
更新日:2025/03/28(公開日:2015/08/06)
NPS®(ネットプロモータースコア)入門・導入編
第3回 NPS®の向上は本当に売上と相関関係があるのか?
第2回では、顧客ロイヤルティを測る新指標NPS®(ネットプロモータースコア)の誕生と、その本質についてお話ししました。
第3回のテーマは「NPS®と売上・成長との相関」です。これは、昨今NPS®が注目を浴びている、大きな理由のひとつといっても過言ではないでしょう。そしてNPS®を導入する際ほとんどの企業で、意思決定者が必ず気にするポイントではないでしょうか。
- NPS®と企業の売上・成長に強い相関関係があることは、ホワイトペーパーなどに掲載された調査結果が裏付けている
- 推奨者は批判者よりライフタイムバリューが高く、NPS®を向上させるために欠かせない存在である。
- NPS®調査を成果につなげるためには、顧客が抱える不満の深掘りや質問内容の工夫が必要。
- NPS®スコアが高いほど、製品・サービスの継続利用意向も高くなることが判明している。
NPS®と企業の売上との相関関係
前回、顧客の「再購入」「推奨」行動につながる究極の質問の発見について、どのような調査が行われたかについて簡単に触れました。その出典元であるSatmetrix社のホワイトペーパー「THE POWER BEHIND A SINGLE NUMBER」では、CATV/通信業界において、究極の質問に対する回答(=推奨度)により、顧客の購入やクチコミ行動が大きく異なることが示されています。

このホワイトペーパーでは、「推奨度と個々の顧客の行動との関連」というミクロな視点での調査だけではなく、「推奨度と企業の成長との関連」というマクロな視点での調査結果も示されています。
複数の業界の400社以上の企業/ブランドに関して、延べ15万人以上からの評価を分析した結果、NPS®は企業の売上高成長率と高い相関があることがわかりました。特に航空業界の主要企業においては、NPS®と5年間の売上高成長率との間に、相関係数0.89という強い相関があるという結果が出ました。

また、ベイン・アンド・カンパニーの別の調査(*1)では、おおよその業界においてNPS®でトップを走る企業(=ロイヤルティ・リーダー)は、競合他社の2倍の売上高成長率を上げているとも言われています。
これらの調査結果から、「お薦めするか?」という問いに対する回答(=推奨度)は、個々の顧客の行動だけではなく、最終的には企業の成長とも強い関係があることが明らかになりました。
推奨者と批判者のライフタイムバリュー
NPS®と企業の成長には強い関係があることは、上で述べたとおりですが、これを具体的にイメージするために顧客のライフタイムバリューという観点で考えてみましょう。
ライフタイムバリュー(Life Time Value、以下LTV)とは、「顧客が取引期間を通じて企業にもたらす価値」すなわち「顧客生涯価値」です。第2回で推奨者、中立者、批判者の行動の特徴についてお話ししましたが、この行動を具体的な金銭的価値に置き換えると、どうなるでしょうか。
Satmetrix社のホワイトペーパー「NET PROMOTER ECONOMICS:THE IMPACT OF WORD OF MOUTH」からB2Cのコンピューターハードウェアメーカーのケースをご紹介します。
まず、LTVは以下のように算出されます。
LTV = 購買換算価値 + クチコミ換算価値
顧客ロイヤルティのもたらす行動には「再購入(契約の継続)」「追加購入」「ポジティブなクチコミ」「建設的なフィードバック」の4つがありますが、購買換算価値はこのうち「再購入(契約の継続)」「追加購入」によって、その顧客自身が直接もたらす価値になります。
調査の結果、推奨者の購買換算価値は$1,818、批判者の購買換算価値は$1,457となりました。平均は$1,615であるため、推奨者は平均より$203高く、批判者は$158低いという結果になります。
次にクチコミ換算価値を算出してみましょう。このホワイトペーパーでは以下のような算出モデルにより計算しています。
- クチコミ換算価値 = クチコミインパクト × 支出金額平均
- クチコミインパクト = クチコミした割合 × クチコミした件数 × 成約率(機会損失率)
こちらの算出モデルを用いたところ、推奨者のクチコミ換算価値は$816、批判者のクチコミ換算価値は-$1,352になりました。
以上から、推奨者および批判者のLTVは以下のグラフで表すことができます。

推奨者のLTVは$2,634、批判者のLTVは$105となります。
