった場合には、お客様はその後の取引を止めてしまいます。このことから、同氏は、1件の苦情の背後には、4件~25件の同様の苦情があると考えてよい、としています。さらに、B2B環境においては、この割合は5%以下(20:1)である、としています。
そして、このことがビジネスに与える悪影響として、問題に直面しても苦情を言わない お客様は少なくとも20%ロイヤルティが低下し、ネガティブな口コミを拡げる傾向にある、としています。
同氏によれば、中小規模のビジネスにおいて、ポリシーやオペレーションに関する2件の苦情の背後には、同じ問題で不満を抱える少なくとも10件(場合によっては100件)のお客様がいる、と考えてよいそうです。この比率は、長期の契約や独占的なビジネス、非営利、そして行政機関等においてはさらに悪化する、としています。
同氏は、試算として、10:1という割合を用いたケースであっても、2件の苦情があった場合には20人の顧客が悪い経験をし、40人の顧客が失われるリスクがある、としています。顧客1人当たりの価値が1,000ドルであるとすると、月に2件の苦情は、1ヶ月に4,000ドル、1年に50,000ドルを失う可能性を意味する、としています。
さらに、もしこの20人の不満のある顧客がそれぞれ4人(保守的な数字です)にこの経験を伝えるとした場合、1ヶ月当たり80件のネガティブな口コミが生まれる計算になります。最後に、苦情を受けながらもそれを解決できないことで不満を高めた従業員の離職が増えることにも直面する、としています。優れた従業員が自発的に離職する理由の半分は『こんな馬鹿馬鹿しいことを引き受けるほどの給料をもらっていない』だそうです。
一方で、同氏は、この『訓練された失望』への対処として以下を挙げています。
『苦情を言うこと』を奨励する
店頭やWebサイト、請求書などで苦情を言うことを薦め、また、従業員にアイコンタクトをすることを薦めるなどにより、パーセンテージは30%改善する、としています。
問題を解決する力を従業員に与える
従業員に、解決できない問題を3つ訊ね、それらを解決するツールを与えることを薦めています。1回目の問い合わせで解決されない場合には再び苦情を言うことはない、ということを強調しています。
プロアクティブに顧客に情報を与え、問題そのものを防止する
バージニア州のある建設業者は、家の改築を依頼したお客様に、最初の4週間はがっかりするような、ほとんど進んでいないように見える工程であることを理解させているそうです。この業者はAngies List(ローカルビジネスの評価サイト)で高い評価を得ているそうです。
記事の締めくくりに当たり、同氏は、企業側が苦情を耳にしていない状況であっても収入に大きなダメージを蒙る可能性について再度強調しています。
不満を抱いたお客様は、『取引を止める』という形で直接に売上にダメージを与えるだけでなく、ネガティブな口コミを拡げることで他のお客様の購買決定にネガティブな影響を与えるという形でもビジネスにとってダメージとなります。その金額は想像以上に大きいものとなり得る、と考えます。そして、口コミの影響力は本当に大きなものとなっていることにも留意しなければなりません。
これらを考え合わせたとき、『不満を申し立てないが行動するお客様』がビジネスに与えるダメージは想像を絶するものになる可能性があるのではないでしょうか。
このように、不満を抱いたお客様が苦情を申し立てる割合が非常に小さい可能性がある以上、『苦情がないこと』が望ましい状態である、とは言い切れないと考えます。企業側には、入ってくる苦情の件数が少ないときであっても、『不満を抱いているが何も言わない』お客様を能動的な行動により見出し、その不満を解消するためにプロアクティブに行動することが求められているのではないでしょうか。
今回ご紹介した記事は以下にてお読みいただけます。(英語です。)
No News Is NOT Good News: Beware of Customers Who Don’t Complain
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