更新日:2024/06/06(公開日:2017/04/26)
NPS®(ネットプロモータースコア)入門・導入編
NPS®調査から得た顧客の声は宝の山!?アクションドライバー分析が改善アクションのカギ
NPS®調査を実施し、スコアを出すだけで満足している企業もあるかもしれません。しかし、NPS®を業績の向上に活かすためには、集めたデータをしっかりと分析し、施策に役立てることが大切です。
本記事では、NPS®調査で使用する定性分析・定量分析の特徴や、アクションドライバー分析などについて詳しく解説します。NPS®を顧客分析に活かすポイントも紹介するので、調査の分析精度を高めたい企業の担当者さまは、ぜひ参考にしてください。
- NPS®の分析結果には課題を解決するためのヒントが隠されている
- 「アクションドライバー分析」によって効果的な改善アクションが明確になる
- NPS®を顧客分析に活かすには「カスタマージャーニーから調査項目を洗い出す」「ドライビングファクターの仮説からアンケート設計を行う」「定性分析と定量分析を合わせて精度を高める」などがポイント
NPS®アンケートから読み取れるのはスコアだけではない!
アンケートを実施した後、自社や自社サービスのNPS®を算出しただけで満足していませんか?
調査・アンケートから得られた顧客の声には、改善すべき課題を見出すことにつながる重要なヒントが含まれています。ただし、すべての課題を改善していくことは、リソース面、コスト面を考えると不可能に近いと言わざるを得ません。
そこで、たくさんの課題から、NPS®向上を阻んでいる項目を抽出し、優先的に改善していく必要があります。具体的な効果や成果につながる改善アクションを効率的に実施するためにも、改善すべき課題に優先順位を付けていきましょう。
アフターコーディングを用いたポジティブ・ネガティブ分析【定性分析】
まずは、「定性分析」と「定量分析」の特徴について見ていきましょう。定性分析とは、コメントなどの数値で表せないデータをもとに分析する手法です。「なぜそのような評価をつけたのか理由を教えてください」といった自由記述の設問に対する、「スタッフの対応が良かった」「商品の使用感が改善されていた」などの回答を分析します。
一方の定量分析とは数値データをもとに分析する手法で、推奨度のスコア分析やアクションドライバー分析などに活用されます。客観的な数値に基づいて統計的に分析できるのが特徴ですが、回答者の個々の状況に応じた調査回答の理由などを把握しにくい点はデメリットといえます。ここでは、定性分析に該当するアフターコーディングとポジティブ・ネガティブ分析について解説します。
アフターコーディングとは?
アフターコーディングとは、定性的な情報を定量的に分析可能な状態にまとめる方法です。集めた自由回答をコード化して分類し、視覚的にわかりやすく整理できます。例えば、飲食店でお客様アンケートを実施し、以下のような回答を得たとしましょう。
- 店内は清潔で気持ち良い
- 店内がきれいで、特にトイレが清潔だった
- スタッフの対応が好印象だった
- 価格が手頃でリピートしたい
- 料理が美味しくて満足感がある
これらを以下のようにコード化します。
回答 | 大分類コード | 小分類コード |
---|---|---|
店内は清潔で気持ち良い | 店舗 | 清潔 |
店内がきれいで | 店舗 | 清潔 |
スタッフの対応が好印象 | スタッフ | 対応良し |
価格が手頃で | 価格 | リーズナブル |
ケーキが美味しくて | 味 | 美味しい |
なお、コード化でどのような項目を抽出して分類するかは分析者の判断によります。複数の回答を定量化することで、全体の傾向や顧客が重視しているポイントが明確になります。
ポジティブ・ネガティブ分析とは?