第2回で、NPS®を上げるためには推奨者を増やし、批判者を減らす必要があると書きましたが、仮に批判者から推奨者へ移行させることができた場合、その経済的価値は一人当たり$2,634-$105で$2,529になります。
この数字から、NPS®の向上が企業にとって大きな経済的価値があることが、おわかりいただけるのではないでしょうか。
NPS®向上による業績へのインパクト
NPS®が上がってリピート率が高まれば、企業はさらに成長します。しかし、実際にどのような恩恵を得られるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで、NPS®向上が業績に大きなインパクトを与えることについて解説します。
イギリスでの調査
イギリスで2005年に実施された調査(*2)においては、業界により差異はありつつも、全体的にNPS®と成長率との間に関係性がみられ、調査対象の業界全体では以下の結論が得られました。
- NPS®の7ポイントの上昇は、1%の成長率アップにつながる (金額換算すると、NPS®の1ポイントの上昇は882万ポンド相当の売上アップに相当する)
- ネガティブな口コミの2%の減少は、1%の成長率に相当する (金額換算すると、ネガティブな口コミの1%の減少は2,484万ポンド相当の売上アップに相当する)
- NPS®がゼロを上回り、かつ、ネガティブな口コミの比率が25%未満の企業の成長率は、NPS®がゼロを下回りネガティブな口コミの比率が25%を上回る企業の4倍以上
NTTコム オンラインでのベンチマーク調査
NTTコム オンラインでは、銀行・自動車・生命保険・ネット証券など業界別のNPS®ベンチマーク調査を実施しています。この調査結果を見れば、調査対象の企業や製品・サービスを「他者にどのくらいおすすめしたいか」という推奨度を調べることが可能です。
多くの業界では、NPS®スコアが高ければ高いほど、製品・サービスの継続利用意向も高まることが本調査で判明しています。継続利用意向に関する推奨者・中立者・批判者の平均スコアを一部紹介するので、以下も併せてご確認ください。
【ダイレクト型自動車保険部門の継続利用意向】
- 推奨者:9.3
- 中立者:7.8
- 批判者:5.8
【銀行部門の継続利用意向】
- 推奨者:9.6
- 中立者:8.1
- 批判者:6.0
NPS®調査を成果につなげるためのポイント
NPS®調査を成果につなげるためには、以下のポイントを実践する必要があります。
- 分析で特定した顧客の不満を深堀りする
- NPS®の質問内容を工夫する
- NPS®調査の専門家に依頼する
各ポイントの詳細も解説するので、きちんと押さえておきましょう。
分析で特定した顧客の不満を深堀りする
NPS®調査の結果を分析すれば、ロイヤルティへの影響度が高い要素を洗い出すことができます。顧客が抱える不満は特に大きな影響を及ぼすため、細かい内容まで特定したいところです。
明確化した顧客の不満を深掘りしつつ、適切な改善施策を実施すれば、NPS®の向上が見込めるようになります。
例えば、アフターフォローに関する質問で「コールセンターの待ち時間が長い」という回答があった場合、深掘りすると「自分の時間が大切に扱われていない」という不満が見えてきます。その結果、待ち時間の短縮やお問い合わせ先の新設といった施策が必要だと判断できるでしょう。
NPSの分析方法とは?定量分析・定性分析の具体的な手法を解説
NPS®の質問内容を工夫する
NPS®調査はアンケート形式で行いますが、自社にとって有益な意見を集めるためには、質問内容を工夫することも大切です。基本的に質問数を増やすほど回答率が下がりやすくなるため、NPS®調査の質問数は7問以内、回答時間は5分以内を目安に作成しましょう。
質問内容や調査の説明に関しては、なるべく簡潔にまとめる必要があります。長文や回りくどい表現を入れていると、調査対象がストレスを感じてしまい、途中で回答をやめる可能性が出てくるためです。
また、11段階評価で回答する質問だけではなく、自由記述型式の質問も設けましょう。より具体的な意見を収集したり、想定外の問題を見つけたりすることができます。
NPS®の質問内容とは?質問例やアンケート作成のポイントを解説
NPS®調査の専門家に依頼する
NPS®調査は適切に実施しなければ、十分な成果は得られません。しかし、アンケート設計や回答の分析には、専門的なスキルが求められます。
社内に知見や経験のある従業員がいない場合、NPS®調査の専門家に依頼しましょう。一通りの調査・分析はもちろん、改善施策の立案までサポートしてくれるため、非常に心強い存在です。
