2024/08/02
カスタマーロイヤルティxビジネス
実証研究とは?調査のメリット・デメリットや具体的な手順を解説
実証研究は、実際の調査や観察から得たデータを用いて仮説を検証し、結論を導き出す科学的アプローチです。学術分野のみならず、企業の戦略立案やマーケティング活動にも効果的な手法として知られています。しかし、実証研究には多様な研究手法が存在し、専門知識が求められるため導入を躊躇している企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、実証研究による調査の概要やメリット・デメリット、研究方法の種類・手法、実証研究の調査手順などを解説します。実証研究を自社のビジネスに活用したい企業の担当者様は、ぜひ参考にしてください。
- 課題に対する仮説などを調査や観察による具体的証拠をもとに分析・証明する手法を実証的研究と呼ぶ
- 実証的研究を活用すれば、具体的なデータをもとに精度の高い結果が得られ、戦略立案に役立つメリットがある反面、データ収集に時間やコストがかかるデメリットも存在する
- 実証的研究の手法には、数的データを活用して分析を行う定量的研究と個別の事象を扱う定性的研究の2種類がある
- 実証研究のデータ収集には高い専門性が求められるため、実施の際は、専門の調査会社に委託すると良い
実証研究の調査とは?
実証研究とは、問題に対する結論を実証(検証)可能な具体的証拠(経験的証拠)を用いて証明する研究手法です。実証研究では、自分が問いに対して立てた仮説について、科学的手法を用いた実験・調査などをもとに検証していきます。
例えば、「音楽を聴きながら作業すれば仕事のパフォーマンスが向上する」といった仮説を立てた場合なら、「音楽を聴きながら作業したグループ」と「聴かなかったグループ」とで実験・観察を行い、得られた結果の分析から結論を導き出すのが実証的研究の手法です。
実証研究で調査を行う重要性
実証実験では、アンケートやインタビュー、観察などを通じてデータを蓄積していきます。現実の調査をベースに科学的根拠に基づく知見を積み上げていけば、有効な仮説の検証が可能です。そのため実証研究は、さまざまな社会的課題の解決や政策決定などに寄与します。例えば、以下のようなケースでは、実証研究を用いた仮説の検証が有効です。
- 社会問題の解決(環境問題や公衆衛生など):現実の環境等に起きている問題の調査をもとに対策を検討する
- 政策決定(教育プログラムや医療政策など):実際に教育プログラムや医療政策を受けたグループを対象に調査を実施して有効性を検証する
- 公共サービス(交通システム、福祉サービスなど):利用者データから、効率性や利便性を検証する
その他の研究
研究活動に用いられる手法には、実証研究のほかにも、以下のようにさまざまな種類があります。
- 理論研究
- 方法論的研究
- 探索的研究
- 実験的研究
- 相関研究
- 縦断的研究
- 横断的研究
それぞれの研究手法について解説します。
理論研究
対象とする分野の新しい理論や概念、モデルなどを構築し、理解を深めるための研究です。理論研究では、特定の事象をテーマとして「なぜそうなるのか」「何が起きているのか」など、現象そのものについての知識や理解を深めていきます。
新しい理論や概念を生み出すとともに、課題を説明するためのモデルを組み立てることも理論研究の目的です。理論研究は自然科学から人文科学、社会科学と幅広く実施されています。
方法論研究
現実に存在している課題の解決手段を明らかにするための研究です。すでに課題は明らかになってはいるものの、どのように解決するかが確立されておらず、新たな解決方法を発見・提案・開発する必要がある場合に用いられます。
企業における研究開発では、自社の商品・サービスによる顧客の課題解決を目的としているため、方法論研究の手法を採用するのが基本です。企業で「Research and Development (R and D)」と呼ばれる研究の多くは、方法論研究となっています。
探究的研究
そもそも問い自体が明らかになってない事象に対して、何が課題であるかを明確にしたり、解決方法に関する仮説を導き出したりする予備的研究です。
