2023/01/12

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顧客本位の業務運営に関する原則(改訂版)7つの原則内容を紹介

「顧客本位の業務運営に関する原則」とは、金融事業者に対し顧客へ良心的な商品・サービスの提供や、わかりやすい情報提供を行うために定められたガイドラインです。顧客利益の追求や手数料の明確化、顧客への情報提供など7つの具体的な原則が掲げられていますが、その内容についてあまり理解できていないという方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、顧客本位の業務運営に関する原則の概要や背景、目的などについて解説し、あわせて各原則の内容を紹介します。

顧客本位の業務運営に関する原則(改訂版)とは

まずは、顧客本位の業務運営に関する原則の概要や背景、その目的などについて見ていきましょう。

原則の概要

「顧客本位の業務運営に関する原則」とは、顧客本位の業務運営を行う良質な金融事業者が、ベスト・プラクティスを目指すうえで有益と考えられる原則です。一般的には銀行、金融商品取引業者、保険代理店などが対象となりますが、金融に関わるビジネスであれば適用対象になり得ます。この原則には、守るべき行為を具体的に定める「ルールベース・アプローチ」ではなく、原則のみを提示してあとは自主的な取り組みを促進する「プリンシプルベース・アプローチ」が採用されています。

この原則は法的拘束力を持つものではなく、従わないことによって罰則や行政処分の対象にはなりません。また、一部の原則を実施しないことが認められる「コンプライ・オア・エクスプレイン」も採用しています。原則に沿ったフィデューシャリー・デューティー宣言を行うことで、顧客からの信頼獲得につながると期待されています。

関連記事:フィデューシャリー・デューティー宣言とは?押さえておくべき基礎情報と改善ツール

制定された背景

2016年4月19日の金融審議会総会において、日本の市場・取引所を巡る諸問題について幅広く検討を行う諮問が行われました。この諮問を受けて市場ワーキング・グループが設置され、審議後12月22日に報告書を公表。従来行われていた投資者保護の取組みは最低基準(ミニマム・スタンダード)ではあったものの、形式的・画一的な対応を助長する要因になっていたとの指摘もあり、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現が望ましいとされました。

また、報告書では原則に盛り込む事項についても提言され、2017年3月30日に顧客本位の業務運営に関する原則が策定されました。なお、2021年1月15日には改訂が行われています。

金融事業者リストの公表

金融庁は、原則を採択して取り組み方針を示した金融事業者を「金融事業者リスト」に掲載し、定期的に公表しています。事業者の掲載期間は1年間となり、令和4年10月7日時点の業態別掲載者数は以下のとおりです。

  • 都市銀行:24者
  • 地方銀行:49者
  • 共同組織金融機関:26者
  • 保険会社等:230者
  • 金融商品取引業者:116者

(計445者)

また、リストへの掲載要件となるのは以下の2点です。

  • 原則2~7(注を含む)で示されている内容を実施する場合はその対応方針を、実施しない場合はその理由や代替策を盛り込むこと。また、実施した取り組み状況をホームページなどで確認できること
  • 報告時の記載事項について、空欄や記載誤りなどがないこと

出典:金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づく取組方針・取組状況を公表した 金融事業者リスト(令和4年6月末時点)及び投資信託・外貨建保険の共通KPIに関する分析(令和4年3月末基準)等の公表について

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顧客本位の業務運営に関する7つの原則

ここからは、顧客本位の業務運営に関する7つの原則それぞれについて詳しく解説します。企業の具体的な取り組み例もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

原則1:顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等

原則1では、金融業者に対して顧客本位の業務運営を実現するための方針の策定・公表・定期的な見直しを求めています。方針の内容や比重を置く項目は、金融商品の販売や商品開発、資産管理・運用、インベストメント・チェーンのどれを取り扱うかによっても変わってきます。

たとえ同じ業態であっても方針は画一的な内容にならず、それぞれのビジネスの状況に応じた方針を策定することが必要です。ただし、ビジネスモデルに共通点がある事業者のグッドプラクティスを参考にし、自社の取り組みに反映させるなどは良いでしょう。また、一度策定した方針は維持すれば良いというものではなく、事業環境などの変化に合わせて定期的な見直しをすることも重要です。

関連記事:5分で読めるフィデューシャリー・デューティー徹底解説~基礎知識から取組み事例~

注記

原則1の注記では、直接取引を行う顧客だけでなく、インベストメント・チェーンにおける最終受益者としての顧客も想定する方針を決定するべきと明記されています。ちなみに最終受益者とは、年金基金の顧客である場合は年金受給者にあたります。