専門家に依頼する際は費用がかかりますが、従業員に必要なスキルを習得させる際もコストは発生するので、時短できる分だけ前者のほうがスムーズに実施できるでしょう。
また、NPS®調査の効率化・高精度化を図るために、専用ツールを導入するのも一案です。
売上と相関があるNPS®の有効活用をサポートする NTTコム オンラインの「NPS®ソリューション」
NTTコム オンラインでは、NPS®のスムーズな導入および効果的な活用をサポートする「NPS®ソリューション」を提供しています。
主なサービスの概要や企業の導入事例を紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
NPS®における全フェーズをサポートする「NPS®調査・コンサルティング」
NPS®ソリューションでは、NPS®の本格導⼊を支援するために「NPS®調査」を実施しています。専門的なスキルを持つNPS®認定資格者がアンケート設計や実査、レポートなど一通りサポートするサービスです。
業界内のポジションや優先改善項目を調べる「NPS®ベンチマーク調査」や、NPS®の有効性を調べる「NPS®アセスメント調査」なども実施しています。収益性との相関、推奨者・批判者の経済的な価値などを検証するサービスです。
さらに、高いロイヤルティの要因分析や優先改善項⽬の把握など、改善施策のための調査もサポートしています。ブランドロイヤルティ調査では、以下のような価値を提供しています。
- 4つの品質保持(モニター・調査票・アンケートシステム回答結果)を柱とした「クオリティポリシー」に基づく徹底した品質確保
- 自社の位置づけや課題を把握し、ブランド価値向上に効果的なアクションにつなげる
- 自社の認知度向上や新規顧客獲得に向けた戦略立案
また、NPS®にまつわる4つのフェーズ(導入・定着・活用・拡大)をコンサルタントがサポートする「NPS®コンサルティング」も有用です。
NPS®運用の効率・精度を高める「NPS®分析・顧客体験管理ツール」
NTTコム オンラインでは、AI活用による顧客体験管理プラットフォーム「クアルトリクス」を提供しています。
クアルトリクス(顧客体験管理ツール)は、カスタマージャーニーを直接把握することで、顧客管理を強力にサポートできます。オムニチャネルによるユーザーインサイトの分析、顧客体験の一元管理などにも対応可能です。
導入事例|株式会社 ジャルパック 様
株式会社ジャルパック様は、旅行業界において高い顧客満足度を獲得している企業です。しかし、顧客満足度をさらに1%向上させることは実効的ではないと判断し、NPS®を採用しました。
NPS®調査は11段階と評価の幅が広いうえ、回答結果にばらつきが出やすいため、今まで表面化していなかった課題が見えるようになったとのことです。また、NPS®と他のデータの相関を可視化することで、改善の優先順位をつけられるようになったといわれています。
NPS®は売上との相関関係がある活用すべき指標
今回は「NPS®の向上は本当に企業の成長につながるのか?」というテーマで、各種調査から具体的な数字を引用して、「NPS®と企業の成長との関係」、「推奨者と批判者のライフタイムバリュー」、「NPS®向上による業績へのインパクト」についてご紹介しました。これらの調査結果から、「推奨度」ひいては「NPS®」には一定の有用性があると考えられるのではないでしょうか。加えて、単純で、わかりやすく、回答者に負担をかけずに回収できるという特徴は、ビジネスで使う上でも有用と言えるでしょう。
細かい数字や見慣れない算出モデルがあり、入門編としては若干難しかったかもしれませんが、数字により顧客セグメント毎のLTVやNPS®向上によるインパクトを把握しておくことは、経営層の理解を得ながらスムーズな導入を進める上で必要不可欠です。そして、これらの調査結果はNPS®が有用なものであるというひとつの根拠ではありますが、NPS®導入にあたっては現状把握も含め、自社における有効性検証を行ってみてはいかがでしょうか。
NTTコム オンラインでは、NPSリサーチにて競合他社とのベンチマーク調査および推奨度ごとの経済的価値の検証をご提供しています。ご興味のある方は是非お問合せください。
また、NPS®の導入・活用に役立つNPS®ソリューションも要チェックです。
【
NPS®(ネットプロモータースコア)入門・導入編
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