主に、未知の領域や明確な問いが確立されていない分野、抽象的な問題などに実施されます。文献調査やフィールドワーク、インタビューなどを通じて網羅的な情報を集め、現時点での問いは何なのかクリアにするとともに、新たな研究やアイデアへと結びつけていきます。
実験的研究
特定の事象に対して人為的な介入を行い、どのような変化が起きるか、変数間に因果関係があるのか、などを分析する研究です。研究時には、条件や変数などを操作して影響を観察し、データを収集して統計的な分析を行います。
例えば、病気の新しい薬を開発する際、さまざまな投薬条件を試してみて、どういった変化を及ぼすかを調べる場合などに用いられるのが実験的研究です。ほかにも、自然科学や社会科学など幅広い分野に利用されています。
相関研究
相関研究は、2つ以上の変数間の関連性を調査する手法です。この研究方法は、因果関係を直接的に証明するものではありませんが、変数間の関係性の強さや方向性を明らかにすることができます。例えば、運動習慣と心臓病リスクの関係や、教育レベルと収入の関連性などを調査する際に用いられます。
ただし、相関関係が因果関係を意味するわけではないため、結果の解釈には慎重さが求められるでしょう。この手法は特に、心理学や教育学、経済学などの人文科学や社会科学分野で利用されています。
縦断的研究
特定の個人やグループなどに対して追跡調査を実施し、繰り返しデータを収集して分析を行う研究手法です。少数の被験者を対象として時間をかけて何度もデータを取るのが特徴で、一時的なサンプル収集では分析が難しいテーマの研究に用いられます。
例えば、食生活と健康状態や病気との関係を調べる場合、一度のデータ収集では正しい結果が得られません。1年間や数年にわたる長期的な調査でしか因果関係を明らかにできない課題に対しては、縦断的研究の有効性が高いといえるでしょう。
横断的研究
縦断的研究が長期的な調査を行うのに対して、特定グループの一時的なデータを収集・分析する研究手法を横断的研究(断面的研究)と呼びます。医学や心理学、生物学などで幅広く利用されている研究方法です。
横断的研究では、例えば、朝食を食べたグループと食べていないグループで午前中のパフォーマンスの違いを調べるといった、複数グループのデータを横断的に収集・分析する手法が用いられます。特定グループを深く調査する縦断的研究に対して、複数グループを広く調べる研究方法といえるでしょう。
実証研究の起源
実証研究の起源となる思想が生まれたのは、17世紀のヨーロッパでした。大航海時代を迎えていた17世紀のヨーロッパでは、知識情報量の増加や望遠鏡・顕微鏡などの用具の発明などにより急速に科学が発展しています。従来の宗教中心だった社会に大きな変革をもたらし、科学革命と呼ばれました。同時に、実証研究の起源となる経験主義や啓蒙主義などの思想が広がります。
その後もヨーロッパでは、科学技術や科学哲学などが発展し、19世紀には第二次科学革命が起きるとともに、実証主義の考え方と手法が確立されました。
実証研究で調査するメリット
特定の物事を調査・探求する際、実証研究を利用すると、以下のように多くのメリットがあります。
- 多様な実験や観察を通じて、仮説や従来の研究結果の妥当性を客観的に評価できる
- 実証的な調査を実施し、具体的証拠を収集するため、研究の精度と信頼性を高められる
- 実験を通じて研究対象の状況や環境の移り変わりを理解しやすいため、変化に応じて戦略立案や方針変更が可能になる
- 綿密に設計された実証研究では、複数の変数を効果的にコントロールできるため、特定の要因が結果に与える影響を正確に測定し、因果関係を明らかにすることができる
実証研究で調査するデメリット
実証研究は、多くのメリットがある反面、以下のようなデメリットも存在するため注意が必要です。
- 実証研究では、実験・観察を繰り返すため、データの収集に多くの時間を要する
- 結果を比較・検証するためには、異なる場所や環境での研究が必要になることがあり、コストがかかる
- 実証研究では、実験を行う際、特定のルールなどを守るために倫理委員会の承認や法的許可が必要となる場合もありますが、これらの取得が困難なケースも存在し、研究の実施に制限がかかることがある
- 検証のため、さまざまな情報源から多様な方法でデータを収集する必要があるものの、場合によっては希望する方法で実験や観察などのデータを得られないケースもある
実証研究の種類・手法とは?