原則2:顧客の最善の利益の追求

原則2は、金融事業者が顧客に対して公正・誠実に業務を行うことで、顧客の最善の利益を追求することを求めるものです。同時にそれらは一時的なものでなく、長期的に定着させなければいけません。原則における中心的な概念といえるでしょう。

社内研修を通じ、社員に対してフィデューシャリー・デューティーの方針や行動規範に基づく判断・行動の徹底を図る、顧客の声をアンケート形式で集めて改善策を検討するなどが具体策として挙げられます。また、顧客のニーズやライフサイクルに応じ、運用商品のみならず貸出や相続・資産継承などのサポートを提案することも一例です。

参考:MUFG「お客さま本位の業務運営(三菱UFJ銀行の取組内容)」

注記

原則2の注記には、顧客の最善の利益を追求することによって、安定した顧客基盤と収益の確保を目指すべきとあります。

原則3:利益相反の適切な管理

原則3では、顧客と金融事業者が取引を行う際、双方または他の顧客との利益が相反する可能性があることを示唆しています。それを前提としたうえで、金融事業者に利益相反の把握と適切な管理を求めるものです。

利益相反の管理は金融商品取引法や銀行法などでも規定されていますが、適切に管理されないことで顧客に不利益が及ぶことを危惧し、この原則にも加えられていると考えられます。

具体的には、利益相反の可能性がある取引やその特定方法、管理方法、管理体制、利益相反の類型などを定めたり、さまざまな保険会社や投資運用会社などから商品アイデアを募って顧客の利益を追求できる商品・サービスを選定したりなどが必要でしょう。

参考:三井住友フィナンシャルグループ「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」
MUFG「お客さま本位の業務運営(三菱UFJ銀行の取組内容)」

注記

原則3の注記では、利益相反の影響を受けやすい具体的な場面として以下を想定しています。

  • 販売会社が顧客へ金融商品の販売・推奨などを行う際に、当該商品の提供会社から委託手数料等の支払を受ける場合
  • 販売会社が同一グループに属する別の会社から提供を受けた商品を販売・ 推奨などの場合
  • 同一主体又はグループ内に法人営業部門と運用部門を有し、当該運用部門が資産の運用先に、法人営業部門が取引関係等を有する企業を選ぶ場合

これらの場面では、特に利益相反の管理に注意が必要でしょう。

原則4:手数料等の明確化

原則4は、顧客に対する貯蓄性保険の販売手数料の開示や、その他費用の情報開示を求めるものです。情報開示によりサービスの透明性が高まり、顧客が金融事業者を比較できるようになることなどが期待されています。実際に金融商品取引法上、契約締結前交付書面に手数料等の記載が求められるなど、すでに手数料等の開示が必要となるケースもあります。

ただし、原則では開示方法や対象となる費用の範囲が具体的に定められているわけではなく、各事業者の判断に委ねられているという現状です。具体的には、自社サイトに「商品・サービスの開発・品質向上、各種情報の提供、インフラ関連などの費用を勘定し手数料をいただいております」といった内容を掲載し、顧客へのわかりやすい情報提供に努めることなどが期待されています。

また、商品やサービスごとの手数料を明確にするため、重要情報シートを導入してよりわかりやすく丁寧に説明を行う事業者も見られます。

参考:三井住友フィナンシャルグループ「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」
MUFG「お客さま本位の業務運営(三菱UFJ銀行の取組内容)」

原則5:重要な情報の分かりやすい提供

原則5では、顧客に対する重要な情報のわかりやすい提供を求めています。金融取引に際しては個別具体的に顧客への説明義務が定められているものの、とても重要な内容であることから、原則の一つにもなっていると考えられます。

フィデューシャリー・デューティーの重要性が高まるなか、商品・サービスのメリットだけでなく、リスクや不確実性、手数料などのデメリットについても誠実に情報提供していく姿勢が必要です。ただ形式的に書面を渡して読み上げるだけではなく、相手がしっかりと理解できるように情報提供の方法を工夫することが重要になります。

例えば、紙媒体の資料やホームページなどで伝わりやすいデザイン、見やすいデザインを取り入れるのも一例です。また、わかりやすい情報提供の取り組み自体だけでなく、その取り組みを検証・評価できるシステムの導入などもおすすめです。なお、各事業者のサービス内容が違うことから、顧客へ提供する重要な情報は各金融事業者がそれぞれ判断することとなっています。