アフターコーディングを用いた分析手法の一つにポジティブ・ネガティブ分析があります。ポジティブ・ネガティブ分析とは、アンケートから得た回答を「ポジティブ(肯定的)な意見」と「ネガティブ(否定的)な意見」にわけて傾向を分析する手法です。ユーザーの感情にフォーカスする特性から「センチメント分析」や「感情分析」とも呼ばれます。
ユーザーが企業や商品、サービスにどのような感情を持っているかを把握することで、ユーザー心理に適った改善を行えます。ポジティブな意見はもちろん、ネガティブな意見もマーケティングに活かせるでしょう。
以下は分類の一例です。
推奨度 | 回答 | ポジティブ | ネガティブ |
---|---|---|---|
9 | スタッフの対応がとても良かった | 1 | 0 |
5 | 商品数が多すぎてどれがよいのかわからない | 0 | 1 |
8 | 購入前は商品の説明がわかりにくく不安だったが、購入後のフォローが手厚くてよかった | 1 | 1 |
2 | お客様サポートセンターへ電話がなかなかつながらなかった | 0 | 1 |
ポジティブ・ネガティブ分析をする際、性別や年代などの顧客情報も合わせて記載しておくと、多様な分析が可能になります。
効果的な改善アクションにつながるNPS®調査の分析手法は「アクションドライバー分析」【定量分析】
分析では、NPS®向上に大きな影響を与える要因を特定するために、ドライバーチャートという4象限の図を活用します。 ドライバーチャートは、各項目の満足度と推奨度の相関関係から、各項目が推奨度(ロイヤルティ)にどの程度影響を与えているかを表しています。 相関係数と満足度の平均によってエリアを4象限に分け、各項目がどのエリアに配置されているかを捉えましょう。ロイヤルティに与える影響度に沿った優先順位を踏まえたうえで改善施策を実施することが、推奨度(NPS®)の向上につながるのです。
※ 縦軸⾚線は相関係数の平均、横軸⾚線は満⾜度の平均
4象限の各エリアは以下を意味しています。
- 重点維持項目(強み=ロイヤルティ醸成のポイント)
満足度が高く、かつ、推奨度への影響が大きい。重点的に維持していかなければならない項目。 - 優先改善項目(弱み=ロイヤルティ阻害要因)
推奨度への影響が大きいにもかかわらず、満足度が平均以下の項目。
ロイヤルティ醸成を阻んでいる項目で、左上に位置するほど緊急性が高く最も優先的に対策が必要。 - 基本維持項目(基本価値=ベースとなっている価値)
満足度が高いものの、推奨度への影響度は高くない項目。
ここに位置する項目については、顧客が「あって当たり前」という認識を持っている場合が多い。 - 観察・注意項目(取捨選択して様子見)
推奨度への影響度・満足度ともに低い項目。
現状の推奨度への影響度合いは1. 2. 3. に比べて低いものの、施策やメッセージ、時勢等によってポジションが変化していく可能性が高いため、継続的に監視が必要。
このような分析を行うと、ドライバーチャート上で各項目の優先度が一目瞭然となるため、優先度の高い項目から効率良く改善アクションを実施していくことができるでしょう。
【関連記事】
NPSの分析方法とは?定量分析・定性分析の具体的な手法を解説
アクションドライバー分析により推奨度への影響度が明確化した事例
下図は、2016年にNTTコム リサーチで実施した、「NPS®ベンチマーク調査(生命保険業界)」の結果を分析した、ある生命保険企業2社のドライバーチャートです。
明らかに1.の重点維持項目エリアに項目が多いA社に対し、B社は2.の優先改善項目エリアに多くの項目が含まれています。この結果からもわかるように、実際にNPS®はA社のほうが高く出ており、Bは低く出ています。同じ業界にもかかわらず、会社によってこれほど違うチャートになるのです。
共通点として読み取れるのが、生命保険に加入している顧客にとって、最も推奨度への影響の大きな項目が「アフターフォローの手厚さ」となっている点です。B社ではその項目の満足度が平均以下になってしまっており、優先的に改善が必要であると読み取れます。
このように、例えば「アフターフォローの手厚さ」がロイヤルティ向上のカギになることがわかれば、その改善・維持強化にフォーカスするといったアクションをとることができます。
このようにNPS®調査の分析においては、専用ツールやプラットフォームを導入することで改善点を簡単に見える化でき、関係者への共有もスムーズに行えます。NPS調査を委託する際にも、レポートから改善点がわかりやすい形になっているかを確認することが望ましいでしょう。
NPS®を顧客分析に活かす5つのポイント
ここからは、NPS®を顧客分析に活かす5つのポイントを見ていきましょう。
1|カスタマージャーニーを作成し調査するべき要素を洗い出す
NPS®調査を行う前に、カスタマージャーニーを用いて各フェーズで調査するべき要素をもれなく抽出することが重要です。例えば顧客がECサイトで商品を購入する場合、フェーズとして挙げられるのは「ECサイトを見つける」「ECサイトで商品を購入する」「購入後に商品を使用する」などです。
「サイトを見つける」フェーズでは、企業やブランドがサイトについての告知を行うSNSやメルマガなどに関する調査、「商品を購入する」フェーズではサイトそのものについての調査を行うことが望ましいでしょう。カスタマージャーニーを作成し調査するべき要素を洗い出すことで、一連の顧客体験の中でどの部分に課題を抱えているのかを明確にすることができます。
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企業成長を導く「顧客体験(CX)」とは?その重要性と高める方法や事例を紹介
2|ドライビングファクターの仮説を立てアンケートを設計する
NPS®を顧客分析に活かすためには、ドライビングファクターの仮説を立ててアンケートを設計することが効果的です。ドライビングファクターとは、顧客ロイヤルティ(NPS)に影響を与える要素のことで、カスタマージャーニーから要素を抽出します。タッチポイントごとに要素を洗い出して仮説を立て、アンケートを作成しましょう。
例えば、ユーザーが商品の購入を検討しているフェーズでは、「Webサイトでの商品紹介の充実度」や「店舗スタッフの提案力」などが重要だとの仮説が立てられます。これらの仮説をもとに、以下のような設問を作成します。
- Webサイトにおける商品紹介はわかりやすく、充実していますか?