実証研究に用いられる主な研究手法には、以下の2種類があります。
- 定量的研究
- 定性的研究
それぞれの詳細と具体的な方法をみていきましょう。
定量的研究
実験や観察から得られた結果を数値や数量データとして、統計学的・数学的な方法を用いて分析する研究手法です。英語では「quantitative research」といい、定量的研究で扱う情報は「量的データ」と呼ばれます。
定量的研究は、大規模なサンプルを扱い、客観的で一般化可能な結果を得ることを目的としています。個別具体的ではなく、全体を抽象的に解釈する方法といえるでしょう。
個別的な事例は1回起きれば、全く同じ事象はほぼ起きません。しかし、定量的研究であれば、類似の事例でも同様の結果となるのを確認可能です。定量的研究を用いれば、仮説やモデルの一般化が可能となるため、再現可能性の確認にも利用されています。
定量的研究の具体的な手法
定量的研究で利用される具体的な手法は、主に以下の通りです。
- アンケート調査:アンケートを通じて大量のデータを収集する手法。多肢選択式やリッカート尺度、評価尺度など、さまざまな質問形式が使用され、物事への意見や態度、行動など多様なデータを取得できます。近年では、対面や電話だけでなく、インターネットやSNSなど、さまざまなプラットフォームでアンケート調査が実施できるようになりました。
- 観察研究:自然な環境下での事象や現象に対して観察、記録を行い、収集したデータの分類、分析をする手法。例えば、野生動物の行動研究や子どもの遊び方の分析などに用いられる。
- アーカイバル・リサーチ:過去に他の目的・調査によって収集された既存のデータを利用して分析を行う手法。アーカイバルデータには、政府機関の記録、歴史的文書や公的なデータベースなどがあります。アーカイバル・リサーチを利用すれば、長期的かつ大量のデータを分析可能です。
定性的研究
特定の個人やケーススタディなど、個別具体的なデータを収集・分析する研究手法です。英語では「qualitative research」と呼び、定性的研究で得られた情報は「質的データ」と呼ばれます。定量的研究の基礎となる理論を構築したり、数的アプローチのサポートに利用されたりする方法です。定性的研究では、対象の本質や特徴などを言葉を使って表現します。
本質的でない部分については、切り捨てて一般化・抽象化し、概念的定義を形成するのが特徴です。ただ、概念的定義では抽象的過ぎるため、実際の観察や分析を行う際には、一段階具体化した操作的定義として対象を明確に言葉で表現します。
定性的研究の具体的な手法
定性的研究で利用される具体的な手法は、主に以下の通りです。
- インタビュー:個別やグループでインタビューを実施し、定性的なデータを収集する方法です。個別のインタビューはさまざまな分野で普遍的に使われており、個人の深い定性情報を得られます。グループインタビューでは、複数のインタビュイーが相互作用を起こし、変わった知見が得られることがあります。
- ケーススタディ:ビジネスや歴史など過去に起きた出来事を取り上げ、ケーススタディとして分析していく手法です。実際の事例をもとに問題の解決方法を探求し、一般的なモデルや法則に当てはめていくことを目的としています。
- 観察研究:対象を観察してデータを収集する手法です。定量的研究・定性的研究どちらにも用いられます。
- フォーカスグループ:少人数のグループに特定のテーマに関して話し合いをしてもらい、内容を観察しながらデータを収集する手法です。ユーザーや見込み顧客などから、商品・サービスなどに関する要望やフィードバックを集めたい場合などに有効な方法です。
- テキスト分析:テキストデータから有益な情報を取り出し分析する手法です。インターネット上の掲示板やSNS、問い合わせメール、コールセンターでのやり取りなどからテキストを抽出し、傾向を分析します。
実証研究の調査手順
ここからは、実証研究の調査手順について、以下の5段階に分けて解説します。
- 研究目的を明確化する
- 文献レビューを行う
- 仮説を設定する
- 調査の設計・データ収集
- データを解析して結論を出す
それぞれの手順について、詳しくみていきましょう。
1|研究目的を明確化する
実証研究で、何を明らかにするために調査するのかを明確にするステップです。研究をスムーズに進めるためには、調査の対象と目的、分析の背景などが明確であるか、研究の重要性を明確に伝えられるか、研究における新規性はあるか、などが重要です。
利用可能なリソースや時間的制約も考慮しつつ、実現可能性も評価します。明確な目的設定により、研究の焦点が絞られ、効率的な調査が可能になるとともに、後続のプロセスの指針にもなるでしょう。
2|文献レビューを行う
文献レビューでは、先行研究や関連理論を包括的に調査し、自身の研究の位置づけを明確にします。過去の研究手法を分析し、自身の研究への適用可能性を検討するとともに、先行研究が直面した課題を把握し、対策を考えます。