注記

原則5の注記は以下の5つです。

注1:重要な情報には以下の内容が含まれるべきである

  • 顧客へ販売する金融商品・サービスの基本的な利益、損失その他のリスク、取引条件
  • 金融事業者が想定する顧客属性
  • 顧客へ販売する商品・サービスの選定理由
  • 顧客へ販売する商品・サービスに関して、顧客との利益相反の可能性がある場合にはその具体的な内容、および業務・取引に及ぼす影響

注2:複数の商品・サービスをパッケージとして販売・推奨する場合は、個別商品・サービスの購入可否を示し、顧客が比較できるよう情報提供するべきである

注3:顧客の金融知識や取引経験などを考慮し、簡潔でわかりやすく、誤解を招くことがないよう情報提供を行うべきである

注4:商品・サービスの複雑さに見合った情報提供をわかりやすく行うべきである。より複雑でリスクの高い商品・サービスの場合は、顧客の理解へ配慮した資料を用いるなど、よりわかりやすく丁寧な情報提供となるよう工夫するべきである

注5:顧客へ提供する情報は重要性に応じて区別し、より重要な内容のものは特に強調するなどして顧客の注意を促すことが必要である

原則6:顧客にふさわしいサービスの提供

原則6は、顧客にふさわしいサービスの提供を金融事業者に求めるものです。顧客へ金融商品やサービスを販売・推奨する際には、顧客の属性や取引の目的をきちんと把握しておくことが重要。保険を販売する際の意向把握義務や適合性の原則などを踏まえ、顧客に明確にわかりやすく説明することが求められています。

金融事業者は、顧客に最適なサービスであるか、情報提供のあり方などをいま一度慎重に検討する必要があるでしょう。具体的にはパンフレットやホームページ、各種コミュニケーションツールを活用した知識向上のための情報提供や、顧客向けセミナーの開催などが挙げられます。

参考:MUFG「お客さま本位の業務運営(三菱UFJ銀行の取組内容)」

注記

原則5の注記同様、原則6にも詳細な5つの注記があります。

注記1:顧客に販売・推奨する商品・サービスが当該顧客にふさわしいかに留意すること。具体的な要素は以下の通りです。

  • 顧客の意向を確認し、顧客のライフプランなどを踏まえたうえで金融商品・サービスの提供を行うこと
  • 類似商品・サービス、代替商品などを比較しながら提案すること
  • 商品・サービスの販売後は長期的視点で適切なフォローアップを行うこと

上記が定められています。

注記2:商品の特性を踏まえ、販売対象となる顧客の属性を特定してそれに沿った販売を行うこと

注記3:金融事業者は商品の組成にあたり、商品の特性を踏まえて、顧客属性を特定・公表すべきである、またそれに沿った販売を行うべきである

注記4:特にリスクが高いまたは複雑な商品を扱う場合や、金融取引被害を受けやすい属性の顧客グループに対しては、当該顧客に対しその商品の販売・推奨が適当かを慎重に検討するべきである

注記5:金融事業者は自分たちが取り扱う商品について知識を深め、顧客が金融取引に関しての基本的知識を得られるように積極的に情報提供をするべきである

原則7:従業員に対する適切な動機づけの枠組み等

原則7は、顧客本位の業務運営を実現するために必要となる、従業員に対する動機づけの枠組みやガバナンス体制の整備を求めるものです。従業員の動機づけにはさまざまな方法がありますが、多くの企業で取り入れられているのが報酬・業績評価ではないでしょうか。

ただし、過度な報酬は顧客の利益に反した取引や企業の利益を優先する状況を招く可能性もあるため、バランスの取れた報酬・業務評価体系を確立することが必要でしょう。また、ガバナンス体制の整備は企業規模や業態によっても異なるため、顧客本位の業務運営のあり方を管理する部署を設置するなども具体策の例です。

注記

原則7の注記には、各原則や注記に関し、従業員に対して実施する内容もしくは実施しない場合の代替策の内容を周知することとあります。また、従業員の業務を支援・検証するための体制を整備すべきであるとされています。

顧客本位の業務運営に関する原則のまとめ

今後ますます、企業は顧客への分かりやすい情報提供に努め、フィデューシャリー・デューティーを果たすことが求められるでしょう。特に金融事業者と顧客間に起こり得る情報の非対称性を解消するため、この記事で紹介した7つの原則を遵守することが必要になります。金融商品・サービスのメリットだけでなくデメリットもきちんと明示する、利益相反の適切な管理を実施するなど、顧客の利益を真摯に追求する姿勢が求められています。

また、遵守への取り組みと同時に、施策の評価を適切に行わなければなりません。そのために活用をおすすめするのが、顧客のロイヤルティを測る指標である「NPS」です。NPSは、金融庁の顧客意識調査のKPIとしても活用されている有用な指標として知られています。

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