- 店舗スタッフの提案には満足できましたか?
3|定性分析と定量分析を合わせて精度を高める
定性分析と定量分析ではデータの性質や範囲が異なるため、両方を合わせた調査を検討することで分析の精度を高めることができます。定性分析は数値だけでは測れないコメントや評価理由の傾向を把握でき、質的データを深掘りできる点もメリットです。一方、数値で示せないぶん、それぞれの受け取り方によって認識にばらつきが出るのはデメリットです。
定量分析は数値で示せるため、客観的な事実に即し分析できる点はメリットですが、コメントなどの数値以外の回答結果を判断できないのはデメリットといえます。例えば、「この商品をリピートしたいと思いますか?」という質問に対し「また買いたいとは思わない」という回答があった場合、「それがなぜなのか」理由までは分析できません。定性分析と定量分析どちらも実施することで、互いのデメリットを補い分析の精度を高めることができます。
4|結果から得られた仮説を次回の調査に反映する
NPS®の調査結果から新たな仮説が得られることもあります。例えば、アンケートの質問にない要素が自由記述の回答にあった場合、そこに企業が見過ごしていた要素が含まれている可能性があります。
分析で判明した優先すべき課題は、個別にインタビューをするなどして深掘りするとよいでしょう。結果から仮説を得たら、次回の調査に活かすことが大切です。
5|NPS®調査の外部委託や運用ツールの導入を検討する
NPS®調査は自社で行うこともできますが、アンケートの設計や配信、回収、分析などの手間がかかります。また、アンケートの設計や分析手法を誤ると十分な効果が得られない恐れがありますが、調査を外部委託することで調査の効率化、分析の高精度化ができます。レポーティング・納品まで行ってもらうことで社内のリソースは最小限で済むでしょう。
また、調査対象や部門が多い場合は、NPS®の運用ツールを活用することで大幅に効率化できるうえ、分析の精度も高められます。ツールによっては、分析結果の可視化やダッシュボードによる組織内での共有などに対応しているものもあります。
NPS®のアンケート実施・分析に有効な「NTTコムオンラインのNPS®ソリューション」
NTTコムオンラインではNPS®のレポーティングから調査、NPS®ツール・顧客体験プラットフォームのご提供から導入支援までラインナップをご用意しています。
CX改善に特化したツールでは優先課題の把握が容易に行え、改善点を示唆するコメントを得た場合は迅速なフォローアップも実現しています。また、自社で運用が効率的に行えるように調査の設計や体験改善の示唆出しなどの伴走支援を提供しています。
NTT コムオンラインはNPS®調査の代行も行っています。NPS®調査では、公認資格を持つ弊社コンサルタントが調査設計を支援します。収益性との相関や、推奨者・批判者の経済的な価値の検証など有効性の検証にも対応可能です。さらに、高いロイヤルティの要因分析・優先改善項目の把握など、改善アクションのための調査支援を行っています。
また、業界別のNPSベンチマーク調査や、NPSを全社に浸透させるための個別勉強会やセミナーなど幅広いソリューションをご用意しています。
導入事例|トレンドマイクロ株式会社 様
コンピュータおよびインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売を手掛ける「トレンドマイクロ株式会社」様は、NPS® をより実効的な指標として活用するべくNPX Proを導入されました。同社は以前、NPS®調査を実施していたものの、結果をどう改善につなげればよいかがわからなかったそうです。
NPX Pro導入後は、NPX Proのドライバーチャートによって「何をするべきか」が明確になったといいます。また、当初の目標どおり、ツールの活用によりNPS®が会社全体で追っていける指標になったことにも満足されています。
成果を出すNPS®活用のために
NPS®導入の効果を実感できない原因は、NPS®を調査するだけにとどまっていることにある場合がみられます。
アンケートを分析した上で改善アクションへとつなげることで初めて、その効果を実感できるようになります。
しかし、多くの企業が、NPS®を調査しているものの、具体的な改善アクションを実施することができず、足踏みしてしまっているのが実情です。
NPS®が世に登場してから、約10年が経過しました。とはいえ、顧客満足度とは異なり調査や分析に必要な知識やノウハウといったものが国内ではまだ十分に広まってはいません。そのため、「調査結果をどのように活かせば良いかわからない」「改善アクションにつなげるための体制が整っていない」といった状況に陥っている企業が少なくないのです。
NPS®で成果を出すためのポイントについて、ダウンロード資料『NPSは“測っただけ”では意味がない! 成果を出すNPS活用のための“6つのポイント”』でさらに詳しく解説しています。「NPS®導入の効果を実感できない」とお悩みの方は、ぜひご一読ください。
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