最新の研究動向にも注目し、研究の新規性を確保することも重要です。文献レビューを行う際は、オンラインサービスを利用すれば、文献や先行研究などを体系的に検索する際に役立ちます。
3|仮説を設定する
調査を実施する前には、研究によって何が起こるか、どのような結果が得られるかなどの仮説を設定します。調査時に観察の対象とする変数や研究の環境を決めるとともに、変数間でどのような変化や関連付けができるかを推測して仮説を立てましょう。
誤差の許容範囲や測定に使用する単位などの定義も必要です。また、自分が選択した調査方法が第三者に受け入れられるかどうかの検討および、研究の妥当性に関する判断も求められます。
4|調査の設計・データ収集
仮説が決まった後は、実際に調査・データ収集を実施する際の具体的な戦略を定義します。研究を行う際には、実験的手法(研究者が変数をコントロールして対象への影響を調査する研究方法)か非実験的手法(変数の操作を行わず観察や測定に依拠した研究方法)かを選択しなければなりません。
また、研究デザイン(具体的な研究の進め方を定義した型)の妥当性に影響を与えるパラメータ(サンプルサイズやサンプリング方法など)についても検討しましょう。分析によって正しい評価を導き出すためには、適切なデータセットからデータを収集する必要もあります。
5|データを解析して結論を出す
必要なデータが揃ったら、質的・量的な分析(定量的分析・定性的分析)のいずれか、もしくは両方を組み合わせて分析作業を進めていきます。研究の目的に照らして、質的手法と量的手法のどちらが有効か、または、両方を組み合わせるべきかを判断しましょう。
分析の際には、データクリーニングを実施して、データの正確性を担保するのも重要です。データは仮説を立証する大切な材料のため、不備のないように心がけましょう。分析により導かれた調査結果は、最終的には報告書にまとめる必要があります。
実証研究の調査にはNTTコム オンラインの「NTTコム リサーチ」
具体的な調査や観察をもとに仮説を検証・証明する実証研究は、企業のマーケティングや戦略決定においても有効です。実証研究のデータ収集には、高い専門性が求められるため、調査会社に委託するのが効率的といえるでしょう。
NTTコム リサーチのパネル調査は、市場調査、マーケティングや競合調査、CS調査、BtoB調査などさまざまなビジネスシーン、ニーズに活用できるインターネットリサーチです。一般人からビジネスキーパーソンまでを対象に、モニター属性から調査対象者の絞り込みを行うほか、専門リサーチャーのサポートもあり高品質なデータの納品を実現しています。これまで、官公庁やシンクタンク、学術調査機関、マーケティング業界など、幅広い分野で多数の受注実績があります。
調査内容の決定から納品までは5~7営業日とスピーディな対応が可能です。800万人のモニターを対象とした大規模調査などにも対応していることに加え、豊富なオプションや高度なアンケート作成機能も備え、お客様の要望に応じて柔軟なカスタマイズも行なえます。自社の施策に実証研究を取り入れたいとお考えの方は、ぜひご検討ください。
NTTコム リサーチの調査事例
NTTコム リサーチは多種多様な学術調査にも対応でき、過去には、以下のようにさまざまな大学と共同調査を行ってきました。
- AI搭載の自動運転車とIoT活用商品に関する国際調査(東京理科大学、東京大学との共同調査):日本やアメリカなど4か国で自動運転車などに対する消費者の関心や安全に対する信頼度などを調査。
- 清涼飲料水の自動販売機での購入に関する調査(実践女子大学との共同調査):国内における自動販売機での電子マネー、アプリの使用率などを調査。
- 大学のオープン化に関する調査(日本オープンオンライン教育推進協議会との共同調査):インターネットを通じたオンライン講座に関する認知度や利用実態を調査。2018年にも同様の調査を実施しており、縦断的研究となっています。
大学・学術機関との共同調査結果一覧
https://research.nttcoms.com/database/academy.html
実証研究は調査会社の利用で効率化できる
調査や観察を通じて課題に対する仮説を検証する実証研究は、マーケティングや戦略立案に大きく貢献します。しかし、もともと研究・学術分野で利用されてきた実証研究をビジネスシーンで活用するには、高い専門性と知見が必要です。なかなか導入しにくいと考えている企業の担当者様も多いのではないでしょうか。
自社のビジネスにも実証研究を役立てていきたいと考えている企業様は、専門調査会社への委託がおすすめです。多様な分野での受注実績をもつNTTコムリサーチの利用をぜひご検討ください。
NTTコムリサーチの資料ダウンロードや見積・お問い合わせはこちらから
https://www.nttcoms.com/service/research/download/
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